初心者太郎

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9/20/2025, 1:19:50 PM

私は貧乏揺りをしながら待っていた。時計は午後六時を回った頃。送ったメッセージは未読のまま。

私には小学生になったばかりの息子がいる。かなり早いかもしれないが、スマホを持たせている。最近は事件も多いし、周りに持っている子も多いから仕方なく買ったのだ。

その息子が、友達と遊んでくると言ってから帰ってこない。

「あー、もう!」

私は怖いので、取り敢えず家の近くの公園を見に行くことにした。

「あっ」

公園の隅に寝転んでいる息子を見つけた。近くに駆け寄ると、隣にカゴに入った犬が一緒にいた。

「ちょっと、ユウキ起きなさい!」

私は息子を叩き起こす。

「……ママ。おはよう」
「おはようじゃないわよ!何してんのよこんなところで!」
「友達と遊んで帰る途中でさ、ワンワン見つけてさ、可愛いから寝ちゃった」

私は、安心するのと同時にやっぱり可愛いと思ってしまって、怒らなきゃいけないのに頬が緩んでしまう。

「もう帰るよ、ユウキ」
「ママ、待って。ワンワンは?」

家は裕福じゃない。だから犬を飼う余裕なんてないが、流石に放って置けなかった。

「……しょうがないわ。飼い主を見つけるまで、家で預かるしかないわね」
「やったー!」

絶対反省していないなと思いながら、連れて帰った。

お題:既読がつかないメッセージ

9/20/2025, 12:52:33 AM

秋色に染まった並木通りを歩いていた。アスファルトの上の枯れ葉がザクザクと音を立てている。

ここを抜けて、トンネルを潜った先に僕の家はある。だが僕はトンネルを抜けると、いつもの見慣れた景色ではなかった。

秋の美しい公園のような景色。綺麗な朱色に染まった木々が立ち並び、川が心地よい音を立てて流れている。

僕は先に進んだ。

「ねぇ、秋は好き?」

その道中で背後から少女に話しかけられた。秋色の瞳に秋色の髪色をした少女。

「うん、大好きだ」

僕は振り返り、そう答えると、少女はにっこりと笑って、空気に溶け込むように消えてしまった。

———

そこで頭に流れる映像は途切れ、寝ていたベンチから飛び起きた。

「ゆうじ大丈夫か⁈」

僕は、練習の途中に倒れて意識を失っていたらしい。

「……あぁ、ごめん。大丈夫」

今年の秋は、恥ずかしがり屋でなかなかやってこない。でも僕は秋が大好きだから、早く会えたらいいなと思った。

お題:秋色

9/18/2025, 1:22:40 PM

「そこのあなた、もしも世界が終わるなら何をしたい?」

学校から帰宅途中、Tシャツに短パンの知らない男に話しかけられた。彼はメモ用紙とペンを持っていて、何かの取材かなと思ったし、割と面白い質問だったので、真面目に考えてみた。

「うーんと……、家族と一緒に居たいし、友達と遊びたいし、美味しいものをいっぱい食べたいです」
「どれか一個しか選べないとしたらどれを選ぶ?」

どれか一つと言われたら、難しい。もしも世界が終わるなら、その前に色々なことをしたいのだ。俺は悩みに悩んで、

「やっぱり家族と居たいです」
「ふーん、なるほどなるほど」

彼は俺の言ったことをメモしているようだ。やっぱり何かの取材だろうか。俺は気になって聞いてみた。

「これって、何の取材ですか?」
「ああ、私は小説家なんですよ。これに関しての皆さんの願望を聞きたくてですね……」
「へぇ」

男はメモをめくり、取材した人数を数えて「よし、これで百人目だ」と言った。

どんな小説を書くのか知らないが、百人にインタビューすることは簡単なことではないから、勉強熱心だと思った。

「これぐらいいれば良いか。じゃあ今度は実際に見てみたい」
「は……?」

男は指をパチンと鳴らすと、俺は全く知らない別の場所に瞬間移動した。周りにいるのはざっと二百人ほど。俺の家族も含まれている。

『皆さん、この世界は明日滅亡します!ご自由にお過ごしください!』

俺は頭の中が真っ白になった。

お題:もしも世界が終わるなら

9/18/2025, 9:17:56 AM

太陽が昇る前の時間。ランニング中に、田中の靴紐がぷつんと切れた。

「マジか」

靴紐が切れると、何か良くないことが起こると言い伝えられている。だが、田中はそんな迷信を信じる様な奴ではなかった。

その日の朝食の時間のこと。

「あーあ、やっちまった」

田中は、オーブンで焼いていた食パンをうっかり焦がしてしまった。焼いている間にドラマを見たことを後悔しながら、口に入れた。

「にげぇな……」

通勤時間では。

『只今、東京行きの電車は、人身事故の影響により運転を見合わせています』

電車が遅延。すぐに運転を再開すると思ったが、結局一時間以上動かず、出勤時間に大幅に遅れた。

「すみません……」
「全く君は、他の人のことも考えて——」

上司から、厳しく叱られた。

昼食後の仕事の時間では。

「田中くん、この前送ってくれた資料なんだけど」
「はい!」
「チェックつけた場所、全部直しといて」
「はい……」

提出した資料のほとんどにチェックが付いていた。これじゃ最初からやるのと変わらないじゃないかと思った。

そこで田中は、今朝のランニングで靴紐が切れたことを思い出した。

「まさか……」

田中は少しだけ怖くなった。信じたくはないが、靴紐の話は本当なのかもしれないと思い始めてきた。

定時を過ぎた頃。何か大変なことが起こる前に、今日は早く帰ろうと会社を出た。その時。

「田中先輩!今帰りですか?」

一つ年下の鈴木に声を掛けられた。田中が想いを寄せている同じ部署の後輩だ。

「うん。どうしたの?」
「私も今帰りなので、一緒に帰りませんか?」

ほら。靴紐の話なんて嘘だったんだ。あんな作り話なんて信じるもんじゃない。
と心の中で思った。

田中は、心を弾ませて一緒に帰った。

お題:靴紐

9/16/2025, 2:54:21 PM

「俺と付き合ってください!」

私の好きな人からの、告白。それは四ヶ月前、つまり中学最後の十二月のことだった。

「……ごめんね、考える時間が欲しいから、返事はちょっと待って欲しい」

その時の私は、すぐに返事を出すことができなかった。

その日の部活の時間。告白されてから一時間ぐらいが経過した時。

「立花!ペースを落とすな!」
「はい!」

私は陸上部に所属しており、その日は三千メートルのペース走をしていた。顧問は熱心な方で、とても厳しく指導してくださった。

「立花どうした?今日は調子が悪いか?」

タイムは十分十二秒。いつもよりも三十秒近く遅い。

「いいえ!大丈夫です!」

その日は、いつもよりも集中できなかった。きっと心の中にさっきの出来事が突っかかっているのだ。

私の夢は、オリンピックに出場すること。そのためには、どんな時間も陸上に注がなくてはならない。

ただ私の頭の中では、恋愛と陸上がぶつかり合っていた。

結局、私は悩みに悩んで一週間後に「ごめんなさい」と返事をした。彼の涙が溜まった目は、今でも思い出すと胸がキュッと締め付けられる。

そしてこの春、私は県外の陸上の強豪校に進学した。自分の夢を追うために、地元を離れてやって来た。

あの時の答えは、まだ分からない。でもそれはこれから自分で作っていこうと思う。

お題:答えは、まだ

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