「どうした、飯田?何かいいことでもあったのか?」
「いや……?特にいつも通りですけど」
どうやら現場監督の上村さんには、俺の機嫌がいいように見えたらしい。
「そうか。今日の飯田の働きっぷりは、いつにも増して素晴らしいから気になってな。女でもできたか?」
「いや、まさか。上村さん、今度いい人紹介してくださいよ」
俺は建設業の現場で働いている。木材やセメント袋なんかを運ぶのだが、そのスピードがいつもよりも早かったそうだ。
特に意識してはいなかったが、自分の評価が上がるのに悪い気はしない。
「はっはっは。この前行った店にな、いい女がいたんだ。今晩行くか?」
「はい、ぜひ」
今日はいい日だな、と心の中で思う。
上村さんは、上機嫌で仕事に戻った。
バッグに入れていた腕時計を見ると、もう少しで四と五の間で針が重なろうとしていた。
「飯田さん、そんなに時間を確認してどうしたんですか?」
休憩に来た、後輩の木村に話しかけられた。時間が気になりすぎて、腕時計をじっと見てしまっていたようだ。
「あぁ……、何でもないよ」
「もしかして、この後何か予定があるんですか?まさか彼女さんと」
時計をチラッと見た。時計の針は重なっていた。
「上村さんにも言われたけど、いないよ」
だって、いなくなってしまったから。
事件を起こしてからちょうど二十五年が経ち、時効が成立した。
俺は今、解放された。
お題:時計の針が重なって
9/24/2025, 12:51:19 PM