初心者太郎

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12/5/2025, 3:20:16 PM

—イブの奇跡は踊り出す—

今日はクリスマスイブだから、街がイルミネーションで煌びやかだ。歩いていて楽しい。

「ねぇ、大丈夫?」

だが、楽しいのは私だけかもしれない。隣にいる彼は、なぜか浮かない表情をしている。

「……何ともないよ」

彼はそう言うけれど、明らかにいつもと様子が違った。最近、仕事で忙しかったから疲れているんじゃないか、と思った。

彼のことを気にかけていた時、突然イルミネーションが金色に光り、愉快な音楽が流れた。
その音楽に合わせるように、数人のダンサーが道の真ん中で踊り出した。

「見て!」

私は彼に言った。彼の目も釘付けになった。プロのようなダンスに、私も夢中になった。

それは、周りにいるたくさんの人を、次々に巻き込んでいった。
何のイベントだろう、たまたま立ち会えて良かった、と私は思った。

うっとり見ていると、隣にいた彼もダンスに加わった。そしてダンサー全員が私の方を見て踊りはじめた。

(これってもしかして……)

私は察した。
彼があんな表情をしていたのは、きっと緊張のせいだったのだ。そしてこれは……。

音楽が止み、彼は誰かから花束を受け取る。他のダンサーはレッドカーペットをひいて、道の両端でしゃがんだ。彼が私に向かって歩いてくる。

「今日は伝えたい事があります」マイクを持って彼が言った。

私は溢れる涙を拭った。

「僕と結婚してください!」

彼は片膝をついて箱を開き、指輪を見せた。

「はい!」私は一度大きく頷いた。

私達が抱き合うと、街が歓声に包まれた。
涙のせいで街が余計にきらめいて見えた。

お題:きらめく街並み

12/4/2025, 2:46:44 PM

—うまくいきますように!—

『おはようございます。最近おかし食べすぎです。おかしの量をへらしましょう。』

今日も手紙が来た。
差し出し人は『未来のあなた』とある。
数日前から一日に一通ずつ、ポストに入れられている。

「お母さん、どうしたの?」ランドセルを背負った息子が訊いてきた。
「またポストに入ってたのよ」

息子に手紙を渡した。
手紙の内容は、私の生活態度を戒めるものばかり。特に食事面の注意が多い。

「未来のお母さんは、見てくれてるんだね」

嬉しそうに息子は言った。
その言葉から、お菓子を食べ過ぎだと息子にも思われていた事が分かった。

もっと健康的な生活をしよう、と思った。

——

学校から帰ってきた。お母さんはまだ仕事だ。
お母さんが帰ってくるまでに、僕にはやらなくちゃいけない事がある。

「明日の手紙には何を書こうかな……」

パソコンの前で頭を悩ませた。
僕が手紙を書き始めたのには理由がある。

「今度こそ、ダイエットを成功させるわ!」

これは、数日前にお母さんが言っていたことだ。実は前回のダイエットは、全然長続きしなかった。僕が途中で何回も注意してもダメだった。

それなら、未来のお母さんに注意してもらおう。そう考えたのだ。

「今回のダイエットは成功しますように」

僕は静かに願いを込めた。
そして、手紙を完成させた。プリンターから紙を取る。

『おはようございます。野菜を食べる量を少し増やしましょう。』

お題:秘密の手紙

12/4/2025, 4:38:16 AM

—こたつ—

こたつに潜り込みながら、耳を澄ます。

雪を踏む足音、それから近所の小学生達が雪合戦をする声。寒いのに随分と元気な声が聞こえる。

「あったかいね、ユキ」

私は一緒に寝ている飼い猫に言った。
童謡にもあるように、冬は『ネコはこたつで丸くなる』のだ。

小学生の頃は、この時期も外で遊んでいた。年をとってからは、こたつでずっとこうしていたいと思うようになった。『年をとって』ってまだ高校生だけど。

そんな至福の時間を邪魔するように、ドタドタと足音が近づいてくる。

「うわっ!」私とユキは驚いた。こたつの毛布を突然めくられたのだ。寒い。

「あんた、いつまでゴロゴロしてるの!」

母が来た。
渋々、私はこたつから出て自分の部屋に向かった。ユキはまたこたつで丸くなった。

「ユキ、ちょっと入るね」母が言った。

その言葉を聞いて、私は踵を返し、こたつの中に入った。
当然、場所の取り合いになる。

「おうおう、騒がしいな」父もやってきた。

こうして始まる、我が家の恒例行事。
名付けるなら『こたつ争奪戦』

あぁ、冬だなぁと私は思った。

お題:冬の足音

12/3/2025, 4:06:02 AM

—ぬいぐるみから見えるもの—

最近、外出している間に知らない誰かが家の中に入っている。それに気がついたのは、私の下着が毎日一着ずつなくなっていたからだ。

「ナナリンさん、大丈夫です。必ず私達が犯人を捕まえてみせます」警察官が言った。
「ありがとうございます」

『ナナリン』は私がファンから呼ばれている愛称だ。偶然、対応していただいた警察官が私のファンだった。

「では、決行日は明日ですね」
「はい、よろしくお願いします」

私は頭を下げて、警察署を後にした。
警察官と、ある作戦を立てた。それを確実に成功させるには、いつもと変わらない立ち振る舞いを犯人に見せなければならない。

「ただいま」誰もいない家の中に声をかける。

リビングまで進むと、クマのぬいぐるみが座っているのが見えた。数日前に事務所に届いていたファンからの贈り物だ。

あれを家の中に置いてから事件は始まったのだ。きっとあの中に監視カメラが仕込まれているのだろう。

少し仮眠をとり、起きた後、私はある細工をした。

——

朝、ナナリンが家を出たことを確認して、いつものように僕は来た。ピッキングでドアを開け、中に入る。

「やっぱりいい匂いだなぁ」

玄関を入って左手に進むと、浴室がある。僕はそこまで足を運んだ。そしてカゴから下着を漁り、一着手にする。
そのままリビングまで進んだ。扉を開けると、僕は何者かに後ろから床に叩きつけられた。

「犯人確保!」

待ち伏せしていた何人かの警察官がいた。そしてその後ろからナナリンも姿を現した。

「なんでここに……?」

床に押さえつけられ、息が苦しい。だが、なんとか力を振り絞り、僕が贈ったぬいぐるみの方を見た。

「スマホ……?」

ぬいぐるみの前に、スマホスタンドが立てられていて、スマホが横向きに置いてある。

そして理解した。
僕は映像を見せられていたんだと。画角が少し変わっていたのは、そういうことだったのか。

——

私はホッと息をついた。
犯人はパトカーで連れて行かれ、事件は幕を閉じた。ひどく疲れた。

もうこんな目には遭いたくない。セキュリティの高い場所に引っ越そう。
私はそう決めた。

お題:贈り物の中身

12/2/2025, 7:31:08 AM

—凍てつく星々に囲まれて—

大学は冬休みに入り、彼女と北海道までスキー旅行に来ている。

「そうそう、上手くなってきたじゃん」彼女に褒められた。
「なんかコツを掴んできたかも。ここまで教えてくれてありがとう」

一時間ほど、彼女に付きっきりでスキーを教えてもらっていた。
最初は立つだけでも難しかったのに、今は初心者用のコースを滑れるくらいまで成長した。

「もうちょっと上まで行ってみる?」
「うん、頑張ってみる」

少し怖いけれど、ここまで練習した成果を彼女に見せたかった。
二人でリフトの列に並ぶ。係員の誘導で僕たちはリフトに腰掛けた。

日は沈み、空は暗い。白いライトがスキー場を明るく照らしていた。

「ここまで付き合わせちゃってごめんね」
「全然いいよ。転んでる姿、面白かったし」

彼女はそう言い、笑みを浮かべた。

徐々に上がっていくと、空気中に浮かぶ小さな何かが輝き始めた。
僕たちはゴーグルを額まで上げた。

「綺麗」二人で思わず口にした。

ダイヤモンドダストを見るのは生まれて初めてだった。スキー経験者の彼女も初めてらしい。

その雰囲気のせいか、前のリフトに乗ったカップルは唇を合わせている。

「ねぇ」彼女は言った。

横を見ると、口元を隠していたネックウォーマーを首元までずらしていた。彼女の頬が紅く染まって見える。

僕は息を吸って目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけた。

お題:凍てつく星空

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