とある恋人たちの日常。

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6/16/2024, 11:37:59 AM

 想像ついただろうか。
 こんな出会いが待っていることを。
 
 
「ねえ。一年前、なにしてた?」
 
 なんの気も無しに、青年が恋人にそう聞く。
 彼女は驚いた表情で振り返ると、哀愁漂う顔をして、視線を戻した。
 
「余り……思い出したく、ないです」
 
 俯く彼女を見て、今度は青年の方が驚く。
 普段、明るい表情をしているから、こんな顔をするとは思わなかった。
 
 ひとつ、瞬きをすると、目の端に雫を貯めながら微笑む。
 
 青年は何も言葉に出せず、立ち上がって彼女を抱きしめた。彼女もそれに応える。
 
「ここに来て。あなたと出会えて、今がとてもしあわせなんです」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:一年前

6/15/2024, 12:12:33 PM

 ソファに座って、ページをめくる。
 手には薄い絵本。
 彼女は柔らかく微笑みながら、ゆっくりめくっていた。
 
「それ、お気に入り?」
 
 恋人の青年が隣に座るって、彼女の肩に頭を乗せた。
 
「はい。社長からもらったのですが、なんか好きで……」
「読み聞かせてほしいな〜」
 
 珍しいなと、彼女は思う。
 肩に頭を乗せることも、読んで欲しいと言うことも。
 
 でも、それが彼女には嬉しくて、胸が暖かくなる。
 
「仕方がないですねぇ」
 
 そう言いながら、青年に向けて身体を傾ける。すると、青年は改めて肩に頭を乗せた。
 ふふっと笑みがこぼれる。
 そして、本を最初に戻すと、甘やかな声が部屋に響いた。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:好きな本

6/14/2024, 10:48:30 AM

 雨と紫陽花が聴かせる演奏会が終わりを告げようとしていた。
 
 繋いだ手を離さず、空を仰ぐ。
 
「雨、やむかな……」
「今は、やまないでほしいかも……です」
 
 雨がやむか、やまないか。
 スマホを取り出せば調べられるだろう。
 
 でも、なんか。そういうのじゃない気がした。
 
「そうだね」
 
 雨がやむのか、やまないのか分からない。だけど、自然にまかせるのも良いのかもしれない。
 
「あ……」
 
 ぽつりぽつりと、雨と紫陽花の演奏会が再開された。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:あいまいな空

6/13/2024, 10:58:16 AM

 しとしとしとしと。
 
 降る雨が花や葉に当たり、優しい音を奏でる。
 そこに二人の足音が加わった。
 
 今日は花見に来た。雨とともに見ると良いと思う花見に。
 
 両端には色とりどりの紫陽花が連なっている。
 少し途切れてはまた見事な紫陽花たち。
 
「足元、気をつけてね」
 
 ぬかるみを渡った後、青年が恋人に手を差し伸べた。
 
「はい、ありがとうございます」
 
 彼女は嬉しそうに微笑んで、青年の手を取って、ゆっくりとぬかるみを超える。
 
 彼女は、そのまま後ろを振り返ると、先程まで歩いていた紫陽花の道が連なっていた。
 
 しとしとしとしと。
 
 動かない彼女を怪訝に思い、離さなかった手に力を込める。それに気がついた恋人は振り返った。
 
「雨が降ると低気圧で、頭痛くなるんですけれど……」
「うん」
 
 彼の声を聞いた後、彼女は再び言葉を止める。
 
 しとしとしとしと。
 
「雨の音が音楽みたいで、安心感がありますね」
 
 ここで言葉を返すのは無粋かな。そう思った青年は、恋人の手を握って、しばらく紫陽花と雨が奏でる音楽と、その景色を堪能した。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:あじさい

6/12/2024, 2:20:33 PM

 楽しいことが好き。シリアスは苦手。
 それでも、逃げられないことは沢山ある。
 
 仕事のことでも、生活のことでも。
 
 たくさんの〝楽しい〟に囲まれていても、時折訪れる逃げることが出来ない〝シリアス〟。
 
 
 
―――――
 
 
 彼女の職場は、時に事件、事故に巻き込まれやすい場所にある。
 慣れて油断した時に、彼女の職場で事故からの事件が起こったと聞いた。
 
 頭の中で混乱して、彼女のことが心配になるが、俺は俺の仕事……救急隊としての仕事をした。
 
 救助で病院に戻った時、彼女がいた。
 背筋が凍る。
 
 ほんの一瞬だけの動揺だったが、俺は目の前の救助に集中した。
 
 
―――――
 
 
 今回の事故対応が一段落した時、休憩と称して彼女の職場に向かった。
 彼女の会社の近くに着くと、スマホを取り出して彼女を呼び出す。
 
 彼女は、仕事を抜け出して、俺のところに走って来てくれた。
 
「どうしたんですか?」
「大丈夫!? さっき、病院にいなかった!?」
「あ! あれは友達のお迎えと、私もちょうどケガをしちゃったので、治してもらおうって行ったんです」
 
 彼女は恥ずかしそうに照れ笑いをする。
 
 そうか、あの事故に他の社員が巻き込まれたのか。
 
「そ、そっか。友達は無事?」
「はい、お陰様で!」
「君は無事?」
「私はもっと元気です!!」
 
 俺は安心して、しゃがみこんでしまった。
 
「心配……してくれたんですか?」
 
 彼女は俺に寄り添うようにしゃがみこんでくれた。
 俺は小さく頷いた。
 
 彼女が俺の両手を取って、立ち上がらせてくれる。
 
「私は無事です。心配してくれて、ありがとうございます」
 
 彼女は優しい声で言いながら、俺に微笑む。
 視界が涙で歪みそうになるのをグッと我慢して、彼女を強く抱きしめた。
 
「もう! 俺、こういうことは本当に、苦手なんだからね〜」
 
 
 
おわり
 
 
お題:好き嫌い

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