とある恋人たちの日常。

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5/27/2024, 12:06:53 PM

「「から〜い!!」」
 
 夕飯を囲むのは、お土産と貰ったカレー。
 〝美味しいから!〟と渡されたカレーは激辛だった。
 二人は大の甘党。特に彼女は辛いものは苦手で、テーブルに突っ伏してしまっていた。
 
 顔を赤くし涙目の彼女。
 自分も辛いものは苦手だけれど、彼女はもっとだ。
 
「うぅ……地獄だぁ……」
 
 二人頷きながら、スプーンを進めていく。
 
「食べ終わったら、いいものあげる」
「ほんと!?」
「もちろん!」
「分かった、食べる!!」
 
 辛い中にもうま味を感じて、口に運んでいった。
 食べ終わると青年は冷蔵庫から、とっておきのものを出してくる。
 
「じゃーん!!!」
 
 青年が持ってきたのは、シュワシュワの炭酸にバニラアイスが乗った二人の大好きな飲み物。
 
「あ、クリームソーダ! 見たことないやつ!」
「そうなの、また新しく見つけたんだー!」
 
 彼女のきらきらした瞳がクリームソーダに釘付けになる。ひとつを彼女の前に差し出すと嬉しそうに受け取った。
 
 ストローを刺して吸い込むと、喉に通る炭酸が心地好い。
 
「「あまーい!!」」
 
 思わず声が揃ってしまった。
 
「ふふ、天国です」
 
 カレーで汗をかいた後に、口に含む涼やかな炭酸とクリームの甘さが口に広がると、満面の笑顔が青年に向けられた。
 
 
 
おわり

お題:天国と地獄

5/26/2024, 11:14:08 AM

 昨日は仕事が上手くいかずに、雨に当たって反省しまくっていたところ、恋人に見つかり自宅へ連行、自分の身体を大事にしなかったことへのお説教が待っていた。
 
 これも反省だなと考えながらお風呂に入ったあと、温かいココアと一緒にそばにいてくれた。
 
「大丈夫だよ」
 
 という言葉と共に。
 
 今日は仕事も休みだから二人でゆっくりしていると、雨の音もしなくなった。
 
「雨、止みましたね」
 
 窓の外を覗いた恋人が笑顔で言う。
 どんよりした空気と気持ちは、天気と共に軽くなったのが分かる。いや天気だけじゃない。
 
「今日、月は見えそう?」
 
 そう彼女に言うと
 
「うーん……まだですね」
「今日は難しいかな?」
「寝て待てば出てきてくれるんじゃないでしょうか」
「寝て待てって?」
「そう!」
 
 屈託なく笑う彼女に、楽しさが込み上げて、不覚にも笑ってしまった。
 
「お月さまにご用事が?」
 
 首を傾げて笑う恋人。
 
「そうですねぇ。明日の仕事は更に頑張れるように、お願いしようかと」
 
 冗談交じりで言うと、彼女は笑って〝大丈夫ですよ〟と返してくれる。
 
「じゃあ、早いけど。寝て待つ?」
「そのまま起きられないかも」
 
 ひとしきり笑ったあと、片付けをして、月が出るのを待つことにした。
 
 そんな〝寝待ち月〟の夜。
 
 
おわり
 
お題:月に願いを

5/25/2024, 1:01:46 PM

 この街では雨が少ないのに、仕事で失敗した時に限って雨が降るんだ。
 
 空を仰ぐと、灰色がかった雲から落ちてくる雫。
 この雨は頭を冷やせと言っているのだろうか。
 
 悔しい。
 今日のアレはもっと早く対応出来たはずだ。
 アレも、丁寧な対応が大事だったじゃないか。
 
 隊長にも、先輩にも、まだまだ及ばない。
 
 悔しい。悔しい。悔しい。
 
「なにやってるんですか!!?」
 
 悲痛な声が響いた。
 重くなった頭をゆっくりと持ち上げると、彼女が顔面蒼白で走ってくる。
 
「傘もささずに、こんなに濡れて!!!」
「あ……」
「お医者さんが不養生なんて笑えませんよ!」
 
 こんなに声を上げる彼女は珍しい。
 こちらに傘を向けるが、そうなると彼女が濡れてしまう。だから傘を押し返した。
 
「押し返さないっ!」
「でも濡れちゃうよ」
「今はあなたを濡らさないようにするの!」
「いいんだ」
「よくない!」
 
 様子がおかしいのは、きっと伝わっている。だから、こんなに怒るのかな。
 
「今日、たくさん失敗しちゃってさ。少し反省したい気分なんだ」
 
 そう笑う。すると、彼女はより一層頬を膨らませた。
 
「反省なら、温かいお風呂の中でもできます!」
 
 彼女が俺の腕を手を取る。
 
「帰りましょう」
 
 もう少し雨に当たりたかった。そういう気分だったのだ。
 
「俺はもう少し……」
「やだ」
 
 彼女を見上げると、雨のせいか瞳が潤んでいるように見えた。そして彼女の言葉。〝だめ〟という言葉ではなく、〝やだ〟だったのだ。
 
 注意ではなく彼女の意志だ。その強い瞳に抵抗する気持ちは無くなった。
 
「雨……止まないね」
 
 自分の気持ちのように降り続ける雨。
 そんな小さく呟いた言葉に振り返りもせず、彼女は袖を更に強く引っ張る。
 
「大丈夫です」
 
 軒下に着いた彼女は笑顔で振り返った。
 
「今は止まないかもですが、明日には止みますよ」
 
 重い気持ちを払拭させる彼女の微笑みにつられてしまう。
 
「自分を追い込んでもいい反省は出来ません。だから一緒に温かいご飯を食べて、お風呂に入って、しっかり反省しましょ。大好きなハンバーグ、作りますから!」
 
 ひとりじゃない。
 そう伝えてくれる、彼女の言葉に、濡れているにもかかわらず抱き締めてしまった。
 
 
 
おわり

お題:降り止まない雨

5/24/2024, 11:55:33 AM

 一緒に暮らし初めて、何年経っただろうか。
 
 あれは彼が選んでくれたもの。
 あ、これもだ。
 
 そして目に付く、うさぎ柄とパンダ柄のマグカップ。
 
 これはふたりで選んだもの。
 
 
 最初は一緒に暮らすことにも不安があった。
 所詮は他人だ。
 それでもひとつひとつの関係が、他人から恋人へ、そして家族に変えていく。
 
 彼女はこの街に来たばかりの頃を思い出す。
 色々なものに絶望して、不安を抱えつつ。一縷の希望を見て、辿り着いた街。
 
 そして、彼に出会った。
 
 彼女はふと微笑んだ。
 
 もう、大丈夫だと。
 
 
 遠い過去と未来の自分に向けて、そう言葉を紡いだ。
 
 
 
おわり

お題:あの頃の私へ

5/23/2024, 11:32:27 AM

「どうしたんですか?」
「あ、うん。なんかバイクの様子がおかしくて……」
 
 動かなくなってしまったバイクを目の前に立ち往生。そんなところに知り合いの彼女がバイクに乗って現れた。
 
 俺の台詞を聞いた彼女は、何も言うわけでもなく、俺のバイクの周りを回って、跪いて音を聞く。
 すると、何かいじっていた。
 
「さすが、手際いいね」
「もう、任せてください!」
 
 彼女は車やバイクの修理を受け持つメカニック。どんどんスキルも上がっていて、頼り甲斐のあるメカニックに成長していた。
 
 そうこうしているうちに、エンジンがかかる。
 
「さすが!!」
「今、出張修理の帰りだったので丁度良かったです!」
「なら、請求切って」
「ありがとうございます!」
「動かなかったから、本当に助かったー!」
 
 俺はこれから仕事だったので、心の底から安堵した。
 
「はい。請求書、切りました」
「ありがとー! 誰か呼ばないといけないって思っていたから本当に助かったよー」
「いいえ! またうちの店に修理かカスタムに来てくださいね」
 
 そう言うと、無線が入ったようで仕事に戻って行った。
 
 初めて会った時は頼りなくて、むしろ誰かついていないと心配になるようなタイプの彼女だったのに、成長って凄いな。
 
 そんなふうに思いつつ、貰った請求書を見る。
 
『役に立てて良かったです! お仕事頑張って!』
 
 彼女からはこういうさり気無い気遣いを沢山貰っていた。彼女の書いた文字を撫でると笑顔を思い出して、胸が暖かくなる。
 
 ああ、俺はとっくに捕まっているんだ。
 
 
 
おわり

お題:逃れられない

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