しとしとしとしと。
降る雨が花や葉に当たり、優しい音を奏でる。
そこに二人の足音が加わった。
今日は花見に来た。雨とともに見ると良いと思う花見に。
両端には色とりどりの紫陽花が連なっている。
少し途切れてはまた見事な紫陽花たち。
「足元、気をつけてね」
ぬかるみを渡った後、青年が恋人に手を差し伸べた。
「はい、ありがとうございます」
彼女は嬉しそうに微笑んで、青年の手を取って、ゆっくりとぬかるみを超える。
彼女は、そのまま後ろを振り返ると、先程まで歩いていた紫陽花の道が連なっていた。
しとしとしとしと。
動かない彼女を怪訝に思い、離さなかった手に力を込める。それに気がついた恋人は振り返った。
「雨が降ると低気圧で、頭痛くなるんですけれど……」
「うん」
彼の声を聞いた後、彼女は再び言葉を止める。
しとしとしとしと。
「雨の音が音楽みたいで、安心感がありますね」
ここで言葉を返すのは無粋かな。そう思った青年は、恋人の手を握って、しばらく紫陽花と雨が奏でる音楽と、その景色を堪能した。
おわり
お題:あじさい
6/13/2024, 10:58:16 AM