いつもにも増して、視線が痛い。
頬を膨らませた恋人が、正座した俺の目の前で仁王立ちしていた。
心当たりは、まあまあある。
アレかな、コレかな。
あ、この前、彼女用のクリームソーダを勝手に飲んだからかな?
考えれば考えるほど、心当たりしかなくて苦笑いしてしまった。
「え、えっとね、喉が乾き過ぎたのと、甘いものが欲しくてつい……」
思い当たるものが多過ぎるが、その中で当たりどころの大きいものから、謝ろうと言葉を選ぶ。
「そんなことで、怒りません。あ、嘘です。今度、クリームソーダ買ってきてください」
アレ? これじゃない?
じゃあ、どれだ?
思いついたものを片っ端から謝罪していくが、どれも違った。
話せば話すほど、彼女の首は横に振られ、的が外れていく。
なんだ〜?
なんで、こんなに怒っているんだ〜?
頭の中に宇宙の渦のようなものが出来上がっていく。
「今日、お仕事しているところ、見えたんです」
彼女がゆっくりとしゃがみ、俺と視線を合わせてから、静かに話し始める。
それは、今日の仕事のこと。
思い起こすのは、救助を優先し過ぎて、少し危ないことになりかけた。隊長からも、その事はコテンパンに怒られたけれど、まさかそれを見られた?
彼女が正面から俺を抱き締める。
「もっと自分を大切にしてください。私が怒っているのはそこです」
顔は見えないけれど、涙声になっているのは分かった。
彼女が一番怒ること。
俺自身が、俺を大事にしない時だった。
逆ならきっと俺も同じ怒り方をするなと思うと、申し訳なさが増して、彼女を強く抱きしめ返した。
「ごめん。本当に、ごめんね」
おわり
お題:「ごめんね」
5/29/2024, 11:11:21 AM