初心者太郎

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9/22/2025, 6:44:57 AM

最近、信じられない噂を耳にした。

その内容は、ある路地裏にある雑貨店の話。雑貨店の店主に頼めば、虹が掛かっている時だけ、亡くなった人と会話をさせてもらえるらしい。

僕は、正直信じられないけれど、どうしても話したい人がいるので、行ってみることにした。

大きく綺麗な虹が掛かった、雨上がりの午後。僕は仮病を使って学校を早退し、走って向かった。

ドアを開けると、ベルの音と、店主の「いらっしゃい」という声が聞こえてきた。木造の店内には、オルゴールや古い万年筆などが置かれていて、至って普通の雑貨店に見える。

僕は店主に向かって真っ直ぐ歩く。

「亡くなった人と会話ができるのは、本当ですか?」

店主は、七十から八十くらいの、白髪に白い髭を生やした老人。

「ああ、できるさ。ただし——」

店主は続けた。

「虹が消えるまでで、一回だけだ。そういうルールがあってな、何回も話すことはできない」
「はい。十分です」
「そうかい。で、誰と話したいんだい?」

僕は思い出す。僕の隣の家にいた、おじさんの名前を。

「片岡勇さんです」

名前を店主に伝えた瞬間、真っ白な壁に包まれた部屋の中に、二人きりで立っていた。目の前にいるのは、かつて僕と妹を救ってくれた命の恩人。

「あれ、ただし君じゃないか。大きくなったね!」

おじさんの姿を見ると、涙が出た。
一旦心を落ち着かせて目を見る。

「あの時のお礼を言いに来ました。本当にありがとうございました」

小学生の時、家が火事になった。両親は仕事でいなかった。原因は延長コードの劣化。火元は一階のリビングで、僕たちは二階の部屋にいたため、気がついた時には逃げられない状況になっていた。窓から聞こえる僕たちの悲鳴を聞いて、片岡さんは助けに来てくれたのだ。その結果、僕たちは助かったが、全身を火傷した片岡さんは亡くなってしまった。

「僕はやることをやっただけだよ。それより、ゆかちゃんは元気かい?」
「……はい」
「そうか、良かった。君たちが元気に生きていたらいいんだよ。もう虹は消えちゃうから行きなさい」

最後に今、自分の出せる全力の声で、「本当にありがとうございました」とお礼を伝えて部屋を出た。

気がつくと、雑貨店に戻っていた。その場でうずくまってしばらくは泣いていた。

「ありがとうございました」

心が落ち着いた僕は、店主にお礼を伝えて店を出た。来た時は掛かっていた虹はもう、なくなっていた。

片岡さんのように、誰かを助けられるような人になれたらいいなと思った。

お題:虹の架け橋🌈

9/20/2025, 1:19:50 PM

私は貧乏揺りをしながら待っていた。時計は午後六時を回った頃。送ったメッセージは未読のまま。

私には小学生になったばかりの息子がいる。かなり早いかもしれないが、スマホを持たせている。最近は事件も多いし、周りに持っている子も多いから仕方なく買ったのだ。

その息子が、友達と遊んでくると言ってから帰ってこない。

「あー、もう!」

私は怖いので、取り敢えず家の近くの公園を見に行くことにした。

「あっ」

公園の隅に寝転んでいる息子を見つけた。近くに駆け寄ると、隣にカゴに入った犬が一緒にいた。

「ちょっと、ユウキ起きなさい!」

私は息子を叩き起こす。

「……ママ。おはよう」
「おはようじゃないわよ!何してんのよこんなところで!」
「友達と遊んで帰る途中でさ、ワンワン見つけてさ、可愛いから寝ちゃった」

私は、安心するのと同時にやっぱり可愛いと思ってしまって、怒らなきゃいけないのに頬が緩んでしまう。

「もう帰るよ、ユウキ」
「ママ、待って。ワンワンは?」

家は裕福じゃない。だから犬を飼う余裕なんてないが、流石に放って置けなかった。

「……しょうがないわ。飼い主を見つけるまで、家で預かるしかないわね」
「やったー!」

絶対反省していないなと思いながら、連れて帰った。

お題:既読がつかないメッセージ

9/20/2025, 12:52:33 AM

秋色に染まった並木通りを歩いていた。アスファルトの上の枯れ葉がザクザクと音を立てている。

ここを抜けて、トンネルを潜った先に僕の家はある。だが僕はトンネルを抜けると、いつもの見慣れた景色ではなかった。

秋の美しい公園の景色。綺麗な朱色に染まった木々が立ち並び、川が心地よい音を立てて流れている。

僕は先に進んだ。

「ねぇ、秋は好き?」

その道中で背後から少女に話しかけられた。秋色の瞳に秋色の髪色をした少女。

「うん、大好きだ」

僕は振り返り、そう答えると、少女はにっこりと笑って、空気に溶け込むように消えてしまった。

———

そこで頭に流れる映像は途切れ、寝ていたベンチから飛び起きた。

「ゆうじ大丈夫か⁈」

僕は、練習の途中に倒れて意識を失っていたらしい。

「……あぁ、ごめん。大丈夫」

今年の秋は、恥ずかしがり屋でなかなかやってこない。でも僕は秋が大好きだから、早く会えたらいいなと思った。

お題:秋色

9/18/2025, 1:22:40 PM

「そこのあなた、もしも世界が終わるなら何をしたい?」

学校から帰宅途中、Tシャツに短パンの知らない男に話しかけられた。彼はメモ用紙とペンを持っていて、何かの取材かなと思ったし、割と面白い質問だったので、真面目に考えてみた。

「うーんと……、家族と一緒に居たいし、友達と遊びたいし、美味しいものをいっぱい食べたいです」
「どれか一個しか選べないとしたらどれを選ぶ?」

どれか一つと言われたら、難しい。もしも世界が終わるなら、その前に色々なことをしたいのだ。俺は悩みに悩んで、

「やっぱり家族と居たいです」
「ふーん、なるほどなるほど」

彼は俺の言ったことをメモしているようだ。やっぱり何かの取材だろうか。俺は気になって聞いてみた。

「これって、何の取材ですか?」
「ああ、私は小説家なんですよ。これに関しての皆さんの願望を聞きたくてですね……」
「へぇ」

男はメモをめくり、取材した人数を数えて「よし、これで百人目だ」と言った。

どんな小説を書くのか知らないが、百人にインタビューすることは簡単なことではないから、勉強熱心だと思った。

「これぐらいいれば良いか。じゃあ今度は実際に見てみたい」
「は……?」

男は指をパチンと鳴らすと、俺は全く知らない別の場所に瞬間移動した。周りにいるのはざっと二百人ほど。俺の家族も含まれている。

『皆さん、この世界は明日滅亡します!ご自由にお過ごしください!』

俺は頭の中が真っ白になった。

お題:もしも世界が終わるなら

9/18/2025, 9:17:56 AM

太陽が昇る前の時間。ランニング中に、田中の靴紐がぷつんと切れた。

「マジか」

靴紐が切れると、何か良くないことが起こると言い伝えられている。だが、田中はそんな迷信を信じる様な奴ではなかった。

その日の朝食の時間のこと。

「あーあ、やっちまった」

田中は、オーブンで焼いていた食パンをうっかり焦がしてしまった。焼いている間にドラマを見たことを後悔しながら、口に入れた。

「にげぇな……」

通勤時間では。

『只今、東京行きの電車は、人身事故の影響により運転を見合わせています』

電車が遅延。すぐに運転を再開すると思ったが、結局一時間以上動かず、出勤時間に大幅に遅れた。

「すみません……」
「全く君は、他の人のことも考えて——」

上司から、厳しく叱られた。

昼食後の仕事の時間では。

「田中くん、この前送ってくれた資料なんだけど」
「はい!」
「チェックつけた場所、全部直しといて」
「はい……」

提出した資料のほとんどにチェックが付いていた。これじゃ最初からやるのと変わらないじゃないかと思った。

そこで田中は、今朝のランニングで靴紐が切れたことを思い出した。

「まさか……」

田中は少しだけ怖くなった。信じたくはないが、靴紐の話は本当なのかもしれないと思い始めてきた。

定時を過ぎた頃。何か大変なことが起こる前に、今日は早く帰ろうと会社を出た。その時。

「田中先輩!今帰りですか?」

一つ年下の鈴木に声を掛けられた。田中が想いを寄せている同じ部署の後輩だ。

「うん。どうしたの?」
「私も今帰りなので、一緒に帰りませんか?」

ほら。靴紐の話なんて嘘だったんだ。あんな作り話なんて信じるもんじゃない。
と心の中で思った。

田中は、心を弾ませて一緒に帰った。

お題:靴紐

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