—門限—
今日は彼氏と二人でお店で飲んでいた。
「もう一軒だけ、軽く飲まない?」彼がいった。
「ごめんね、今日は遅いから……」
「もうこんな時間か……」
彼はビールを呷った。
「でも、もう二十歳なのに、お父さんは厳しいんだなぁ」
「そうだよね……」
彼には、家が厳しいからあまり遅くならないように言われている、と嘘を言っている。
今日は朝から一緒にいたから、早く帰らないといけない。
「でも、近いうちにまた会いたいな」彼を上目遣いで見た。
「俺も!どこか行きたいところある?」
彼と次に会う約束をしてからお店を出た。
「家まで送るよ」
「いつもありがとう」
彼は手を挙げ、タクシーを止めた。
彼はいつも食事代も出してくれるし、最後は家まで送ってくれる。
二十一歳なのに、とても紳士的な人だな、と思う。
「じゃあまたね」彼は手を振った。
「うん、ありがとう」彼に頭を下げて車が見えなくなるまで、見送った。
私は、急いで家の中に駆け込んだ。
「危なかった。あと少し遅れていたら……」
洗面台の鏡には、もう若い自分は写っていない。魔法が解けてしまった。
「でも、やっぱり若いっていいねぇ」
若返りたい、と魔女は思うのだった。
お題:20歳
—焦げたクロワッサン—
私はパン屋でアルバイトをしている。
「クロワッサン焼きたてでーす!」
クロワッサンを棚に並べ、店内にいるお客さんに声をかけた。
すると、たくさんの人が集まってくる。
クロワッサンは、この店の看板商品。
このパンを求めて遠くからはるばるやってくるお客さんもいるほど、人気のパン。私もアルバイトを始めたきっかけはこのクロワッサンだった。
「あら、今日もおいしそうねぇ」
常連客のおばあちゃんがトングで三つ取っていった。うまくできていたらいいんだけど、と心の中で祈る。
最近になって、私の仕事ぶりが認められて、パンを焼き始めるようになった。
まだまだ経験不足のせいか、焦がしてしまうことがある。実はついさっきやってしまった。
「じゃあ、上がっていいよ」店長が言った。
「はい、お疲れ様でした」
あっという間に時間は過ぎてしまった。
今日焦がしてしまったクロワッサンは、売り場に出さず、裏に置いてある。それを持って帰ろう、と思ったらパンがない。
代わりにメモが置いてあった。
『おいしかったです』
『ミスしても気にしなくていいからね!』
『これからも一緒にがんばろう!』
ここで働いている人たちからのメッセージだった。メモを胸ポケットにしまって、手を握りしめた。
「よし、明日もがんばるぞ!」
お題:三日月
—文房具の罠—
授業の中で、ノートをかく時間が好きだ。
最近は色とりどりのボールペンやマーカーが売っているから、楽しくて仕方ない。
「えっと、テスト範囲は……」
もうすぐ定期テストがある。
テスト勉強のために、範囲を確認して教科書とノートを開いた。
「……何書いてるかわからない」
色鮮やかすぎる私のノートは見づらい。
ボールペン、マーカー、落書き。
自分でかいたはずなのに、目が迷う。
これじゃあ『書く』というより『描く』だ。
一種のアート作品のよう。
「もう一回まとめよう」
私はノートを閉じ、別のノートを開いた。
お題:色とりどり
—雪だるま—
ある男の子が僕を作ってくれた。
「お昼だから帰るよ」
「お母さん、待ってー!」
その子供はいなくなってしまった。そのままじっと待っていると、声が聞こえた。
「これじゃ惜しいわね」
新しくきた女の子は木の実と枝を使って、目と鼻と腕を付け足してくれた。
「よし、いい感じ」
目と鼻と腕を作ってくれたその子もいなくなってしまった。またしばらく待っていると、今度はおじいさんがきた。
「これじゃ寒いじゃろ」
そのおじいさんは手袋をくれた。
「ほっほっほ、さらばじゃ」
夜、辺りが真っ暗になった頃、酔っ払った若い男がやってきた。
「おお、立派な雪だるまじゃねぇか。あと足りねぇのはこれだけか」
その人はマフラーをかけてくれた。
「あぁ、また帰りが遅くなると女房にキレられちまう。早く帰るか」
その男はしゃっくりを上げながら、ふらふらとした足取りで帰っていった。
(みんな優しいな……)
心が温かくなった僕は、溶けてしまった。
お題:雪
—ひだまり—
喫茶『ひだまり』が見えた。
私が小さい頃からよく通っているお店だ。
「おいしい」
「でしょ。ここ私のお気に入りのお店なんだ」
コーヒーを啜ってそう言う彼に、私はよく自慢した。別に私の喫茶店ではないのに、なんだか誇らしかったのを覚えている。
「ごめん、他に好きな人ができた」
「そう……」
その彼とは別れた。
引き止める気力もなく、あっさりと終わってしまった。
あとからわかったことだけれど、私と付き合っていた時にはもう別の恋人がいたらしい。
「いらっしゃい。いつものでいいかい?」
「はい……」
マスターの声は相変わらず穏やかだった。
彼と一緒にきたお店だから、嫌でも彼との記憶が呼び起こされる。
それでもまた来たいと思って、入店した。
「ミルクティーだよ」
一口飲むと心地良い甘さが口の中いっぱいにに広がった。
気づけば涙が落ちてくる。
マスターは何も言わずに、ただ側にいてくれた。
それだけで私の心は救われていた。
お題:君と一緒に