とある恋人たちの日常。

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7/10/2024, 11:46:49 AM

 無機質な音が流れる。その音が眠りの海から彼女の意識を呼び覚ます。
 
 彼女は、ゆっくりとまぶたを開けた。
 
 薄暗い部屋。
 カーテンの隙間からこぼれる光を頼りに、ベッドから立ち上がって手を伸ばす。
 
 シャッ。
 
 眩しい光が差し込むと、ゆっくりと、そして確かに身体が目を覚ましていった。
 
 振り返ると広いベッドが見え、寂しさを覚えて胸が痛む。
 そして、深いため息をついた。
 
 ひとまず、朝ごはんを用意して仕事に向かった。
 一日ずっとモヤモヤしてしまう。
 職場で笑っているけれど、心の奥にある虚しさは埋めることが出来ない。
 
 仕事が終わり、家に帰る。
 今日は何もしたくなくて、さっさと眠ってしまった。
 
 
 
 コーヒーと、パンを焼くいい香りがする。
 チーンと言うトースターの音、パタパタと廊下の歩くスリッパの音。
 
 そして、視界が白くなる。
 
「はーい、起きて!!」
 
 その声でハッキリと目を覚まして、身体を起こした。
 すると正面から強く抱きしめられる。
 
「え!?」
「おはよう」
 
 当たり前の温もりが、その重さが身体にかかる。
 愛しい青年の体温に驚きつつ、しっかり抱きしめ返した。
 
「おはよう……ございます。それと、おかえりなさい」
「うん、ただいま」
 
 青年は救急隊の仕事でしばらく家に帰れなかった。
 状況的に、いつ帰ってくるかは分からない。
 仕事に集中して欲しいし、邪魔になるのは嫌だったので、こまめに連絡は入れなかった。
 
 だから、今、青年の温もりに安堵して目頭が熱くなる。
 彼女は、こんな表情を見られると、心配させちゃうと思って、抱きしめる腕に力が入った。
 
「連絡くれないんだもん、寂しいよ」
「邪魔になったら迷惑かなって……」
 
 青年は身体を離そうとするが、彼女は離さない。その様子に気がついた青年は、改めて彼女を強く抱きしめる。
 
「いつも俺の事を想ってくれて、ありがとう」
 
 ゆっくりと身体を離し、涙目になっている顔を見られてしまった。
 ふふっと青年が笑うと、彼女の額に柔らかい温もりが当たる。
 
「今日はさすがに休みだから、家にいるよ」
「じゃ、休んでください」
「朝ごはん食べさせて、仕事行くのを見届けたら寝るね」
 
 そう笑いながら、青年はベッドから立ち上がり、彼女へ手を差し伸べた。
 
「さ、ご飯作ったんだ。食べよう! 俺ももう腹減ったよー!」
「食べてないんですか?」
 
 朝日と同じくらい、眩い笑顔を彼女に向ける。
 
「一緒に食べたかったんだ!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:目が覚めると

7/9/2024, 12:57:41 PM

「ただいまぁ!!」
 
 扉が開いて、玄関より大好きな彼の声が響いた。
 彼女は準備していた夕飯の支度を止めて、手を洗ってタオルで拭きながら廊下に向かう。
 
「おかえりなさい!!」
 
 彼は荷物を玄関に置くと、彼女のお出迎えに嬉しいのか満面の笑みを向けてくれた。
 しばらく視線を逸らし言葉に詰まった後、青年は彼女に向けて両手を広げる。ぱぁっと輝かしく笑うと青年の胸に飛び込んで力強く抱きしめた。青年も彼女を包み込むように抱き締め返した。
 
「帰ってきたーって感じがする」
「うふふ、日課ですから!」
 
 付き合って、一緒に住むようになってそれなりに経つ。それでも互いが帰ってくると必ずハグをするようにしていた。
 
 これが、ふたりの当たり前。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:私の当たり前

7/8/2024, 1:51:54 PM

 こういう都市に住んでいるけれど、素敵な場所を見つけた。折角なら一緒に見たいんだ。
 
 そう思って、仕事帰りにと彼女を誘った。
 
 仕事関係で仲良くなったビルのオーナーから許可をもらって、ビルのエレベーターに乗っていた。
 
「この建物に入ったのは初めてです」
「俺も初めて」
 
 顔を合わせて笑い合う。
 エレベーターが止まると、青年は教えてもらった階段に向かい昇って行く。
 
「こんなところ、登っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫、許可はもらってあるんだ」
「そうなんですね」
 
 青年はしっかりとした扉の前に立つと、彼女に手を差し伸べた。
 
「この先は危ないから、手を繋いでね」
「はい!」
 
 しっかりと手を繋ぎ、青年は扉を開けた。
 風が強く吹き抜ける。そこはヘリポートだった。
 
「わあ……」
 
 瞳に写るのは、夜空と都市に住んでいる生活の光。
 建物や、信号の動かない光。車や電車の動く光が混ざり合い、高いところから見る街の明かりはキラキラとして眩かった。
 
「凄いでしょ」
「はい、きれい……」
 
 うっとりと街を見ている彼女を、青年が見つめる。
 
「この前、このヘリポートに夜来てさ。ヘリから見た空が凄く良くて、君に見せたくなっちゃった。ちょっとズルしちゃったけどね」
「でも、こうやって見せてくれるの、凄く嬉しいです」
 
 先程の表情より、嬉しそうに微笑む彼女。
 青年の人間関係を駆使しまくった甲斐があるというものだ。こんな可愛い笑顔が見られたのだから。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:街の明かり

7/7/2024, 11:50:10 AM

「今日は晴れましたね」
 
 恋人が窓際に立って、空を見上げる。
 俺は彼女に寄り添って同じ方向を向いた。
 
「本当だね。あ、短冊書く?」
「あ、書きます」
 
 自宅に小さな七夕飾りを用意してあり、短冊を彼女に渡した。
 俺も短冊にペンを走らせる。
 
「そう言えば、晴れて欲しくなかったの?」
「え?」
 
 彼女も短冊に書いていた手を止めて、俺を見つめる。
 ほんの少し、寂しそうな顔をしてから短冊を書き進めた。視線を短冊に向けたまま返答してくれた。
 
「楽しくないというか……一年に一度しか会えないなら、二人っきりにしてあげたいなって……」
 
 ああ、なるほど。
 確かになと、考えてしまう。
 
 恋人と一年に一度しか会えないんだから、誰にも邪魔されたくないよな。
 
 そんなふうに考えていると、俺の手の上に彼女の手が添えられた。
 
「私は一年に一度なんて嫌ですよ?」
 
 挑戦的に見えるけれど、その奥に寂しさの色が見える。
 
 俺は立ち上がって彼女を抱き寄せた。
 
「俺だって嫌だよ。ずっとそばにいてね」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:七夕

7/6/2024, 12:33:09 PM

 職場の同期であり、同僚であり、友達の彼女。
 彼女には仲の良い人がいて、彼女はその人、救急隊の先生を〝気になる人〟だと言っていた。
 
 二人の会話は柔らかくて、暖かくて、愛らしい。
 どちらの見た目も可愛いタイプだから、見ているとほっこりする二人だ。
 
 なんか、会社の裏に呼ばれたぞ。
 
 前も遊びに行く約束をしていたから、変に詮索しない方がいいかな……。
 
 
 しばらくして、二人が戻ってきた。どことなく、ぎこちなさと顔が赤い気がする。
 
 お互いに手を振って、先生は帰った。
 
 彼女の耳が真っ赤だ。いつもと違ってギクシャクしている。
 
「どうしたの?」
 
 私が声をかけると、彼女は勢いを付けて振り返った。そして、何か言おうとしつつも、視線を逸らす。
 どうしようか悩んでいるみたいだ。
 
「えっと……」
 
 彼女は私の腕を取り、裏の事務所に連れていく。
 
「お、おつきあいすることに……なりました」
 
 頬を赤らめつつ、今まで見た中で一番可愛らしい笑顔を見た。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:友だちの思い出

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