とある恋人たちの日常。

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 俺の仕事は救急隊員で、人を救助することだ。
 今日は病院待機で、外来も対応する。
 
 順番で来たのは二人の女性。ひとりは俺の大事な人と、彼女の同僚だった。
 
「あれ!? 二人ともどうしたの?」
「修理している彼女の横を通っちゃって……」
「間違って殴っちゃいました」
「うわ、ご愁傷さま」
 
 彼女たちは車の修理をする中で、近くを通った同僚を殴ってしまったらしい。
 修理をする会社は人気で、ひっきりなしにお客さんが来る。その割には会社は狭いので、なにかの際に怪我人を……よく出す。
 それこそ、救急で呼ばれて地図を確認した時、住所の一部を聞いてすぐ彼女の職場だとパターン化するほど。
 
 今日は彼女がうっかりと怪我をさせてしまい、責任を感じて、同僚の付き添いできたということか。
 
「じゃあ、診るね」
 
 俺は彼女の同僚を診察した。彼女の怪我の具合を確認しながら治療する。
 
「はーい、これでオッケーだよ」
「ありがとう、先生」
「ありがとうございます! あ、治療代は私にください」
「え、良いよ」
「ダメだよ、私がやっちゃったんだし」
 
 俺の恋人は同僚への言葉を聞いて、小さく笑ってしまった。そして、請求書は恋人へ渡す。
 
「はい、お願いね」
「ありがとうございます、受け取りますね」
 
 治療が終わり、丁度休憩の時間になるので、二人を見送ろうと一緒に診察室を出ようとする。俺は診察室の扉を開け、二人を外に促した。
 恋人の同僚が先に診察室を出て、恋人が俺の前を横切ろうとした時、そっと俺の指に彼女の指が絡まる。
 
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
 
 見上げる視線が魅力的で、抱き締めたい気持ちになる。けれど流石に我慢した。
 
 するりと指が抜けていくと、少しだけ寂しさを覚えた。
 
「また、夜にね」
「はい、いつも助けてくれて、ありがとうございます!」
 
 彼女の言葉に心が温かくなった。
 
 危険なこともあるけれど、こうやって身近な大事な人を助けることもできる。
 俺の誇らしき仕事だ。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:誇らしき

8/16/2024, 1:22:03 PM