—闇に沈む再会—
同窓会の会場である、横浜の洒落たホテルの宴会場に着いた。普段なら入る事が憚られる高級感が漂っている。
今日は十年ぶりに高校時代の友人と会える。それだけで心は舞い上がっていた。
「あれ、水野君!久しぶり!」
エントランスを抜けて受付まで向かうと、学級委員長だった水野が立っていた。
「水戸さん、久しぶりだね。開会の挨拶が終わったらそっちに行くから、後で話そうよ」
「もちろん!挨拶頑張ってね。じゃあ、また後で」
そう言って、中へ進んだ。
私の高校は県内の他の高校と比べると人数は少なく、一学年百五十人程しかいない。
だが会場は、ぎっしり詰まっていた。
「おーい、葉月!」
会場内を見渡しながら歩いていると私を呼ぶ声が聞こえた。声の方を見ると、かつてテニス部で青春を共にした友人達が、手を振っていた。
「花、咲希、美沙!」
久しぶりの再会に笑顔を交わしながら、私達は語らい合った。
気づけば定刻になり、水野がステージの上に立っていた。
「それでは、皆さん集まった様ですのでこれより同窓会を始めたいと思います」
話し声がピタリと止み、全員が水野の方を向く。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。十年ぶりの再会を、どうぞ楽しんで行ってください。では、これから——」
挨拶の途中だった。突然照明が消え、会場内は闇に包まれた。参加者は騒然とし、会場はごった返した。
一分間ほど経過した後、会場はまた明かりを取り戻し、安堵の空気が漂った。
「これで大丈夫だろう」と誰もが思ったその時——。
「きゃー!」
女性の悲鳴。ステージの方からだった。
私はステージを見ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
ステージの上に横たわっている人の姿。胸には血が広がり、何か鋭い物が突き刺さっている。
その姿は間違いなく、私の友人の水野だった。
お題:friends
—太陽と月—
「素敵なメロディだね。何て言う曲なの?」と彼女は窓から顔を覗かせて言った。
彼女はいつも僕のピアノの練習を見に来る。けれど、今弾いたこの曲はまだ聴かせたことがなかった。
「この曲は作ったばっかりでまだ曲名も歌詞もないんだ。どうかな?」
僕はピアノが大好きで毎日練習している。しかし作曲をする事は初めてだった。期待と不安が入り混じった気持ちで耳を傾ける。
「明るくて元気が出る曲だね。凄く好き。なんていうか……、心がパッと晴れる感じがする!」
ホッと胸を撫で下ろす。
「もし良かったらさ、私が作詞してみても良いかな?」
彼女も音楽が好きらしい。僕はもちろんOKの返事を出した。譜面をコピーして彼女に手渡す。
「出来るだけ早く完成できる様に頑張るね」
「うん、楽しみにしてる」
そう言うと、彼女の姿は見えなくなった。
作曲の際には、まず何を決めるか。それはテーマである。そのテーマを元に構想を膨らましていくのだ。
今回のテーマは『彼女』
明るくて、一緒に居て元気になる。そんな彼女を思い描いて作曲した。
彼女が紡ぐ歌を、心待ちにしながら僕はまた鍵盤に指を置いた。
お題:君が紡ぐ歌
—命の境—
白く深い霧に覆われた世界。地はなく、どこまでも開けた空間に、僕は浮かんでいた。
死んでしまったのか。
通学中のこと。原因は不明だが、トラックが歩道を乗り上げ、僕は跳ね飛ばされた。
まさか自分が交通事故に遭うなんて思いもしなかった。
その時、パタパタと羽音が聞こえた。一羽の白い鳥が僕の元に舞い降りる。
「ようこそ、生と死の境界へ。私は案内人のシロと申します」
礼儀正しい鳥だなぁと僕は感心した。
「あちらの光っている場所に行くと、新しい命を授かり、生まれ変わる事ができます。次にあちらの闇深い場所に行くと、元の世界で再び生きる事が出来ます」
霧の向こうに、確かに光と闇が見えた。
「どちらに行かれますか?」
問われるまでもなく、僕の体は自然と動いていた。
「では、行ってらっしゃいませ」
目を覚ますと、病室のベッドの上に居た。あちこちに包帯が巻かれ、事故の悲惨さが見える。隣では母が椅子で眠っていた。
まだやり残した事がいっぱいあるのだ。それが終われるまではまだ死ねない。
この選択を後悔しない様に生きようと思う。
お題:光と霧の狭間で
—思い出は湯煙に消える—
「よし、行くぞ」
運転手の佐野の声を号砲に、三人は車から飛び出して走り出した。
男子大学生三人は、大学最後の冬休みの思い出作りに、温泉に来ていた。
それも混浴の温泉に。そのせいか、鼻息が荒い。
「本当に女の子はいるんだよね⁈」と道中で岡本は言った。
「当たり前だ、今は温泉シーズンだぞ。いないわけないだろ」と三田が胸を張る。
普段はあまり運動しない三人だが、この時ばかりは機敏な動きを見せた。
エントランスを抜けて、受付で入場券を買う。急いで脱衣室へ向かった。
会話することもなく、黙々と準備に取り掛かる。そして準備を終えた三人はタオルを巻いて戸を引いた。
いざ、戦場へ!
「……」
三人は固まった。目の前に広がる光景は、まるで動物園。大量の猿が湯に浸かっているのが見える。
ここは、人間と猿が混浴できる温泉だったらしい。
しばらく猿と、湯を堪能した。
「違う……、俺たちが見たかったのはこんなんじゃない」
サウナの中で、佐野は涙を流して言った。
「で、でも、案外楽しかったよね」と岡本が慰めるように言う。
「もう少し調べてから来ればよかったな」と三田は肩を窄めた。
サウナの中の砂時計が、虚しく音を立てていた。
お題:砂時計の音
—受け継ぐ想い—
私の心優しい友人の話をしよう。
「父さんに友達がいたの?」と息子は首を傾げて言った。
ああ、私の数少ない友人だ。その友人は珍しい事に、いつも星図を持ち歩いていた。
「どうして?」此処でもまた、首を傾げる。
彼は自分でそれを作ろうとしたからだ。星が好きでね、その魅力を色々な人に伝えたかったらしい。
「すごい人なんだね」
もちろんすごいさ。そして彼は、見事に自作の星図を完成させたんだ。
「えー!見たい!」
ごめんユミコ。私の部屋からあの星図を持ってきてくれないか。
「ええ、いいわよ——はい、どうぞ」一分程の間の後、妻が渡した。
「うわーすごい!」
すごいだろう。これがあれば星の位置や名前、星座まで全て知れるさ。
「ねぇ、どうしてブツブツがついてるの?」
それは、点字って言うんだ。私のように目が見えない人でも星を学べるように、それがついているんだ。
「その人はお父さんの為に作ってくれたんだね」
ああ。その友人のおかげで、私は星を知れた。それをお前にあげよう。
「いいの?」そう言って、頬に光が差したように笑った。
もちろん。きっとお前も星が好きになる。大切に使ってくれよ。
「やったー!ちょっと星を見てくる!」
気をつけて行っておいで。
友人よ。星図は息子に託した。本当に感謝している。お前が旅から帰ってきたら、是非お礼を言わせてほしい。
どうか、星の下でまた会えますように。
お題:消えた星図