初心者太郎

Open App
3/5/2026, 5:50:14 AM

—片想い—

大好きな君に、私は振られた。
いつかは、本当の恋人になれると信じていたのに。ただの体の関係で終わってしまった。

所詮、セフレに過ぎなかったのだ。

——俺、彼女できたから。

君の優しい声が頭の中に響く。
ついさっき、いつもと変わらない柔らかい笑顔で、そう告げられた。

「なんでよ……」

家に帰る気分にもなれなくて、路地裏で膝を抱えて座り込む。
コンビニで買った瓶酒を片手に、涙が溢れてくる。今晩はアルコールで全て忘れたい。

「ミサ、大丈夫か……?」男の声がした。
「うん……、誰よ……」

視界がぼやけて、目の前にいるのが誰かわからない。

その人は、私の体を抱えてどこかへ歩き出した。どうにでもなれ、という思いで体を委ねた。

——

俺は味噌汁を温めた。
昨晩、家に連れ込んだ君がいつ起きても良いように。

「あれ……、私、どうしてサトシの家に」

ベッドの方をみると、ミサが体を起こしていた。二日酔いのせいか、頭を抑えている。

俺は味噌汁をよそったお椀を君に差し出した。

「味噌汁飲め。少しは楽になるぞ」
「ありがとう……」

君は、ホッと息を吐く。

——どうして私を愛してくれなかったの?
——どうして誰も私を愛してくれないの?

昨晩の悲痛な叫びが、頭の中に響く。

「振られたんだってな」
「そう……。私、言っちゃったか」

君は一度小さく頷く。「うん」

「何か俺にできることがあったら言えよ」
「いつもありがとう。——またいい人見つかるかな……」

愛してくれる人なら側にいるじゃないか。
そう言いたい。
けれど君は、きっと俺を友達としてしか見ていない。

大好きな君に、幸せでいてほしい。
だから今日も、俺は君を支える。

「きっと見つかるよ」

俺は笑顔でそう言った。

お題:大好きな君に

3/4/2026, 5:05:12 AM

—ひなまつりの願い—

もうすぐ、ひなまつり。
家で雛人形を飾っていると、昔のことを思い出す。

「お母さん! どうしてうちはこんなに小さいの?」

一段の雛飾りを指差して、私は言う。
友達の家には、十二段もある、綺麗なお雛様が飾られていた。

「ごめんなさいね。うちはこれが精一杯なのよ」

母は苦い笑みを見せる。
うちは母子家庭だ。家計が苦しいことは、当時の私にもわかっていた。

「そうなんだ……」
「あんまり悲しい顔をしないでちょうだい。それでもお母さんは、あなたが幸せになれるように願っているから」
「うん……」

そして、母が本当に私を大事に想ってくれていることもわかっていた。

「うーん、そうねぇ」

母は思案顔になると、折り紙を一枚取り出した。何かを思い出しながら、折り始めた。

「何を作ってるの?」

私がそう訊いても、集中しているせいで答えてくれない。

「できた!」
「すごい!」

母は、雛人形を折り紙で作ってくれた。

「私も作る! どうやって作るの?」

そうやって私たちは、十一段分の雛人形を作った。雛壇はなかったけれど、作った雛人形は全て飾った。

母との懐かしい思い出だ。

「お母さん! 私も手伝う!」

大きな声が背中から聞こえる。振り返ると、娘が笑っていた。

今、こうやって幸せに暮らせているのは、母のおかげだと私は思う。

ひなまつりは、お雛様の大きさじゃない。
大切なのは、そこに込められた『想い』の大きさなのだ。

お題:ひなまつり

3/3/2026, 1:07:39 AM

—光芒の絆—

「ずらかるぞ」

兄が言った。
戸締りを確認してから、家を出る。

俺たちは盗みが上手くなってきた。自己紹介で特技として言えるくらいだろう。
確実に、手際が良くなっている。

黒の軽に乗り込む。

「今回も楽勝だな」

兄がハンドルを握りながら得意げに言う。

「さすがに死体が転がってたのは、びっくりしたけどね」

今回忍び込んだ民家は、高齢者の一人暮らしだった。他に誰もいないせいで、亡くなったことにも気づかないのだろう。

「データ通りだったわけだ」
「まあね。そんなことより、もっと飛ばせないのか」
「あぁ、わかってるよ」

一ヶ月前、両親が失踪した。
理由はわからない。だが、直前に両親の様子がおかしいことには気づいていた。

きっと何か怪しいことをしていたんだ——。

取り残された俺たち兄弟は、自分たちだけで生きるしかなくなった。
そうして、俺たちは盗みを始めた。

「きっとあいつ腹空かせてるだろうな」
「そうだな。何かおいしいもん食わせてやんないと」

そんな絶望的な状況の中、どうして俺たち兄弟は必死に生きようとするのか。

「ただいま」と二人で家の中に声をかける。

「お兄ちゃんたち遅い!」

長女のハナが叫んだ。ぷんぷん怒っている。
彼女はまだ小学生になったばかりだ。

「ごめんごめん。買い物行ってたら遅くなっちゃった」
「はい、いちごキャンディ」

妹がパッと明るくなる。

「宿題はしたのか?」俺は訊いてみる。
「キャンディ食べたらするもん」

高三の兄、中三の俺。
俺たち二人が、ちゃんと働けるようになるまで金を稼がなくちゃならない。

大切な妹を立派な大人に育てる。
たった一つの希望を胸に抱いて——。

お題:たった1つの希望

3/2/2026, 6:44:13 AM

—万引き—

店内の防犯カメラに、しっかり犯行シーンが映っていた。
画面の中にみえる十歳くらいの子供がパンを盗み出している。

うちのスーパーは、最近景気が良くない。こうした安価の盗みも許すわけにはいかない。

「この黄色い帽子を被った小学生男子だ。今度見つけたら捕まえるように」

店長として、店員に呼びかけた。

「店長、この子ですよね⁈」

午後三時。
バイトの男子が連れてきた。
間違いない。カメラに映っていた子供だ。

「ちょっと裏まで来てもらおうか」

俺は屈んで子供に言うと、おとなしくついてきた。

「昨日、パンを盗んだよね」
「はい」

無機質な声で返された。

「どうして盗んだのかな」
「……」

子供は何も言わない。物欲か、犯罪欲か。

「とりあえず、お家に電話してもいいかな」
「はい」

子供は、家の電話番号をスラスラと口に出した。

「じゃあ、親御さんを呼ぶね」
「……」

番号にかけた。すぐに繋がった。
お子さんが万引きをしたこと。店に来て欲しいことを伝えると電話を切った。

「君、どうして万引きをしたんだ?」

俺は、もう一度訊いてみた。

「……見てほしかったから」
「え?」
「お母さんに見てほしかったから……」

その子供は、悲壮な瞳をただ足元に向けていた。

お題:欲望

3/1/2026, 8:23:46 AM

—愛の誘拐—

大きな家を見上げて、インターフォンを鳴らした。

「はい」男の声がした。
「宅急便です」

俺がそう言うと、男は出てきた。

「こちらにハンコを」

男がハンコを捺すために俯く。
俺はそのタイミングを見計らって、瞬時に相手の口元にハンカチを押し付けた。

バタリとその場に倒れ、意識を失った。

俺は帽子を深く被り、マスクを付け直し、中へ進む。

「誰?」

部屋に入ると、一人の女性がいた。
夕日に照らされ、長い黒髪が淡く揺れている。まるでどこかの国の姫であるかのように、儚く、美しい。

「あなたを誘拐しにきました」

俺の声を聞いたその人は、驚かなかった。

「どこに連れて行ってくれるんですか?」

むしろ、笑みを浮かべていた。

「それは、教えられません。私は誘拐犯ですから」

俺は、ハンカチを彼女の口元に優しく押し当てた。
彼女の体から、スッと力が抜けてゆく。思ったよりも早い。

彼女を支えて、抱き抱える。
その時にチラッと見えた腕の痣。

「どこか遠い街で、二人っきりになれる場所で。私が必ず幸せにしてみせます」

俺は白馬の王子でも、魔法使いでもない。
けれど、彼女を愛する者として、俺は彼女を救い出したい。

俺は、彼女の左手薬指にはめられた、ダイヤの指輪を投げ捨てた。
彼女を抱き上げ、家を駆け出した。

お題:遠くの街へ

Next