電車が終点に到着して、旅行中の恋人たちがゆっくりとホームに降りる。そこに広がるのは青い空。漂う潮の香りが鼻をくすぐった。
「うわぁ!!」
「いいところでしょ?」
「はいっ!」
愛らしい恋人の満面の笑みを見る青年は口角が上がる。以前、職場の仲間たちと来た時、とても楽しかったこの場所に、彼女を連れてきたかったのだ。
「日差しが眩しいですね」
「そうだね。でも、晴れてよかった」
朝から電車に揺られて陽も天に昇りきった頃合で、その陽射しは強く痛みを覚える。
青年は自分の鞄から折りたたみができる麦わら帽子を取り出して、彼女の頭に被せた。
「わ!?」
「被って、日焼けしちゃう」
彼女は驚きつつも、柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
この麦わら帽子は、彼女へのプレゼントに用意したものだった。頭の調節しやすい太めの紐はリボンに見える。その紐はふたりが好きな夏の時によく見る爽やかな空の色。
色素の薄い肌の彼女が、日焼けしないようにと青年が選んだ。
照れつつ嬉しそうに微笑む彼女を見ていると、青年は嬉しさが込み上げてくる。
絶対、君に似合うと思ったんだ。
おわり
お題:麦わら帽子
8/11/2024, 12:42:00 PM