とある恋人たちの日常。

Open App
8/13/2024, 2:12:59 PM

 青年は全力で疲弊していた。
 彼の仕事は救急隊員。今日は人が少ないのに事件も事故も多くて、文字通りに休む暇も無い。
 
 本当なら、代わりに休憩を入れてから帰ることも可能なのだが、青年は休むより早く帰りたかった。
 
 青年は憔悴した身体を引きずるように、バイクに跨り自宅に向かって走らせた。
 
「ただいまぁ〜……」
 
 家に着くと、ほのかにいい匂いが鼻をくすぐる。そして、奥から恋人が出迎えに来てくれた。
 
「おかえりなさい。声がめちゃくちゃ疲れていましたけれど、大丈夫……じゃないですね」
「大丈夫じゃない〜」
 
 彼女は青年を見ると、その疲弊した姿に苦笑いして別れの荷物を代わりに持って行った。
 
「ちかれたぁ〜!!」
 
 食卓へ向かう前に、青年は居間のソファにダイブする。
 
「もうヤダ、動きたくないー」
 
 ソファに飛び込んだ青年は顔を埋めたまま叫んだ。
 
「お疲れ様です。隣に座っていいですか?」
 
 そう優しく言われてしまった青年は、重い身体を起こして彼女の座るスペースを空ける。
 彼女は青年の隣に腰を下ろした。
 
「少し休んでから夕飯食べますか?」
「うん……と言うか、ごめん。ぎゅーしてもいい?」
 
 青年自身、このような言い方をるのに抵抗はあるが、精神的にも肉体的にも疲労しており、そんな気持ちはどこかへ飛ばしていた。
 彼女からの返答に不安を覚え、視線を送る。ふわりと微笑んで両手を広げて青年を優しく包んでくれたかと思うと、背中をぽんぽんとたたく。
 
「本当に、お疲れ様でした」
「ありがとう〜。心も身体も癒される〜……」
 
 実際に、肉体的疲労が消化される訳では無い。だが、心が軽くなっていくのを感じ、彼女の首元に顔を埋めて強く抱き締めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:心の健康

8/12/2024, 1:21:16 PM

 今日は恋人が食事当番。機嫌が良いのか、鼻唄を歌いながら色々と準備をしている。
 青年は彼女が楽しそうに台所に立っている姿を見て、くすりと微笑んだ。
 
 仕事で疲労感がある中、彼女の声がとても心地良い。優しい声に身を任せながらまぶたを落とすと、うっかり意識を手放してしまった。
 
 
 意識の海から浮かぼうとしている中、温かい手が優しく額を撫でてくれる。それと同時に彼女の歌声が聴こえてくる。
 
 目を覚ますと、青年は恋人の膝の上に頭を乗せていた。
 
 ぼんやりとした意識の中で、彼女の歌声が気持ち良くて、もう一度瞳を閉じた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:君の奏でる音楽

8/11/2024, 12:42:00 PM

 電車が終点に到着して、旅行中の恋人たちがゆっくりとホームに降りる。そこに広がるのは青い空。漂う潮の香りが鼻をくすぐった。
 
「うわぁ!!」
「いいところでしょ?」
「はいっ!」
 
 愛らしい恋人の満面の笑みを見る青年は口角が上がる。以前、職場の仲間たちと来た時、とても楽しかったこの場所に、彼女を連れてきたかったのだ。
 
「日差しが眩しいですね」
「そうだね。でも、晴れてよかった」
 
 朝から電車に揺られて陽も天に昇りきった頃合で、その陽射しは強く痛みを覚える。
 
 青年は自分の鞄から折りたたみができる麦わら帽子を取り出して、彼女の頭に被せた。
 
「わ!?」
「被って、日焼けしちゃう」
 
 彼女は驚きつつも、柔らかく微笑んだ。
 
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
 
 この麦わら帽子は、彼女へのプレゼントに用意したものだった。頭の調節しやすい太めの紐はリボンに見える。その紐はふたりが好きな夏の時によく見る爽やかな空の色。
 色素の薄い肌の彼女が、日焼けしないようにと青年が選んだ。
 
 照れつつ嬉しそうに微笑む彼女を見ていると、青年は嬉しさが込み上げてくる。
 
 
 絶対、君に似合うと思ったんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:麦わら帽子

8/10/2024, 1:04:48 PM

 いつもは車やバイクで移動をする恋人たちは、電車で遊びに出掛けている。
 だからこそなのか、彼女の瞳からわくわくしている期待感が青年には見えて、口角が上がった。
 
 彼女の仕事上、車両に関わっているので普段の移動手段も車が多いから、青年はこの旅行の移動手段を電車を選んだ。
 
「どこまで行くんですか!?」
 
 彼女には行き先を伝えていない。
 だから、青年は人差し指を口元に寄せて、悪い笑みを彼女に送る。
 
「なーいしょ」
 
 行先は終点。
 彼女はワーカホリックなので会社から中々出ることがない。だから、この都市で知らないことが多い。
 仕事のメンバーで行って楽しかった記憶のある場所に、どうしても彼女を連れていきたかった。
 
「楽しい旅行にしようね」
 
 青年の言葉に振り返った彼女は満面の笑みで笑う。
 
「はい! たくさん思い出作りましょう!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:終点

8/9/2024, 2:12:27 PM

 今日、かねてから付き合っていた彼女と一緒に暮らし始める。
 
 休みの関係上、俺の方が先に家に荷物を入れられた。
 彼女の荷物はこれから一緒に片付ける。
 片付けると言っても、洋服関連は流石にいじりません。
 
 そんな時、彼女の盛大な悲鳴と共に景気よくガラスが砕ける音がした。
 
「え!? 大丈夫!!?」
「お気に入りのお皿が粉々になりましたー!!」
 
 薄水色で彼女も俺も好みの色の皿が……皿とは思えないほど無惨なものになっていた。
 
「ひとまず動かないで。怪我はない?」
「うぅ……。怪我はないと思います」
「分かった。変に動くと怪我するかもだからまずは動かないで。掃除したら怪我してないか確認するね」
 
 はいと返事をするが、明らかにしゅんとする彼女。そんな恋人を横目に、俺は掃除道具を持って割れた皿を片付けた。
 
「うぅ……初日からやっちゃいました……気に入っていたのに……」
 
 皿を片付けた後、彼女を立たせて軽く彼女を診る。医療道具はさすがにないけれど、救急隊として日々仕事をしている俺としては、このくらい普通にできた。
 
 本当にお気に入りの皿だったのだろう。彼女のへこみようが見ていて痛々しい。
 
 特段怪我もないことを確認した俺は、優しめに抱きしめる。
 
「上手くいかなくてもいいんだよ。失敗も思い出にしていこう」
「……はい。お皿は悲しいですが、思い出にします」
 
 俺は彼女の背中を落ち着くようにぽんぽんと叩く。そしてふたりの予定を頭で確認した。
 
「お皿、明日買いに行こう。ふたりでお気に入りになるような皿を探しに行こう!」
 
 彼女は驚いた顔を向けたかと思ったら、少しずつ嬉しそうに微笑み、俺を強く抱き締め返してくれた。
 
「はい、お気に入りのお皿、探しに行きましょう!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:上手くいかなくたっていい

Next