初心者太郎

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3/7/2026, 1:19:48 AM

—夜のぬくもり—

深夜一時。
終電に揺られ、くたくたになりながら帰宅した。ネクタイを緩め、ジャケットをハンガーにかける。

「今日も疲れた……」

大きく息を吐いた。
ここのところ、こんな毎日が続いている。

『今日もお疲れ様。レンジで温めてね。』

達筆な女文字の書き置きのメモと共に、夕食が置いてある。
今日はハンバーグだ。

夕飯を食べ、風呂に入ると、寝るのは二時を回っていた。
妻と娘を起こさないように、そっとベッドに入った。

「おかえりなさい……」

妻がのそのそと寝返りを打って言った。

「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん。あんまり眠れなかったの」

二人の間で娘がスヤスヤと眠っている。
最近の平日は、起きている娘を見れていない。

「今日もお疲れ様。いつも頑張ってくれてありがとう」
「こちらこそ。マユミがいつも支えてくれるおかげだよ」

僕たちはキスを交わした。

「おやすみ」と言って眠りについた。
今日も六時起き。
それでも、明日を生きる活力が湧いてくる。
この小さなベッドに大切な家族がいるから。

お題:絆

3/6/2026, 6:10:19 AM

—一等の勇気—

商店街で買い物をすると、福引券を二枚渡された。一緒に買い物にきた、弟と一回ずつ引くことにした。

「くそー、ダメか」
「ドンマイ」

弟は白色を引いた。六等のポケットティッシュだ。
どうせ私も当たらないだろう、と思ってガラガラ回した。

「おめでとうございます! 一等のテーマパークペアチケットです!」

鐘の音と共に、おじさんのどデカい声が商店街に響く。周りにいるお客さんから拍手された。

視線を集めて、若干恥ずかしい。

「姉ちゃんすげえ!」
「たまには、いいこともあるもんだね」

おじさんから二枚のチケットを手渡され、私たちは家路についた。

「姉ちゃん、だれ誘うの?」

弟が興味深々で聞いてくる。
こんなにすごい物がもらえると思っていなかった私は、返答に窮する。

「うーん、どうしよっかな」

パッと思い浮かぶ人は何人かいるが、一人に絞れなかった。

「友達に聞いてみようかな」

私はそう言うと、弟は眉をひそめた。

「それって好きな人と行くやつじゃん。友達じゃなくて、好きな人誘えばいいのに」
「好きな人なんかいないし」
「嘘だね。最近スマホの通知ばっか気にしてんじゃん!」

私には返す言葉がなかった。
実は好きな人はいる。だが、好きな人を誘う勇気が私にはなかった。

「別に違うし……」
「ふうん」

帰ってベッドに寝転がり、考えた。
卒業式まで、あと一ヶ月。彼と進路が違うことはわかっている。

「ふぅ」と小さく息を吐いた。
たまには、勇気を出してみよう。

指をフリックして、文字を打ち込む。

『〇〇のペアチケット当たったんだけど、一緒に行かない?』

震える指で、送信ボタンを押してみた。

お題:たまには

3/5/2026, 5:50:14 AM

—片想い—

大好きな君に、私は振られた。
いつかは、本当の恋人になれると信じていたのに。ただの体の関係で終わってしまった。

所詮、セフレに過ぎなかったのだ。

——俺、彼女できたから。

君の優しい声が頭の中に響く。
ついさっき、いつもと変わらない柔らかい笑顔で、そう告げられた。

「なんでよ……」

家に帰る気分にもなれなくて、路地裏で膝を抱えて座り込む。
コンビニで買った瓶酒を片手に、涙が溢れてくる。今晩はアルコールで全て忘れたい。

「ミサ、大丈夫か……?」男の声がした。
「うん……、誰よ……」

視界がぼやけて、目の前にいるのが誰かわからない。

その人は、私の体を抱えてどこかへ歩き出した。どうにでもなれ、という思いで体を委ねた。

——

俺は味噌汁を温めた。
昨晩、家に連れ込んだ君がいつ起きても良いように。

「あれ……、私、どうしてサトシの家に」

ベッドの方をみると、ミサが体を起こしていた。二日酔いのせいか、頭を抑えている。

俺は味噌汁をよそったお椀を君に差し出した。

「味噌汁飲め。少しは楽になるぞ」
「ありがとう……」

君は、ホッと息を吐く。

——どうして私を愛してくれなかったの?
——どうして誰も私を愛してくれないの?

昨晩の悲痛な叫びが、頭の中に響く。

「振られたんだってな」
「そう……。私、言っちゃったか」

君は一度小さく頷く。「うん」

「何か俺にできることがあったら言えよ」
「いつもありがとう。——またいい人見つかるかな……」

愛してくれる人なら側にいるじゃないか。
そう言いたい。
けれど君は、きっと俺を友達としてしか見ていない。

大好きな君に、幸せでいてほしい。
だから今日も、俺は君を支える。

「きっと見つかるよ」

俺は笑顔でそう言った。

お題:大好きな君に

3/4/2026, 5:05:12 AM

—ひなまつりの願い—

もうすぐ、ひなまつり。
家で雛人形を飾っていると、昔のことを思い出す。

「お母さん! どうしてうちはこんなに小さいの?」

一段の雛飾りを指差して、私は言う。
友達の家には、十二段もある、綺麗なお雛様が飾られていた。

「ごめんなさいね。うちはこれが精一杯なのよ」

母は苦い笑みを見せる。
うちは母子家庭だ。家計が苦しいことは、当時の私にもわかっていた。

「そうなんだ……」
「あんまり悲しい顔をしないでちょうだい。それでもお母さんは、あなたが幸せになれるように願っているから」
「うん……」

そして、母が本当に私を大事に想ってくれていることもわかっていた。

「うーん、そうねぇ」

母は思案顔になると、折り紙を一枚取り出した。何かを思い出しながら、折り始めた。

「何を作ってるの?」

私がそう訊いても、集中しているせいで答えてくれない。

「できた!」
「すごい!」

母は、雛人形を折り紙で作ってくれた。

「私も作る! どうやって作るの?」

そうやって私たちは、十一段分の雛人形を作った。雛壇はなかったけれど、作った雛人形は全て飾った。

母との懐かしい思い出だ。

「お母さん! 私も手伝う!」

大きな声が背中から聞こえる。振り返ると、娘が笑っていた。

今、こうやって幸せに暮らせているのは、母のおかげだと私は思う。

ひなまつりは、お雛様の大きさじゃない。
大切なのは、そこに込められた『想い』の大きさなのだ。

お題:ひなまつり

3/3/2026, 1:07:39 AM

—光芒の絆—

「ずらかるぞ」

兄が言った。
戸締りを確認してから、家を出る。

俺たちは盗みが上手くなってきた。自己紹介で特技として言えるくらいだろう。
確実に、手際が良くなっている。

黒の軽に乗り込む。

「今回も楽勝だな」

兄がハンドルを握りながら得意げに言う。

「さすがに死体が転がってたのは、びっくりしたけどね」

今回忍び込んだ民家は、高齢者の一人暮らしだった。他に誰もいないせいで、亡くなったことにも気づかないのだろう。

「データ通りだったわけだ」
「まあね。そんなことより、もっと飛ばせないのか」
「あぁ、わかってるよ」

一ヶ月前、両親が失踪した。
理由はわからない。だが、直前に両親の様子がおかしいことには気づいていた。

きっと何か怪しいことをしていたんだ——。

取り残された俺たち兄弟は、自分たちだけで生きるしかなくなった。
そうして、俺たちは盗みを始めた。

「きっとあいつ腹空かせてるだろうな」
「そうだな。何かおいしいもん食わせてやんないと」

そんな絶望的な状況の中、どうして俺たち兄弟は必死に生きようとするのか。

「ただいま」と二人で家の中に声をかける。

「お兄ちゃんたち遅い!」

長女のハナが叫んだ。ぷんぷん怒っている。
彼女はまだ小学生になったばかりだ。

「ごめんごめん。買い物行ってたら遅くなっちゃった」
「はい、いちごキャンディ」

妹がパッと明るくなる。

「宿題はしたのか?」俺は訊いてみる。
「キャンディ食べたらするもん」

高三の兄、中三の俺。
俺たち二人が、ちゃんと働けるようになるまで金を稼がなくちゃならない。

大切な妹を立派な大人に育てる。
たった一つの希望を胸に抱いて——。

お題:たった1つの希望

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