とある恋人たちの日常。

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 青年は全力で疲弊していた。
 彼の仕事は救急隊員。今日は人が少ないのに事件も事故も多くて、文字通りに休む暇も無い。
 
 本当なら、代わりに休憩を入れてから帰ることも可能なのだが、青年は休むより早く帰りたかった。
 
 青年は憔悴した身体を引きずるように、バイクに跨り自宅に向かって走らせた。
 
「ただいまぁ〜……」
 
 家に着くと、ほのかにいい匂いが鼻をくすぐる。そして、奥から恋人が出迎えに来てくれた。
 
「おかえりなさい。声がめちゃくちゃ疲れていましたけれど、大丈夫……じゃないですね」
「大丈夫じゃない〜」
 
 彼女は青年を見ると、その疲弊した姿に苦笑いして別れの荷物を代わりに持って行った。
 
「ちかれたぁ〜!!」
 
 食卓へ向かう前に、青年は居間のソファにダイブする。
 
「もうヤダ、動きたくないー」
 
 ソファに飛び込んだ青年は顔を埋めたまま叫んだ。
 
「お疲れ様です。隣に座っていいですか?」
 
 そう優しく言われてしまった青年は、重い身体を起こして彼女の座るスペースを空ける。
 彼女は青年の隣に腰を下ろした。
 
「少し休んでから夕飯食べますか?」
「うん……と言うか、ごめん。ぎゅーしてもいい?」
 
 青年自身、このような言い方をるのに抵抗はあるが、精神的にも肉体的にも疲労しており、そんな気持ちはどこかへ飛ばしていた。
 彼女からの返答に不安を覚え、視線を送る。ふわりと微笑んで両手を広げて青年を優しく包んでくれたかと思うと、背中をぽんぽんとたたく。
 
「本当に、お疲れ様でした」
「ありがとう〜。心も身体も癒される〜……」
 
 実際に、肉体的疲労が消化される訳では無い。だが、心が軽くなっていくのを感じ、彼女の首元に顔を埋めて強く抱き締めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:心の健康

8/13/2024, 2:12:59 PM