とある恋人たちの日常。

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8/10/2024, 1:04:48 PM

 いつもは車やバイクで移動をする恋人たちは、電車で遊びに出掛けている。
 だからこそなのか、彼女の瞳からわくわくしている期待感が青年には見えて、口角が上がった。
 
 彼女の仕事上、車両に関わっているので普段の移動手段も車が多いから、青年はこの旅行の移動手段を電車を選んだ。
 
「どこまで行くんですか!?」
 
 彼女には行き先を伝えていない。
 だから、青年は人差し指を口元に寄せて、悪い笑みを彼女に送る。
 
「なーいしょ」
 
 行先は終点。
 彼女はワーカホリックなので会社から中々出ることがない。だから、この都市で知らないことが多い。
 仕事のメンバーで行って楽しかった記憶のある場所に、どうしても彼女を連れていきたかった。
 
「楽しい旅行にしようね」
 
 青年の言葉に振り返った彼女は満面の笑みで笑う。
 
「はい! たくさん思い出作りましょう!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:終点

8/9/2024, 2:12:27 PM

 今日、かねてから付き合っていた彼女と一緒に暮らし始める。
 
 休みの関係上、俺の方が先に家に荷物を入れられた。
 彼女の荷物はこれから一緒に片付ける。
 片付けると言っても、洋服関連は流石にいじりません。
 
 そんな時、彼女の盛大な悲鳴と共に景気よくガラスが砕ける音がした。
 
「え!? 大丈夫!!?」
「お気に入りのお皿が粉々になりましたー!!」
 
 薄水色で彼女も俺も好みの色の皿が……皿とは思えないほど無惨なものになっていた。
 
「ひとまず動かないで。怪我はない?」
「うぅ……。怪我はないと思います」
「分かった。変に動くと怪我するかもだからまずは動かないで。掃除したら怪我してないか確認するね」
 
 はいと返事をするが、明らかにしゅんとする彼女。そんな恋人を横目に、俺は掃除道具を持って割れた皿を片付けた。
 
「うぅ……初日からやっちゃいました……気に入っていたのに……」
 
 皿を片付けた後、彼女を立たせて軽く彼女を診る。医療道具はさすがにないけれど、救急隊として日々仕事をしている俺としては、このくらい普通にできた。
 
 本当にお気に入りの皿だったのだろう。彼女のへこみようが見ていて痛々しい。
 
 特段怪我もないことを確認した俺は、優しめに抱きしめる。
 
「上手くいかなくてもいいんだよ。失敗も思い出にしていこう」
「……はい。お皿は悲しいですが、思い出にします」
 
 俺は彼女の背中を落ち着くようにぽんぽんと叩く。そしてふたりの予定を頭で確認した。
 
「お皿、明日買いに行こう。ふたりでお気に入りになるような皿を探しに行こう!」
 
 彼女は驚いた顔を向けたかと思ったら、少しずつ嬉しそうに微笑み、俺を強く抱き締め返してくれた。
 
「はい、お気に入りのお皿、探しに行きましょう!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:上手くいかなくたっていい

8/8/2024, 1:29:21 PM

 うちの会社は、ファミリーみたいな温かさがある会社。社長をお母さん、従業員はその子供という〝てい〟で、家族ごっこが始まる。
 
 社長の〝お母さん〟は板についていて。
 本当にいつから、この茶番劇が始まったのだろうと笑ってしまった。
 
 そして思い出す。
 末っ子気質の同期の彼女は、その気質の通りに会社の末っ子だ。
 その彼女と社長のやり取りが発端だった気がしてきた。
 
 あの時は、わたしも〝お姉ちゃん〟って言われたなあ。
 
 懐かしい思い出に浸っていると、その子がお客さんと話しているのが聞こえた。
 天真爛漫に笑って、お客さんの対応をしているから、お客さんから蝶よ花よと愛されている、同期の彼女。
 
 そして、話している相手は彼女が気になると言っていた救急隊の先生。
 
 さてさて。
 〝お姉ちゃん〟は可愛い〝妹〟の恋を応援しましょうかね。

 
 
おわり
 
 
 
お題:蝶よ花よ

8/7/2024, 1:14:44 PM

 女難の相が出ていると、よく言われていた。
 
 怪我をさせてしまったお詫びにご飯でもと伝えると〝デートの誘い!〟と言われてしまったり、初めて会った女性に〝結婚しよ!〟と言われたり。
 
 否定しても、周りから埋められて行く。
 それぞれ遊んだり、話していくと面白い人たちだと分かるけれど、毎度恋愛絡みでからかわれるのは少し疲れてしまった。
 
 だって俺は、そんなつもりはないんだから。
 
 時間が経てば経つほど、面倒くさいことになっていく。みんな、どっちを選ぶんだとニヤニヤしながら言ってくる。
 
 そんな状況でも、会いたい人がいた。
 おっちょこちょいなのか、すぐ怪我をするから、目が離せない彼女。
 
 周りに人が集まっていて、みんなに大切にされているのが分かる。
 
 それは、よく笑うだけではなく、気を使ってくれるところ、そして仕事に前向きで……。
 頼りないと思っていたのに、いつの間に後輩ができていて、誰よりも頼りにされるメカニックになっていた。
 
 自然と俺も、バイクも車も彼女に整備をお願いするようになっていた。
 
 請求書に、俺を思いやる優しい言葉を見つけた時、凄く嬉しかったんだ。
 
 色々と巻き込まれて疲れると、どうしても会いたくなる彼女。
 その彼女は今、俺の恋人になっていた。
 
 疲れて逃げた先で、会いたいなんて思う彼女。そんなの初めから恋に落ちている証拠だ。
 
 仕事で疲れた中、彼女に会いたいなと考える。
 こうやって思い返すと、最初から彼女に決まっていたんだよな。
 
 ああもう!!
 仕事が終わったら、早く帰って彼女を抱きしめたいー!!
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:最初から決まっていた

8/6/2024, 2:40:19 PM

 日差しが強くなる時間が続く中、不意に空気が、いや、気温が下がった気がした。
 彼女が空を見上げると、少し前まで広がっていた青い空、強い光を放っていた太陽が見えなくなっている。
 
 彼女は、この天気に心当たりがあったので、バイクのスピードを上げた。
 そう思っていると、どんどん空の色が暗くなっていき、ぽつりと雨がヘルメットに当たる。
 
 車で出かければ良かったな。
 
 今から会社に取りに行っても、会社に着く前に下手すればこの雨がやんでしまう可能性もあった。
 
 そう思っていると、雨はどんどん酷くなっていく。
 
 このまま走るのは、転んでしまうかもしれないと思った彼女は、屋根があるところにバイクを停めて雨宿りした。
 
「暑過ぎるから助かるけれど、こんなに降るのはつらいなー」
 
 雨に当たった時間は長くはない。だがしっかり濡れてしまった。バイクで走っていたのも酷く濡れた原因のひとつだ。
 
「雨、凄いなー……」
 
 止むのを待とうと思っているが、少し身体が冷えて行くのを感じた。
 スマホを取り出して、雨が止むだろう予想時間を確認する。彼女が考えていた時間より長い。
 この場所で雨宿りを続けると、風邪をひいてしまいそうだった。
 
 彼女はどうしようかなと、思考をめぐらせつつ、少し離れた高いビルが視界に入った。
 そこは恋人の務めている病院。小さく病院の裏口が見える。それくらいの距離だ。
 
 だが彼は救急隊と言う群を抜いて忙しい仕事をしているので、連絡する相手からは除外する。
 
 社長に連絡しようと連絡帳を動かしている時に呼出音が鳴った。
 
「わっ、びっくりした!」
 
 表示されたのは彼の名前で、驚きの反射で通話ボタンをタップしてしまった。
 
「は、はい!」
『うわ、びっくりした!』
「あ、すみません」
『いや、こっちこそごめん。滅茶苦茶早く出るから、びっくりしたしちゃった』
「たまたまスマホを出していたところだったんです」
 
 額から流れる雨を拭いながら、彼の言葉に答えていく。思いもよらず聞けた恋人の声に心が温かくなっていった。
 
『そうなんだ……ねぇ、もしかして外にいる?』
「えー……っと、はい、外にいます」
 
 雨宿りしていると分かったら、きっと迎えに来ると言う。優しいから絶対に言う。
 なんとか平気だと伝えようと、彼女は頭をフル回転させた。
 
『どこにいるの?』
「え、あ、大丈夫ですよ」
『俺、どこにいるって聞いただけだよ』
 
 先回りした回答は、大丈夫じゃないと伝えているのと同じだった。
 
 そして、病院から出たであろう救急のサイレンが通り過ぎた。
 彼女に嫌な予感が走る。
 
「えーっと……」
『そこから動かないでね』
「え!?」
 
 通話がぷつんと切れる。
 
 どういうことだと彼女は混乱した。
 しばらくすると、見覚えがある車が目の前に停まった。
 
「みーつけた」
 
 青年は満面の笑みで迎えてくれた。
 
「どうして……?」
「知りたいー?」
 
 彼は隣に乗るように促しながら、いたずらっ子のような笑みを向ける。
 
 もうここまで青年は来てしまったのだから、彼女は降参だなと思い、急いで車に乗った。
 
「実は電話する前に、先輩から君が雨宿りしているの聞いてたんだ」
「は!?」
「救急隊の車、帰る時はサイレン鳴らさないからね。気が付かなかったでしょ」
 
 驚きと戸惑いで言葉に詰まっていると、更に青年は楽しそうに言葉を続けた。
 
「俺、裏口から探しながら電話してたんだよねー。肉眼で見つけられる距離だったから迎えに来ちゃった」
「き、来ちゃった、じゃないですよ」
 
 彼女は嬉しい反面、彼の時間を使わせてしまった事に、申し訳なさが心に広がった。
 
「お仕事、大丈夫ですか……?」
 
 ほんの少し驚いた青年は手を伸ばし、彼女の頬に触れてくる。
 
「休憩時間だから大丈夫。それに俺が来たくて来たの」
 
 休んで欲しい。
 私のことは後回しでいい。
 そう伝えたい気持ちで溢れる。でも、きっと彼はそれを望まないだろう。それは分かった。
 
 だから彼女は、ごめんなさいの気持ちを、ありがとうの気持ちに変換した。
 
「ありがとうございます」
 
 一瞬、戸惑った表情を見せる彼。だがすぐに、全力で笑みを返してくれた。
 
 それは、この雨に負けないくらいの太陽のような笑顔。
 彼女が、どうしようもないくらい大好きな笑顔を。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:太陽

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