一緒に暮らすようになって、初めて迎える新しい季節に合わせた買い物をしようと休みを合わせた。
「やっぱり、夏に向けて冷感の寝具が欲しいですね〜」
「そうだね。せっかくなら足りない物を一通り揃えよう!」
「はい!!」
嬉しそうに微笑む恋人は、ぱたぱたと走ってくるりと振り返る。
「危ないよ、周り見てね」
「うふふ、はーい」
青年も軽く走り、楽しそうにしている恋人の手を握る。
「つかまえた」
「ふふ、つかまっちゃいましたね」
青年もつられて笑顔になった。
「まずは寝具」
「うん!」
ふたりで寝具コーナーに向かうと、色とりどりの寝具が並んでいた。
「どの色がいい?」
青年は挑戦的に彼女に微笑む。
その挑戦を受けるように、彼女も微笑んだ。
「もちろん……」
「「水色!!」」
声が重なった。
クリームソーダだけじゃなく、ふたりを近づけたきっかけのひとつは、好きな色が同じだったこと。
青年は、恋人がどう答えるか分かっていて聞いた。もちろん、彼女もその事を分かって答えた。
ふたりの部屋は、白を基調にしつつも水色をメインにしたものなのだから。
おわり
お題:好きな色
まだしばらくは松葉、取れないよなぁ……。
救助をしている途中に、足を滑らせて怪我をしてこの始末で、本当に情けなくなる。
でも、情けないなんて見せたくないから、自虐で笑ってみせる。
仕方がないなと、みんな笑ってくれたけれど、胸の奥にモヤモヤが広がっていた。
先輩に送ってもらって家に帰る。玄関を開けると恋人がそこにいて驚いた。
ソファに座って、みんなの時と同じように、自虐に笑ってみせる。
すると彼女は俺を抱きしめてくれた。俺に痛みが出ないように、気を遣った抱きしめ方をしてくれるのが分かる。
「……大丈夫じゃないです」
「いや、大丈夫だよ」
それでも笑って誤魔化した。
それなのに、少しだけ間を置いてから、更に力を入れて俺を抱きしめてくれる。
「あなたは大丈夫ですよ」
ああ、本当に。
君はそういう子だよ。
俺が凹んでいること、絶対に気がついてるよね。でも、それを言葉にしない。俺が俺でいることを肯定してくれるんだ。
さすがに嬉しい気持ちで溢れちゃうよ。
「ありがとう」
俺は彼女を抱き締め返した。
足が治ったら、もっと頑張ろう!
おわり
お題:あなたがいたから
紫陽花と雨の演奏会が続く中、合いの手のような足音を立てながら、ふたりはのんびり歩いていく。
「あ……」
道が少し細くなっていた。
青年は、少し考えたあと、笑顔になって自分の傘を彼女に傾ける。
「おいで」
青年の声が、優しく響き渡った。
その声が、言葉が嬉しくて彼女は傘を畳み、彼の傘に入る。すると彼の手が肩に回された。
「離れちゃダメだよ」
そして、ゆっくりと歩みを進めた。
おわり
お題:相合傘
今日は早く帰れた。
二人分の夕飯の支度をすると、電話がかかってきた。
それは、彼の先輩からだった。
彼が救助中、落下事故に巻き込まれたと聞いた。
全身が凍りついて、全ての色が喪われそうだった。
「心配しなくて大丈夫だよ、俺が送っていくから」
「ありがとうございます、待っています」
暫くすると玄関のチャイムが鳴り響いた。
夕食の支度を止めて、玄関に走る。
玄関を開ける前に、鍵が開けられて、松葉杖を付いた彼がそこにいた。
「あ、びっくりした。ただいま」
自分の状況を見て、気まずそうに苦笑いしながら〝ただいま〟の挨拶をしてくれる。
「おかえりなさい。あれ、先生は?」
「あ、そこまで送ってくれた……ってことは、聞いた……よね」
何も言葉を紡げず、頷いた。
私は彼の荷物を持ち、靴を脱がせる。
「ありがとう」
彼は居間にあるソファに座った。
「さすがに座らせてね。恥ずかしいー、ドジって落っこちちゃった」
困ったように笑う彼を見て、胸に火が点いた。
確かに心配した。不安だった。でも強がる彼を見て、違うところに痛みを覚えた。
一歩前に進み、彼に負担がかからず、彼の顔が隠れるように抱きしめる。
「無事で良かったです」
「うん。心配させて、ごめん」
「それもこわかったです」
「うん、でも大丈夫」
軽い声で安心させるように言ってくれる彼。
それが強がりだって分かる。
だから。
少しだけ、抱きしめる腕に力を入れた。
「……大丈夫じゃないです」
「いや、大丈夫だよ」
大丈夫じゃないよ。
絶対に大丈夫じゃない。
〝ドジった〟って軽く言ったけれど、絶対に悔しいって思ってる。もっと上手くできたはずだって思ってる。
でも、これを言葉にしたくない。
だから
「あなたは大丈夫ですよ」
それだけを伝えた。
会話になっていないと言われたら、その通り。
でも。
彼のまとう空気が変わった気がした。
「ありがとう」
そう言いながら、強く抱きしめ返してくれた。
おわり
お題:落下
「待って!!」
後ろから、青年の声がかかった。
彼女が振り返ると、そこには心配した表情の恋人の姿があった。
「どうしたんですか?」
かけられた声に混ざった緊迫感。それに驚きつつも、何にそう思ったのかを、彼女は聞く。
よくよく見てみると、彼の表情が固く、汗が流れていた。
一歩、また一歩と近づき、彼は彼女を抱きしめる。
「え、え!? 本当にどうしたんですか!?」
抱きしめる腕に力が込められる。少しだけ苦しいと感じながらも、何が彼を不安にさせたのか知りたかった。
「溶けて、消えちゃいそう」
ずきり。
と、胸に痛みが走る。
彼は本当にそう思ったのだろう。
彼女に心当たりが、ないでもないのだ。
彼女は安心して欲しくて、彼の身体を強く抱きしめ返した。
「消えません。そばにいます」
「ほんと?」
「はい。これからも、ずっと……」
私にも、未来を信じさせて。
おわり
お題:未来