—星降る雨—
鉛色の空から、ポツポツと雨が降り始めた。やがて、このまま帰るのが憚られるほど、雨脚が強まってきた。
「参ったな」
老人はやむを得ず、近くの屋根のあるパン屋に避難した。
物憂げな空を眺める。
しばらくは、止みそうにない。
「お客さん?」
すると店のドアから女の子が出てきた。
中学生くらいにみえる。
「すみません。急に雨が降り始めたもんだから、雨宿りさせてもらってます」
「あー、そうですか」
彼女は明らかに残念そうな顔をした。
久しぶりにお客さんが来た、と思ったからだ。
「でも、せっかくだから入ろうかな」
「ほんとですか⁈」
女の子はパッと顔を明るくして言った。
老人は入り口をくぐった。
「この店の一番人気はなんですか?」
老人は訊いた。
「メロンパンですね。でも、私はこのクロワッサンの方が好きなんですけど」
「じゃあ、一つずつ頂こうかな」
彼女は素早い手つきでそれらを袋に詰めた。
「ありがとう」
老人はにっこりと笑った。
「いいえ、こちらこそ。お買い上げありがとうございました!」
彼女は丁寧に頭を下げた。
「まだ雨止みませんね。——うちの傘、よければ貸しますよ」
「いえ、悪いですよ」
「うちのパンは出来立てが美味しいんです。早く家に帰って食べてもらいたいんです」
「……申し訳ないね」
老人は傘を受け取り、店を出た。
次の日。昨日の天気が嘘のように晴れた。
女の子は店を開けるためにシャッターを上げると、驚いた。
「なんで⁈ お客さんがこんなに⁈」
店の前には大量の客が並んでいた。
最近、全くお客さんが来なかったのに——。
「いらっしゃいませ!」
彼女は、店を開けた。
客が雪崩のように入り込んできた。
結局その日、パンがなくなるほどの大盛況だった。
——トシさんがこの店を絶賛してたんだ。
ある客がこう言っていた。
『トシさん』は、どうやら有名なレビュアーらしい。
「みつけた」
彼女は閉店後、気になって調べてみた。
検索がヒットした、一件のブログ記事。
そこにはこう書かれていた。
『今日は、運命のように巡り会えたパン屋について紹介しようと思う。——』
この店の名前が刻まれていた。
そして、ここのパンを高く評価する言葉が並んでいた。
『——何より、店員さんの対応が素晴らしかった!』
評価は、満点の五つ星だった。
お題:物憂げな空
2/26/2026, 1:35:42 AM