とある恋人たちの日常。

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8/19/2024, 1:24:48 PM

 
 彼女は終業後、カフェで恋人の青年と待ち合わせをしていた。
 彼が車かバイクのどちらかで迎えに来ることになっている。
 
 窓際で座っていて、彼女は窓から彼を探しつつ、ちらりちらりと空を覗いた。
 
 数刻前までは爽やかな青空だった。それが少しずつ空の色合いが暗くなる。もちろん陽が落ちてきているのもあるが、明らかにそれとは違う嫌な暗さ。
 
 落ち着こうとクリームソーダを口に含む。
 
 だが彼女は、再びそわそわしながら空模様と道路状況を繰り返して見ていた。
 
 ふう、とため息をついた。
 
「彼が来るまで雨が降りませんように……」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:空模様

8/18/2024, 1:06:33 PM

 今日の集合は、ドレスコードがあるもの。TPOに合わせて青年も彼女も支度を進めていた。
 
 青年は洗面所の鏡の前で、滅多に使わないワックスを使用して前髪を後ろに流していた。柔らかい髪の毛が、ふんわりとしつつもワックスによって形作られる。
 
「コレでよし!」
 
 あと、ジャケットを羽織れば青年はいつでも出掛けられる。
 恋人の彼女は部屋から出てこない。
 
「あ、洗面所、空けたよー」
「はーい、ありがとうございます!」
 
 彼女はお化粧道具とアクセサリーを持って洗面所に入る。
 髪の毛を軽く直しながら、鏡に向かって色々しているようだった。
 
 大人しく待つつもりの青年だが……ソファに座りつつも身体がジッとできない。彼女の様子が気になってしまうのだ。
 
 こんなふうにドレスコードのあるお出掛けをするのは始めてで、彼女の着ていた服も初めて見るものだったから。
 
「すみません、ネックレスが上手く付けられないので助けてくださいー」
 
 洗面所から助けを呼ぶ彼女の声を聞き、青年は洗面所にいる彼女の後ろに立つ。
 そして、彼女から見覚えのあるフェルト生地の縦長のケースを渡された。
 
「今日のドレスに似合うと思って……」
 
 ほんのりと頬を赤らめながら彼女は微笑む。
 これは以前、彼女に似合うと贈ったアイスブルーダイアモンドのペンダント。
 
 確かに今日の彼女の薄水色のドレスにはピッタリだった。
 
 彼女の首にペンダントを付けてあげた後、鏡に映った彼女に目を奪われた。
 
 ほんのりとお化粧をして、いつもの愛らしさよりは大人っぽくて、誰よりもきれいだと思ってしまった。
 
 そして、首元を飾るのは自分が贈ったペンダント。
 
「どうしましたか? 変……です?」
 
 彼女が眉間に皺を寄せ、不安な顔で青年を見上げてくる。ほんの少しだけ開いてしまった口をきゅっと閉じて、彼女を後ろから抱き締めた。
 
「変じゃないよ。すっごく、すっごくきれい」
 
 彼女の肩に顔を埋め、抱き締める腕に力を入れた。
 
「誰にも見せたくないくらい、きれい」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:鏡

8/17/2024, 12:58:15 PM

 部屋の中にひとつ、特別な箱がある。この箱には彼からもらったものが全部入っていた。
 最初に貰ったものは、この箱に入らない少し大きなもので、クローゼットに立て掛けてある。それはスケートボード。
 
 あれから何度も使ってボロボロになっていて、新しいものを買っている。それでもこのスケートボードは宝物で、いつまでも捨てられないものだ。
 
 時々、恋人がこのスケートボードを見て苦笑いする。
 
「こんなボロボロになったの、取っておかなくて良いよ。また買ってあげる」
 
 そう言ってくれるが、彼女は断っている。
 
「これが良いんです」
 
 そう返して、スケートボードを優しく撫でた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:いつまでも捨てられないもの

8/16/2024, 1:22:03 PM

 俺の仕事は救急隊員で、人を救助することだ。
 今日は病院待機で、外来も対応する。
 
 順番で来たのは二人の女性。ひとりは俺の大事な人と、彼女の同僚だった。
 
「あれ!? 二人ともどうしたの?」
「修理している彼女の横を通っちゃって……」
「間違って殴っちゃいました」
「うわ、ご愁傷さま」
 
 彼女たちは車の修理をする中で、近くを通った同僚を殴ってしまったらしい。
 修理をする会社は人気で、ひっきりなしにお客さんが来る。その割には会社は狭いので、なにかの際に怪我人を……よく出す。
 それこそ、救急で呼ばれて地図を確認した時、住所の一部を聞いてすぐ彼女の職場だとパターン化するほど。
 
 今日は彼女がうっかりと怪我をさせてしまい、責任を感じて、同僚の付き添いできたということか。
 
「じゃあ、診るね」
 
 俺は彼女の同僚を診察した。彼女の怪我の具合を確認しながら治療する。
 
「はーい、これでオッケーだよ」
「ありがとう、先生」
「ありがとうございます! あ、治療代は私にください」
「え、良いよ」
「ダメだよ、私がやっちゃったんだし」
 
 俺の恋人は同僚への言葉を聞いて、小さく笑ってしまった。そして、請求書は恋人へ渡す。
 
「はい、お願いね」
「ありがとうございます、受け取りますね」
 
 治療が終わり、丁度休憩の時間になるので、二人を見送ろうと一緒に診察室を出ようとする。俺は診察室の扉を開け、二人を外に促した。
 恋人の同僚が先に診察室を出て、恋人が俺の前を横切ろうとした時、そっと俺の指に彼女の指が絡まる。
 
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
 
 見上げる視線が魅力的で、抱き締めたい気持ちになる。けれど流石に我慢した。
 
 するりと指が抜けていくと、少しだけ寂しさを覚えた。
 
「また、夜にね」
「はい、いつも助けてくれて、ありがとうございます!」
 
 彼女の言葉に心が温かくなった。
 
 危険なこともあるけれど、こうやって身近な大事な人を助けることもできる。
 俺の誇らしき仕事だ。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:誇らしき

8/15/2024, 1:46:25 PM

 恋人たちが明るい夜の砂浜に歩みを進めると、ぬるい風が肌に当たる。うっすらと汗ばむくらいの気温。それでもふたりは、繋いだ手を離すことはなかった。
 
 空を見上げると、大きな満月と星が広がる。
 きらきらと輝く星々と、風に煽られて奏でる海の音楽は、この世界にふたりだけしか存在しないような錯覚に陥るほどだった。
 
 彼女は恋人の青年を見つめる。
 
 月の光に照らされた青年の顔は、普段見られないほど凛々しくて、いつも以上に心がときめいた。
 
 青年が彼女の視線に気がついたのか、太陽のような目映い笑顔で彼女を見つめる。
 
「どうしたの?」
「……大好きだなって」
 
 青年は頬を赤らめる。
 
 月が満ちると、隠せるものが無くなるほど夜は明るい。彼女は照れた青年の姿を見られたことが嬉しくて、月に感謝した。
 
「えっと。へへ、俺も大好きだよ」
 
 繋いでいた手が少し緩くなる。すると青年が指を一本一本絡めて恋人繋ぎをしてくれた。
 それは、彼女に〝愛しさ〟を伝えてくれるよう。
 だから彼女も、同じ気持ちが届くように祈りながら、指に力を込めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:夜の海

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