「どうしたんですか?」
「あ、うん。なんかバイクの様子がおかしくて……」
動かなくなってしまったバイクを目の前に立ち往生。そんなところに知り合いの彼女がバイクに乗って現れた。
俺の台詞を聞いた彼女は、何も言うわけでもなく、俺のバイクの周りを回って、跪いて音を聞く。
すると、何かいじっていた。
「さすが、手際いいね」
「もう、任せてください!」
彼女は車やバイクの修理を受け持つメカニック。どんどんスキルも上がっていて、頼り甲斐のあるメカニックに成長していた。
そうこうしているうちに、エンジンがかかる。
「さすが!!」
「今、出張修理の帰りだったので丁度良かったです!」
「なら、請求切って」
「ありがとうございます!」
「動かなかったから、本当に助かったー!」
俺はこれから仕事だったので、心の底から安堵した。
「はい。請求書、切りました」
「ありがとー! 誰か呼ばないといけないって思っていたから本当に助かったよー」
「いいえ! またうちの店に修理かカスタムに来てくださいね」
そう言うと、無線が入ったようで仕事に戻って行った。
初めて会った時は頼りなくて、むしろ誰かついていないと心配になるようなタイプの彼女だったのに、成長って凄いな。
そんなふうに思いつつ、貰った請求書を見る。
『役に立てて良かったです! お仕事頑張って!』
彼女からはこういうさり気無い気遣いを沢山貰っていた。彼女の書いた文字を撫でると笑顔を思い出して、胸が暖かくなる。
ああ、俺はとっくに捕まっているんだ。
おわり
お題:逃れられない
5/23/2024, 11:32:27 AM