初心者太郎

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9/25/2025, 3:26:00 PM

私はぼっちだった。運動は苦手だし、人と話すことは得意じゃない。
でも私は、そんな私を変えたかった。

だから、これから始まる高校生活では色々なことにチャレンジしてみようと思っている。

そして迎えた初日。
入学式を終えると、教室で自己紹介をした。前日まで一生懸命考えた自己紹介は、緊張で消えて水の泡になった。拍手があっただけマシだと思う。
初日は、次の日の予定を確認して解散となった。

私はメモ帳を広げて、『やることリスト』を見た。
・友達をつくる・部活動に入る
他にもたくさんあるが、この二つは絶対に達成したい。

これが達成できない世界線は、もう知っている。ぼっち街道まっしぐらだ。それだけは絶対にダメだ。

放課後は部活動見学の時間だった。
とりあえず文化部を回った。音楽はできないから吹奏楽部は除外して、絵が描けないから美術部は除外して、品がないから茶道部は除外して……。そんなことをしていたら、いつの間にか最後の教室に来ていた。

「はいっ!」

畳を叩く音が聞こえた。中を覗くと、二人が向き合って百人一首をしていた。ここは競技かるた部だ。

「あれ、新入生?見学していく?」

私に気がついた先輩が声をかけてくれた。

「はい」

即答だった。最後だから仕方ないとかではなく、純粋にやってみたいと思った。見学ではあったが、体験もさせてもらえた。それは予想通り、本当に楽しかった。

私は、競技かるた部に入部することにした。
きっと今までの私なら帰宅部になって、この部活に出会うことはなかっただろう。

『あの時、ああすれば良かった』なんて、後悔しないように全力で楽しもうと思った。
この調子で頑張ろう、私!

お題:パラレルワールド

9/24/2025, 12:51:19 PM

「どうした、飯田?何かいいことでもあったのか?」
「いや……?特にいつも通りですけど」

どうやら現場監督の上村さんには、俺の機嫌がいいように見えたらしい。

「そうか。今日の飯田の働きっぷりは、いつにも増して素晴らしいから気になってな。女でもできたか?」
「いや、まさか。上村さん、今度いい人紹介してくださいよ」

俺は建設業の現場で働いている。木材やセメント袋なんかを運ぶのだが、そのスピードがいつもよりも早かったそうだ。
特に意識してはいなかったが、自分の評価が上がるのに悪い気はしない。

「はっはっは。この前行った店にな、いい女がいたんだ。今晩行くか?」
「はい、ぜひ」

今日はいい日だな、と心の中で思う。

上村さんは、上機嫌で仕事に戻った。
バッグに入れていた腕時計を見ると、もう少しで四と五の間で針が重なろうとしていた。

「飯田さん、そんなに時間を確認してどうしたんですか?」

休憩に来た、後輩の木村に話しかけられた。時間が気になりすぎて、腕時計をじっと見てしまっていたようだ。

「あぁ……、何でもないよ」
「もしかして、この後何か予定があるんですか?まさか彼女さんと」

時計をチラッと見た。時計の針は重なっていた。

「上村さんにも言われたけど、いないよ」

だって、いなくなってしまったから。
事件を起こしてからちょうど二十五年が経ち、時効が成立した。

俺は今、解放された。

お題:時計の針が重なって

9/23/2025, 3:08:33 PM

高校三年生の秋のこと。僕たちは文化祭に向けて、クラス一丸となって着々と準備を進めていた。クラスの出し物は、お化け屋敷。

みんなで担当ごとに分かれて、ホームルームの前や、放課後に作業を行う。僕の担当は、装飾。驚かせる役もやるけれど、準備の時は特にやることはない。

完成が近づくにつれて、誰もが文化祭を楽しみに待った。僕もそうだ。

ただ、一つ不安があった。

もちろん、お化け屋敷について不安はない。この学校の文化祭には、三年生だけ、もう一つ大きなプログラムがある。
それは最終日の夜に行われる、フォークダンス。

学校内で流れている噂だが、そのペアになった人とは一生添い遂げられるらしい。

僕の不安は、幼馴染のあの子が一緒に踊ってくれるのかどうか。それだけだった。


そして文化祭前日の帰り道、僕は勇気を出して言った。

「明日のフォークダンス、僕と一緒に踊ってほしい」

彼女は僕の手を取ってくれた。

———

夢を見た。高校時代の懐かしい思い出。

妻が久しぶりにあの時の話なんてするから、告白のシーンだけではなく、その先の一緒に踊ったシーンまで夢に出てきた。今でもちょっと恥ずかしい。

でも僕は、声を大にしてみんなに伝えたい。

色々なことに挑戦してみるべきだ。結果はどうであれ、後から見ればきっとそれはいい思い出になる、と。

お題:僕と一緒に

9/22/2025, 4:56:22 PM

灰色の雲が空を覆っている。それと同じように、佐々木さんの表情は珍しく曇っていた。

僕はいつもニコニコ笑っている彼女が好きだ。だからどうしても、その理由が知りたかった。とは言っても、親しく話す間柄ではない。授業中にグループワークがあれば話す程度。

つまり、まだまだ遠い存在ということ。ちなみに席は隣だから、物理的には近いんだけれど、間には何かに塞がれているような感じがする。それでも僕は、何かをしたいと思った。

周りに誰もいない時を狙って、話しかけるチャンスを伺う。

「はぁ……」

彼女の友達が席の周りからいなくなると、ため息が聞こえた。「今がチャンスだ!」と思って、隣を見る。

「佐々木さん……、どうしてため息をついているの?」

一回話しかければ、ちょっと心が落ち着く感じがした。でも、冷静になると恥ずかしくなってきて、だんだん心が熱くなっていく。

「佐野君……。あのね、ちょっと聞いてほしいんだけどさ——」

彼女の反応を見る限り、変に思われてはなさそうだ。彼女の言葉を、慎重に聞く。

「私の周りに、きのこの里派がいないの!」
「へ……?」

予想外の悩みで、返答に困る。

「ちなみに、佐野君はどっち⁈」
「僕は、た……、きのこ派だよ」

咄嗟に嘘をついた。頭の中をフル回転させて考えた、神の一手。名付けるならば、『君と一緒だよ作戦』

「やっぱり!今日の朝ね、コンビニでそれ買ったらさ、みんなきのこを否定するんだよ!ひどいよね……」
「うん……」

まぁ何とか作戦は成功した。彼女の笑顔を見ることができたから。

「でも、きのこ派に会えて良かった!ありがとう佐野君!さらば!」
「行っちゃった……」

彼女は弁当袋を持って、颯爽とどこかへ行ってしまった。

正直、関係は進展したとは思えない。それでも、今日が終わっていいくらいの満足感を味わえたのだった。

お題:cloudy

———

ちなみに私は、きのこ派です。

9/22/2025, 6:44:57 AM

最近、信じられない噂を耳にした。

その内容は、ある路地裏にある雑貨店の話。雑貨店の店主に頼めば、虹が掛かっている時だけ、亡くなった人と会話をさせてもらえるらしい。

僕は、正直信じられないけれど、どうしても話したい人がいるので、行ってみることにした。

大きく綺麗な虹が掛かった、雨上がりの午後。僕は仮病を使って学校を早退し、走って向かった。

ドアを開けると、ベルの音と、店主の「いらっしゃい」という声が聞こえてきた。木造の店内には、オルゴールや古い万年筆などが置かれていて、至って普通の雑貨店に見える。

僕は店主に向かって真っ直ぐ歩く。

「亡くなった人と会話ができるのは、本当ですか?」

店主は、七十から八十くらいの、白髪に白い髭を生やした老人。

「ああ、できるさ。ただし——」

店主は続けた。

「虹が消えるまでで、一回だけだ。そういうルールがあってな、何回も話すことはできない」
「はい。十分です」
「そうかい。で、誰と話したいんだい?」

僕は思い出す。僕の隣の家にいた、おじさんの名前を。

「片岡勇さんです」

名前を店主に伝えた瞬間、真っ白な壁に包まれた部屋の中に、二人きりで立っていた。目の前にいるのは、かつて僕と妹を救ってくれた命の恩人。

「あれ、ただし君じゃないか。大きくなったね!」

おじさんの姿を見ると、涙が出た。
一旦心を落ち着かせて目を見る。

「あの時のお礼を言いに来ました。本当にありがとうございました」

小学生の時、家が火事になった。両親は仕事でいなかった。原因は延長コードの劣化。火元は一階のリビングで、僕たちは二階の部屋にいたため、気がついた時には逃げられない状況になっていた。窓から聞こえる僕たちの悲鳴を聞いて、片岡さんは助けに来てくれたのだ。その結果、僕たちは助かったが、全身を火傷した片岡さんは亡くなってしまった。

「僕はやることをやっただけだよ。それより、ゆかちゃんは元気かい?」
「……はい」
「そうか、良かった。君たちが元気に生きていたらいいんだよ。もう虹は消えちゃうから行きなさい」

最後に今、自分の出せる全力の声で、「本当にありがとうございました」とお礼を伝えて部屋を出た。

気がつくと、雑貨店に戻っていた。その場でうずくまってしばらくは泣いていた。

「ありがとうございました」

心が落ち着いた僕は、店主にお礼を伝えて店を出た。来た時は掛かっていた虹はもう、なくなっていた。

片岡さんのように、誰かを助けられるような人になれたらいいなと思った。

お題:虹の架け橋🌈

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