初心者太郎

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最近、信じられない噂を耳にした。

その内容は、ある路地裏にある雑貨店の話。雑貨店の店主に頼めば、虹が掛かっている時だけ、亡くなった人と会話をさせてもらえるらしい。

僕は、正直信じられないけれど、どうしても話したい人がいるので、行ってみることにした。

大きく綺麗な虹が掛かった、雨上がりの午後。僕は仮病を使って学校を早退し、走って向かった。

ドアを開けると、ベルの音と、店主の「いらっしゃい」という声が聞こえてきた。木造の店内には、オルゴールや古い万年筆などが置かれていて、至って普通の雑貨店に見える。

僕は店主に向かって真っ直ぐ歩く。

「亡くなった人と会話ができるのは、本当ですか?」

店主は、七十から八十くらいの、白髪に白い髭を生やした老人。

「ああ、できるさ。ただし——」

店主は続けた。

「虹が消えるまでで、一回だけだ。そういうルールがあってな、何回も話すことはできない」
「はい。十分です」
「そうかい。で、誰と話したいんだい?」

僕は思い出す。僕の隣の家にいた、おじさんの名前を。

「片岡勇さんです」

名前を店主に伝えた瞬間、真っ白な壁に包まれた部屋の中に、二人きりで立っていた。目の前にいるのは、かつて僕と妹を救ってくれた命の恩人。

「あれ、ただし君じゃないか。大きくなったね!」

おじさんの姿を見ると、涙が出た。
一旦心を落ち着かせて目を見る。

「あの時のお礼を言いに来ました。本当にありがとうございました」

小学生の時、家が火事になった。両親は仕事でいなかった。原因は延長コードの劣化。火元は一階のリビングで、僕たちは二階の部屋にいたため、気がついた時には逃げられない状況になっていた。窓から聞こえる僕たちの悲鳴を聞いて、片岡さんは助けに来てくれたのだ。その結果、僕たちは助かったが、全身を火傷した片岡さんは亡くなってしまった。

「僕はやることをやっただけだよ。それより、ゆかちゃんは元気かい?」
「……はい」
「そうか、良かった。君たちが元気に生きていたらいいんだよ。もう虹は消えちゃうから行きなさい」

最後に今、自分の出せる全力の声で、「本当にありがとうございました」とお礼を伝えて部屋を出た。

気がつくと、雑貨店に戻っていた。その場でうずくまってしばらくは泣いていた。

「ありがとうございました」

心が落ち着いた僕は、店主にお礼を伝えて店を出た。来た時は掛かっていた虹はもう、なくなっていた。

片岡さんのように、誰かを助けられるような人になれたらいいなと思った。

お題:虹の架け橋🌈

9/22/2025, 6:44:57 AM