初心者太郎

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2/27/2026, 11:48:44 PM

—分身—

宅急便で自分宛に何かが届いた。
誰から送られたのかはわからないが、とりあえず中を開けてみた。

「なんだこれ」

白くて丸い物体。真ん中に赤いボタンが付いている。
俺は、そのボタンを押してみた。

「え……?」
「やあ」

その物体はボタンを押した途端、変形して姿形が全く俺になった。

「何かしてほしいことあったら言ってくれ」
「……じゃあ、明日、代わりに学校行ってきてくれないか」
「わかった」

次の日。
もう一人の俺は、制服に着替えて家を出た。

少しだけ心配になったが、多分大丈夫だろうと思った。
俺には友達がいないからだ。

「いってきます」と母の声が玄関から聞こえた。

母は仕事の時間だ。
これでやっと一人きりになれた。

俺は思う存分ゲームをした。学校にいるよりもずっと楽しい。
気づけば俺が帰る時間になっていた。

「ただいま」
「おかえり、どうだった?」

まるで母の訊くようなことを言ってしまった。

「楽しかったよ」
「楽しかった?」
「うん。じゃあ俺、宿題するから」

もう一人の俺は自室に向かった。
楽しかった、という彼の言葉が引っかかっていた。

次の日。
今日は学校に行ってみることにした。

「おはよう」

一昨日までは全く話さなかった薮木に挨拶された。一瞬戸惑ったが彼の視線はこちらを向いている。

「おはよう……」
「『クロノ』のイベントやったか? あのめっちゃゴールドもらえるやつ」

クロノ——クロノブレーカーは、俺の好きなゲームだ。

「やった!——」

俺は薮木と語り合った。

「おはよう」とまた新たな仲間も加わった。
岡田だ。「あのボス強すぎないか?」

初めてクラスメイトと話すことができた。
昼食も一人じゃないし、放課後も初めて誰かと遊んだ。
今日はとても楽しかった。

「ただいま!」

家に帰り、大きな声で言ったが返事はない。
俺は階段を駆け上がり、ドアを開けた。

もう一人の俺はもういなくなっていた。

『どうか、素晴らしい人生を』

机の上に書き置きされたメモ。

「ありがとう」

天を見上げ、彼に届くように言った。

お題:現実逃避

2/27/2026, 4:37:12 AM

—心理テスト—

君は今、夢をみている。
楽しい夢だ。
隣にいるたった一人と、どこか遠い地で、笑い合い、手を取り合い、幸せな時間を共に過ごしている。

君は、隣にどんな人を思い浮かべる?

家族でも友人でも良い。
誰か一人を思い浮かべて欲しい。

今、君の頭に思い浮かんだその人は、きっと君の一番大切な人だ。

もし。
僕のように、たったの一人も思い浮かばなかったそこの君。
どうか、そんな君に幸あれ。

お題:君は今

2/26/2026, 1:35:42 AM

—星降る雨—

鉛色の空から、ポツポツと雨が降り始めた。やがて、このまま帰るのが憚られるほど、雨脚が強まってきた。

「参ったな」

老人はやむを得ず、近くの屋根のあるパン屋に避難した。
物憂げな空を眺める。
しばらくは、止みそうにない。

「お客さん?」

すると店のドアから女の子が出てきた。
中学生くらいにみえる。

「すみません。急に雨が降り始めたもんだから、雨宿りさせてもらってます」
「あー、そうですか」

彼女は明らかに残念そうな顔をした。
久しぶりにお客さんが来た、と思ったからだ。

「でも、せっかくだから入ろうかな」
「ほんとですか⁈」

女の子はパッと顔を明るくして言った。
老人は入り口をくぐった。

「この店の一番人気はなんですか?」

老人は訊いた。

「メロンパンですね。でも、私はこのクロワッサンの方が好きなんですけど」
「じゃあ、一つずつ頂こうかな」

彼女は素早い手つきでそれらを袋に詰めた。

「ありがとう」

老人はにっこりと笑った。

「いいえ、こちらこそ。お買い上げありがとうございました!」

彼女は丁寧に頭を下げた。

「まだ雨止みませんね。——うちの傘、よければ貸しますよ」
「いえ、悪いですよ」
「うちのパンは出来立てが美味しいんです。早く家に帰って食べてもらいたいんです」
「……申し訳ないね」

老人は傘を受け取り、店を出た。

次の日。昨日の天気が嘘のように晴れた。
女の子は店を開けるためにシャッターを上げると、驚いた。

「なんで⁈ お客さんがこんなに⁈」

店の前には大量の客が並んでいた。
最近、全くお客さんが来なかったのに——。

「いらっしゃいませ!」

彼女は、店を開けた。
客が雪崩のように入り込んできた。
結局その日、パンがなくなるほどの大盛況だった。

——トシさんがこの店を絶賛してたんだ。

ある客がこう言っていた。
『トシさん』は、どうやら有名なレビュアーらしい。

「みつけた」

彼女は閉店後、気になって調べてみた。
検索がヒットした、一件のブログ記事。
そこにはこう書かれていた。

『今日は、運命のように巡り会えたパン屋について紹介しようと思う。——』

この店の名前が刻まれていた。
そして、ここのパンを高く評価する言葉が並んでいた。

『——何より、店員さんの対応が素晴らしかった!』

評価は、満点の五つ星だった。

お題:物憂げな空

2/25/2026, 9:34:18 AM

—小さな番人—

いつもの場所——公園のベンチの下で、ネコがこちらをじっと見つめている。
片目が潰れた、茶と白の三毛猫だ。

「あのネコ、いつもいるな」

俺は友人に言った。

「あのネコね。あのネコとは関わらない方がいいよ」
「どうして?」
「『呪われたネコ』なんだ」

何故、という顔をした俺に、友人は詳しく事情を説明してくれた。

半年前、この公園である少女が誘拐された。
結局、天は味方をせず、少女は帰らぬ人となってしまった。
なんとその日、少女はあのネコを探していたのだそうだ。

ざっくり言うとそんな事件があったらしい。
ここに来て日が浅い俺は初耳だった。

「あのネコが逃げ出さなかったら、その女の子は無事だったんだ」

友人は最後にそう言った。

夕方、友人と別れた後、どうしてもあのネコが気になってもう一度公園を訪れた。

「なぁ」

俺は、その呪われたネコに話しかけた。
しかし、ネコはこちらを激しく威嚇する。

「俺は敵じゃないよ」

干したイワシを目の前に置いた。
ネコは匂いを嗅ぎ、イワシにかじりついた。相当お腹が空いていたようだ。

「君はあの日、女の子を守ろうとしたんじゃないか」

潰れた片目を見る。

「でも悲しいけど、女の子はもう帰ってこない。一人は寂しいよ。一緒に帰ろう」

俺はネコを抱えようとしたけれど、激しく抵抗された。

「わかった。また来るね」

俺は立ち上がり、公園を後にした。

その場を見ていない俺に真実はわからない。

だがどうしても、あのネコが少女がいなくなったあの場所で、帰りを待っているような気がしてならないのだ。

明日は、ご飯と一緒に花束を持って行こう。
俺はそう心に決めた。

お題:小さな命

2/24/2026, 1:10:45 AM

—Loveの使い方—

今日の英語の授業で『Love』という単語を習った。

「じゃあ、『Love』という単語を使って、隣の人と会話をしてみましょう」

先生がそう言うとクラスがざわめきだした。
思春期の僕たちにとって、少し刺激が強い。

「あー、I love you!」

僕が隣の女子にそう告げると、彼女は顔を少し赤くした。

「Sorry……」

振られた。

「I don’t love you」

さらには追い討ちまで。
彼女がそれを本心で言っているのか、僕にはわからなかった。

タイマーがピピピと鳴った。

「先生ー! 先生は『Love』って単語、日常で使うんですかー?」

クラスのお調子者が訊いた。
教壇に立つ、若い女の先生をからかいたくなったんだろう。

「私は日本人の男性と結婚しましたから、『Love』は滅多に使いませんね。でも、愛は毎日伝え合っていますよ。それが円満な夫婦関係を続ける秘訣ですからね」

女教師は平然と言う。

「皆さんが外国人の方と付き合うことになった時は、ぜひ『Love』を使って愛を伝えてあげてください。まぁ、中学生のあなたたちには、まだ早いでしょうけど」

逆に仕返しをくらった。

先生は何事もなかったかのように、次に進んでいく。
クラスはシーンと静まり返った。

今日の授業は、なんだか疲れてしまった。
『Love』を使うって、思ったよりも体力を使う単語だな、と僕は思った。

お題:Love you

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