今日の夕飯は俺が作った。
恋人は季節柄か、体調を崩してソファにぐったりしている。ベッドで休むほどではないとは言え、頭痛が酷く身体が重いと言うのだ。
職業柄、彼女を診た。診断結果を分かりやすく言うなら気象病と言うやつだ。
「頭痛い〜」
「うんうん。この気圧じゃ仕方がないね。今日は俺がやるから休みな」
「うう……ありがとうございます……」
へこたれている彼女の頭をゆっくり撫でた。
「雨が少ないところなのに、それでもよく雨が降るね」
「明日も、みたい……」
スマホで明日の予報を見ている。その画面を覗くと紺色の傘マークがあった。こりゃ、相当降るな。
今度は俺自身のスマホて気圧で頭痛が来るかアプリをら確認する。見事に〝超警戒の爆弾マーク〟があった。
俺はシフトを思い出しながら、彼女が落ち着くようにぽんぽんと肩を音頭をとって叩いた。
「これからの季節的に仕方がないよ。天気が相手なんだから気にしないで。本当に無理しちゃダメだからね」
「はい、ありがとうございます……」
彼女はしょんぼり項垂れる。動物の耳があったらしょぼんと耳が落ちている状況だな。
「だから、元気になったら俺を助けてね」
いつもは俺が助けて貰っているんだから。
おわり
お題:梅雨
彼女のイメージカラーは白か、かなり薄い水色。
本人も全体的に色素が薄くて透明度の高い。そんな彼女。
「なんですか、そんなに見て」
夕飯後。
のんびりとソファに座りながら、そんなことを考えていた。ぼんやりと彼女を見つめていたものだから、不審に思った彼女から声がかかった。
「いや……キレイだなって」
「な、に、言っているんですか!?」
慌てながら、視線を逸らす彼女。よく見れば耳まで赤い。
「なんというか、汚れてない感じ?」
それを伝えた瞬間。唇を尖らせてこっちをねめつける。
ゆっくり近づいたかと思うと、膝に乗っかった。
「わたし、そんなに無垢じゃないですよ」
そう言うと、彼女の温もりが全体に伝わった。
おわり
お題:無垢
「これってどう思います?」
「うーん、難しいなあ……」
「ですよね。でも、うちの会社では結構大きな問題になっているんです」
家に帰って、夕食を済ませた二人。ソファに座って二人が抱えている悩みを話し合っていく。
あーでもない。
こーでもない。
職種の違う二人は、違う目線で話し合う。
費やす時間は短いものではなかった。
「難しいねぇ……」
青年がソファに身体を預けながら言う。さすがに煮詰まった感が否めなかった。
「大事になり過ぎると、私たちじゃどうにも出来ませんしねぇ……」
そう言いながら、彼女は立ち上がって台所に足を向ける。
「どうしたの?」
「糖分入れましょう!」
彼女は取っておきのグラスを出し、冷蔵庫を開けて、氷と炭酸を注ぐ。棚からシロップを出し、鮮やかな色に変化させる。そしてポンとアイスクリームを乗せた。
「クリームソーダ!!」
「はい!!」
彼女が作ってくれたクリームソーダを口に含むと、その甘さが身体に染み渡る。疲れた脳みそにも効くというものだ。
休憩にしっかりと時間をかけると肩の力が抜けた気がした。
「まだまだ?」
青年は恋人に挑戦的なほほ笑みを向ける。
「明日、休みですから、まだまた、です!」
二人の話し合いは、まだ。
おわり
お題:終わりなき旅
いつもにも増して、視線が痛い。
頬を膨らませた恋人が、正座した俺の目の前で仁王立ちしていた。
心当たりは、まあまあある。
アレかな、コレかな。
あ、この前、彼女用のクリームソーダを勝手に飲んだからかな?
考えれば考えるほど、心当たりしかなくて苦笑いしてしまった。
「え、えっとね、喉が乾き過ぎたのと、甘いものが欲しくてつい……」
思い当たるものが多過ぎるが、その中で当たりどころの大きいものから、謝ろうと言葉を選ぶ。
「そんなことで、怒りません。あ、嘘です。今度、クリームソーダ買ってきてください」
アレ? これじゃない?
じゃあ、どれだ?
思いついたものを片っ端から謝罪していくが、どれも違った。
話せば話すほど、彼女の首は横に振られ、的が外れていく。
なんだ〜?
なんで、こんなに怒っているんだ〜?
頭の中に宇宙の渦のようなものが出来上がっていく。
「今日、お仕事しているところ、見えたんです」
彼女がゆっくりとしゃがみ、俺と視線を合わせてから、静かに話し始める。
それは、今日の仕事のこと。
思い起こすのは、救助を優先し過ぎて、少し危ないことになりかけた。隊長からも、その事はコテンパンに怒られたけれど、まさかそれを見られた?
彼女が正面から俺を抱き締める。
「もっと自分を大切にしてください。私が怒っているのはそこです」
顔は見えないけれど、涙声になっているのは分かった。
彼女が一番怒ること。
俺自身が、俺を大事にしない時だった。
逆ならきっと俺も同じ怒り方をするなと思うと、申し訳なさが増して、彼女を強く抱きしめ返した。
「ごめん。本当に、ごめんね」
おわり
お題:「ごめんね」
「すっかり夏だねぇ」
「その割には湿度が高くないから、過ごし易いですよね」
居間にあるベランダへ出られる大きな窓から、日が差すとある休日。
二人はソファに座りながら、喉を潤す。透き通った琥珀色の飲み物に氷が入り、ストローを回す。グラスと氷がぶつかり、からんからんと涼やかな音を立てていた。
「明日も暑いのかな」
「んーっと……」
彼女はスマホですいすいとアプリを立ち上げた。
「明日も暑いみたいです」
「そっか〜……」
なんとも嫌そうな声に恋人が疑問符を浮かべる。
「夏や暑いの、嫌いでしたっけ?」
恋人の至極単純な疑問に、青年は彼女から視線を逸らした。
「別に嫌いじゃないけど……君が半袖の薄着になるでしょ。それが嫌なのっ」
背中から彼女の強い視線を感じる。
思春期の学生じゃないのに、こんなふうに思う青年は顔も耳も熱くなっていた。
おわり
お題:半袖