初心者太郎

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灰色の雲が空を覆っている。それと同じように、佐々木さんの表情は珍しく曇っていた。

僕はいつもニコニコ笑っている彼女が好きだ。だからどうしても、その理由が知りたかった。とは言っても、親しく話す間柄ではない。授業中にグループワークがあれば話す程度。

つまり、まだまだ遠い存在ということ。ちなみに席は隣だから、物理的には近いんだけれど、間には何かに塞がれているような感じがする。それでも僕は、何かをしたいと思った。

周りに誰もいない時を狙って、話しかけるチャンスを伺う。

「はぁ……」

彼女の友達が席の周りからいなくなると、ため息が聞こえた。「今がチャンスだ!」と思って、隣を見る。

「佐々木さん……、どうしてため息をついているの?」

一回話しかければ、ちょっと心が落ち着く感じがした。でも、冷静になると恥ずかしくなってきて、だんだん心が熱くなっていく。

「佐野君……。あのね、ちょっと聞いてほしいんだけどさ——」

彼女の反応を見る限り、変に思われてはなさそうだ。彼女の言葉を、慎重に聞く。

「私の周りに、きのこの里派がいないの!」
「へ……?」

予想外の悩みで、返答に困る。

「ちなみに、佐野君はどっち⁈」
「僕は、た……、きのこ派だよ」

咄嗟に嘘をついた。頭の中をフル回転させて考えた、神の一手。名付けるならば、『君と一緒だよ作戦』

「やっぱり!今日の朝ね、コンビニでそれ買ったらさ、みんなきのこを否定するんだよ!ひどいよね……」
「うん……」

まぁ何とか作戦は成功した。彼女の笑顔を見ることができたから。

「でも、きのこ派に会えて良かった!ありがとう佐野君!さらば!」
「行っちゃった……」

彼女は弁当袋を持って、颯爽とどこかへ行ってしまった。

正直、関係は進展したとは思えない。それでも、今日が終わっていいくらいの満足感を味わえたのだった。

お題:cloudy

———

ちなみに私は、きのこ派です。

9/22/2025, 4:56:22 PM