—スノードーム—
雪が降っている。幸いそこまで積もってはいない。僕は雪の上を歩いていた。
何故ここにいるのかは、覚えていない。
「ハルト、雪合戦しようよ!」
一人の青年が駆けてきた。背丈は一七〇センチくらい。
彼は僕の名前を知っているが、僕は誰か分からなかった。目線は僕と同じくらいだから、歳はあまり変わらないだろう、と思う。
「いいよ」
彼をどこかで見たことがあるような気がする。気のせいかもしれないけれど。
僕たちは両手で雪玉を丸め、投げ合った。
「負けないぞ!」
「こっちこそ!」
楽しい。
あれ、前にもこうやって誰かと雪合戦をしたはずだ。だが、思い出せない。
頭が痛い。酷い頭痛がする。
「ねぇ、俺のこと覚えてる?」彼は訊いた。
「分からない……」
「また遊ぼう」その場でうずくまった僕を置いて、謎の青年は消えてしまった。
——
俺は病室でVRゴーグルを外した。仮想空間から帰ってきた。
「リク君、どうですか?ハルト君は何か思い出せそうですか」白衣を着た男性が訊いた。
彼は医師であり、記憶喪失に関しての研究を行っている斉藤さんだ。記憶を失ったハルトのためにサポートしてくれている。
「まだ分かりません」
「そうですか……」
俺たちが育った場所は、毎年よく雪が降る。よく雪合戦して遊んだから、何か思い出してくれるだろうと期待したけれど、そう簡単にはいかないようだ。
「では、もう少し様子を見てみましょう」
「はい、よろしくお願いします」
俺が絶対思い出させてやるからな、そう心の中で呟いた。
お題:スノー
12/13/2025, 2:05:45 AM