とある恋人たちの日常。

Open App
8/18/2024, 1:06:33 PM

 今日の集合は、ドレスコードがあるもの。TPOに合わせて青年も彼女も支度を進めていた。
 
 青年は洗面所の鏡の前で、滅多に使わないワックスを使用して前髪を後ろに流していた。柔らかい髪の毛が、ふんわりとしつつもワックスによって形作られる。
 
「コレでよし!」
 
 あと、ジャケットを羽織れば青年はいつでも出掛けられる。
 恋人の彼女は部屋から出てこない。
 
「あ、洗面所、空けたよー」
「はーい、ありがとうございます!」
 
 彼女はお化粧道具とアクセサリーを持って洗面所に入る。
 髪の毛を軽く直しながら、鏡に向かって色々しているようだった。
 
 大人しく待つつもりの青年だが……ソファに座りつつも身体がジッとできない。彼女の様子が気になってしまうのだ。
 
 こんなふうにドレスコードのあるお出掛けをするのは始めてで、彼女の着ていた服も初めて見るものだったから。
 
「すみません、ネックレスが上手く付けられないので助けてくださいー」
 
 洗面所から助けを呼ぶ彼女の声を聞き、青年は洗面所にいる彼女の後ろに立つ。
 そして、彼女から見覚えのあるフェルト生地の縦長のケースを渡された。
 
「今日のドレスに似合うと思って……」
 
 ほんのりと頬を赤らめながら彼女は微笑む。
 これは以前、彼女に似合うと贈ったアイスブルーダイアモンドのペンダント。
 
 確かに今日の彼女の薄水色のドレスにはピッタリだった。
 
 彼女の首にペンダントを付けてあげた後、鏡に映った彼女に目を奪われた。
 
 ほんのりとお化粧をして、いつもの愛らしさよりは大人っぽくて、誰よりもきれいだと思ってしまった。
 
 そして、首元を飾るのは自分が贈ったペンダント。
 
「どうしましたか? 変……です?」
 
 彼女が眉間に皺を寄せ、不安な顔で青年を見上げてくる。ほんの少しだけ開いてしまった口をきゅっと閉じて、彼女を後ろから抱き締めた。
 
「変じゃないよ。すっごく、すっごくきれい」
 
 彼女の肩に顔を埋め、抱き締める腕に力を入れた。
 
「誰にも見せたくないくらい、きれい」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:鏡

8/17/2024, 12:58:15 PM

 部屋の中にひとつ、特別な箱がある。この箱には彼からもらったものが全部入っていた。
 最初に貰ったものは、この箱に入らない少し大きなもので、クローゼットに立て掛けてある。それはスケートボード。
 
 あれから何度も使ってボロボロになっていて、新しいものを買っている。それでもこのスケートボードは宝物で、いつまでも捨てられないものだ。
 
 時々、恋人がこのスケートボードを見て苦笑いする。
 
「こんなボロボロになったの、取っておかなくて良いよ。また買ってあげる」
 
 そう言ってくれるが、彼女は断っている。
 
「これが良いんです」
 
 そう返して、スケートボードを優しく撫でた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:いつまでも捨てられないもの

8/16/2024, 1:22:03 PM

 俺の仕事は救急隊員で、人を救助することだ。
 今日は病院待機で、外来も対応する。
 
 順番で来たのは二人の女性。ひとりは俺の大事な人と、彼女の同僚だった。
 
「あれ!? 二人ともどうしたの?」
「修理している彼女の横を通っちゃって……」
「間違って殴っちゃいました」
「うわ、ご愁傷さま」
 
 彼女たちは車の修理をする中で、近くを通った同僚を殴ってしまったらしい。
 修理をする会社は人気で、ひっきりなしにお客さんが来る。その割には会社は狭いので、なにかの際に怪我人を……よく出す。
 それこそ、救急で呼ばれて地図を確認した時、住所の一部を聞いてすぐ彼女の職場だとパターン化するほど。
 
 今日は彼女がうっかりと怪我をさせてしまい、責任を感じて、同僚の付き添いできたということか。
 
「じゃあ、診るね」
 
 俺は彼女の同僚を診察した。彼女の怪我の具合を確認しながら治療する。
 
「はーい、これでオッケーだよ」
「ありがとう、先生」
「ありがとうございます! あ、治療代は私にください」
「え、良いよ」
「ダメだよ、私がやっちゃったんだし」
 
 俺の恋人は同僚への言葉を聞いて、小さく笑ってしまった。そして、請求書は恋人へ渡す。
 
「はい、お願いね」
「ありがとうございます、受け取りますね」
 
 治療が終わり、丁度休憩の時間になるので、二人を見送ろうと一緒に診察室を出ようとする。俺は診察室の扉を開け、二人を外に促した。
 恋人の同僚が先に診察室を出て、恋人が俺の前を横切ろうとした時、そっと俺の指に彼女の指が絡まる。
 
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
 
 見上げる視線が魅力的で、抱き締めたい気持ちになる。けれど流石に我慢した。
 
 するりと指が抜けていくと、少しだけ寂しさを覚えた。
 
「また、夜にね」
「はい、いつも助けてくれて、ありがとうございます!」
 
 彼女の言葉に心が温かくなった。
 
 危険なこともあるけれど、こうやって身近な大事な人を助けることもできる。
 俺の誇らしき仕事だ。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:誇らしき

8/15/2024, 1:46:25 PM

 恋人たちが明るい夜の砂浜に歩みを進めると、ぬるい風が肌に当たる。うっすらと汗ばむくらいの気温。それでもふたりは、繋いだ手を離すことはなかった。
 
 空を見上げると、大きな満月と星が広がる。
 きらきらと輝く星々と、風に煽られて奏でる海の音楽は、この世界にふたりだけしか存在しないような錯覚に陥るほどだった。
 
 彼女は恋人の青年を見つめる。
 
 月の光に照らされた青年の顔は、普段見られないほど凛々しくて、いつも以上に心がときめいた。
 
 青年が彼女の視線に気がついたのか、太陽のような目映い笑顔で彼女を見つめる。
 
「どうしたの?」
「……大好きだなって」
 
 青年は頬を赤らめる。
 
 月が満ちると、隠せるものが無くなるほど夜は明るい。彼女は照れた青年の姿を見られたことが嬉しくて、月に感謝した。
 
「えっと。へへ、俺も大好きだよ」
 
 繋いでいた手が少し緩くなる。すると青年が指を一本一本絡めて恋人繋ぎをしてくれた。
 それは、彼女に〝愛しさ〟を伝えてくれるよう。
 だから彼女も、同じ気持ちが届くように祈りながら、指に力を込めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:夜の海

8/14/2024, 3:04:08 PM

 車両関係の仕事をしている彼女が、店先に並んでいる自転車を見て止まった。
 
「どうしたの?」
「いえ……」
 
 なんでもなさそうな回答をしているが、視線は目の前の自転車に釘付けだった。
 
 青年もその自転車に視線を送る。
 折りたたみ自転車で、車輪は普通の自転車より小さい。ボディは白で、色素の薄い恋人にはとても似合いそうな自転車だった。
 
「気になるの?」
「はい……なんか、可愛いなって……」
 
 視線を反らせない彼女の方が可愛いと思えて、青年はくすりと笑う。
 
「なんででしょう、凄く惹かれます」
「色やフォルムが好みなんじゃない?」
 
 青年は店員を見つけて、声をかけると試乗を勧めてくれた。
 彼女は首を縦に頷き、店員さんはその準備を始める。
 
「楽しみだね」
「はい!!」
 
 店員さんが準備を完了させて、彼女の目の前には白い折りたたみ自転車があらわれた。
 
「どうぞ」
 
 彼女は自転車にまたがって、ペダルを漕ぐ。
 
「ふあっ!!」
 
 その瞬間、彼女の瞳が輝く。
 
「どうしたの?」
「思った以上に軽いんです、びっくりです」
「へー!」
 
 ある程度の距離を走って来た彼女は、満面の笑みで青年に視線を送った。
 
「凄いんですよ!!」
 
 青年の隣にいた店員が、この折りたたみ自転車は他の自転車より軽く、走力も高いのでお奨めだと説明してくれた。
 そして、店員は普通のシティサイクル。一般的にはママチャリを持ち上げるように言われる。
 
 恋人たちは順番に持ち上げた。
 
「おもっ!!」
「え!? これ重いの!?」
 
 青年は先程のママチャリの重さは普通だと感じていたのだ。すると彼女は首を横に振った。
 
「とても重いですよ! さっき乗った自転車を持ち上げてみてください!」
 
 彼女も店員も、全力で薦めるので持ち上げると、ママチャリとは比較にならないくらい軽かった。
 
「え!? こんなに違うの!?」
「そうなんです!」
 
 今度は青年が感心する番で、青年が店員に許可を貰い試乗させてもらう。
 
 車輪が小さいから小回りがきく分、少しの震えで曲がってしまう。それは車体が軽いから尚更だ。だが乗り心地の良さと軽さは、青年が記憶していた自転車のそれとは明確に違った。
 それを早く伝えたくて、彼女と店員がいる場所に戻る。
 
「びっくりした! こんなに違うんだね!!」
「そうなんですよ!」
 
 自転車は重さで変わること、この折りたたみ自転車は折りたたみ自転車では考えられないくらい軽く、また走力もあるのだと説明してくれる。
 
「ねえ……この自転車、それぞれで買わない?」
「え?」
 
 青年の提案に彼女の方が驚いた。
 
「いや、うちにはバイクと車、両方あるけれどさ、天気のいい日に近場をこれでサイクリングするのも良さそうって思わない?」
「いいです!!」
 
 彼女が満面の笑みで喜ぶと、ふたりで店員に購入の相談を始めた。
 
 それぞれで色違いの自転車……だけではなく、ヘルメットなど最低限のものも買うことになった。
 
「思ったより高い買い物になったけれど、サイクリング、楽しみだね」
「はい!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:自転車に乗って

Next