今日の集合は、ドレスコードがあるもの。TPOに合わせて青年も彼女も支度を進めていた。
青年は洗面所の鏡の前で、滅多に使わないワックスを使用して前髪を後ろに流していた。柔らかい髪の毛が、ふんわりとしつつもワックスによって形作られる。
「コレでよし!」
あと、ジャケットを羽織れば青年はいつでも出掛けられる。
恋人の彼女は部屋から出てこない。
「あ、洗面所、空けたよー」
「はーい、ありがとうございます!」
彼女はお化粧道具とアクセサリーを持って洗面所に入る。
髪の毛を軽く直しながら、鏡に向かって色々しているようだった。
大人しく待つつもりの青年だが……ソファに座りつつも身体がジッとできない。彼女の様子が気になってしまうのだ。
こんなふうにドレスコードのあるお出掛けをするのは始めてで、彼女の着ていた服も初めて見るものだったから。
「すみません、ネックレスが上手く付けられないので助けてくださいー」
洗面所から助けを呼ぶ彼女の声を聞き、青年は洗面所にいる彼女の後ろに立つ。
そして、彼女から見覚えのあるフェルト生地の縦長のケースを渡された。
「今日のドレスに似合うと思って……」
ほんのりと頬を赤らめながら彼女は微笑む。
これは以前、彼女に似合うと贈ったアイスブルーダイアモンドのペンダント。
確かに今日の彼女の薄水色のドレスにはピッタリだった。
彼女の首にペンダントを付けてあげた後、鏡に映った彼女に目を奪われた。
ほんのりとお化粧をして、いつもの愛らしさよりは大人っぽくて、誰よりもきれいだと思ってしまった。
そして、首元を飾るのは自分が贈ったペンダント。
「どうしましたか? 変……です?」
彼女が眉間に皺を寄せ、不安な顔で青年を見上げてくる。ほんの少しだけ開いてしまった口をきゅっと閉じて、彼女を後ろから抱き締めた。
「変じゃないよ。すっごく、すっごくきれい」
彼女の肩に顔を埋め、抱き締める腕に力を入れた。
「誰にも見せたくないくらい、きれい」
おわり
お題:鏡
8/18/2024, 1:06:33 PM