青い空を追いかけて、とりあえず走ってみた。
走って、走って、走って、
ただひたすらに走った。
あの青を掴みたかった。
道がある限り、追いかけた。
青い空はなんの前触れもなく、突然途切れた。
だから、僕は止まった。
思わず、空を見あげた。
目の前には、まるで、カーテンのように、
大雨が降っていた。
真上は、曇りなき青空。
手を伸ばせば、雨に濡れる。
ここは、雨と晴れの境目だ。
思わず雨の中に飛び込みたくなる衝動を抑えて、
境目に沿って、僕は走った。
また、長い道のりだった
こうして僕は次のゴールまで走り続けようとしたのだけれど、結果としてそれは叶わなかった。
「海まで続いてるとか聞いてねぇよ」
海面を見つめた。
そしてまた、新たな冒険を探しに歩んだ。
「もう秋だね〜、衣替えしなきゃ」
私の何気ない呟きに、
彼氏は過剰に反応したようだった。
「うっわ、そうじゃん」
そう言って勢いよく立ち上がって何やら部屋を行き来し始めた。
何かにものを詰め込んでるらしい。
いつも言われてもやんないのに珍しいなと思いつつ、
私の視線はまたスマホの画面に戻った。
彼氏が忙しく動き始めて早30分。
ガムテープをしっかり貼り、
ダンボールを満足気に見つめていた。
「ちょっと行ってくる〜」
そのダンボールを抱え、彼氏はどこかに行った。
多分、着れない服をリサイクルショップにでも
売りに行ったのだろう。
本当に珍しい。
「ただいまー」
スッキリした顔で帰って来るなり、
_____っぽん_。
私は玄関の外へ追い出された。
そう、まるで放り投げられるかのように。
状況を理解しきれない間に、玄関の鍵がかちゃりと閉まる音がした。
先程まで寛いでいた私は鍵を持っていない。
閉め出された。
急いでLINEする。
「ちょっと、どういうこと!?」
私は納得していない。
彼氏によると、こういうことらしい。
「お前は夏の水着しか楽しくない。衣替えだから次はサンタコスしてくれる彼女探すわ」
「お前の荷物はお前の実家に送った。」
なにそれムカつく。
衣替え人間Ver.とか要らねぇよ。
何。
私のスタイルと胸だけしか見てなかったのか!?
この変態野郎が。
いいよ、私もクリスマスプレゼントにブランド物買ってくれるイケメンのサンタ探すわ。
「おい、ゆうか!」
『ゆうか』
この名前を何度叫んだだろうか。
俺の大事な妹。
3日前に、公園に遊びに行ったっきり、
帰って来なかった。
警察が家に来た。
両親は自宅待機。
流石にじっとしてられなかった俺は、
くまなく家周辺を走り回っている。
……あのとき、なんでついて行かなかった。
なんでいつものように見送ったのか。
過去の俺が憎たらしい。
ポスターも作った。色んな家を周った。
ネットにも呼びかけてる。
声を張上げて走ってる。
なのに、妹は見つからない。
なんで、なんで、なんで。なんでなんでなんでなんで。
なんでだよ。
どこの誰が俺の妹を、何処にやったんだよ、。
ごめんな。
待っててな、兄ちゃんが迎えに行くから。
助けに行ってやるから。
だから、どうか無事でいてくれ。
ズザァァッ。
足がもつれて地面に倒れ込んだ。
ははっ、だっさ、俺。
そんな俺を嘲るように、空から雨が降り出した。
思いっきり足を叩いたあと、
立ち上がってまた走り出した。
たとえ足がはち切れようと、喉が枯れようと、
何度だって妹の名前を呼び続ける。
だって、俺は、あいつの兄ちゃんだ。
また、リセットされた。
クラス替え。席替え。入学式。卒業式。
何かが始まるとき、必ず何かはリセットされる。
今日は、クラス替えがあった。
皆が歓声を上げて盛り上がってる中僕は静かに肩を落とした。
気軽に話せる人が、周りに誰1人としていないからだ。
前の席で僕が必死に築き上げた交友関係が、
席替えという謎概念の所為で全て崩れ去ったのだ。
あーあ。
隣の野球部の奴とか個人的に話しかけにくい。
絶対陽キャじゃん。絶対睨まれるじゃん。
ごめん偏見だけどさ。
そう心の中で謝った時、
視線の先にあった隣の坊主頭がこっちを向いた。
やべぇ、声に出てたか……?
困惑し、相手からの言葉を待った。
「今日から隣!よろしくな」
ニッと白い歯を見せて笑いかけられた。
拍子抜けた。
どちらかというとふざけて騒いで怒られてるやんちゃなイメージしかなかった。
「一応話したことないよな…?」
恐る恐る確認してくる坊主頭。
名前が中々頭に浮かんでこない。
「一応どころか、全く話したことないよ」
「まじか、そうだったな」
ははっとまた笑っている。
どうやら思ってたほど悪い奴では無いらしい。
少し目を逸らして、そっと名札を盗み見た。
『東』。
くっそ。
『ひがし』か、『あずま』か、わかんねぇ…。
正直に聞くしか無いか…。
「ごめん名前教えて貰っていい?」
「俺も名札見て読み方わからくて困ってたwww」
その言葉を聞いて、
こいつとは仲良くやれそうだなと確信した。
小さい頃は、毎日どっちかの家を行き来して遊んでたのに。
しばらく、君と話してない。
家族ぐるみで仲が良かった。
いや、親同士はまだ仲が良い。
別に君と私は仲悪い訳じゃないけど。
話さなくなって、なんとなく気まずくて、
朝、一緒の時間に家を出て、
必然的に一緒に登校してたけど、
ちょっと時間をずらして、早く登校するようになった。
君に教えて貰えるから、苦手だけど嫌いじゃなかった数学は、
点数が下がる一方で、嫌いになりそう。
クラスが同じで、時々目が合うことがあっても
お互いすぐに逸らしてしまう。
君とのLINEも、
ずっと止まったまま。
何か文字を打ち込んでは、消すだけ。
送信ボタンを押す勇気が無いや。
苦手な数学の授業。
先生も、分かりにくいことで不評なこともあって、
結構前のどこかで躓いてわからないことだらけ。
「はいじゃぁ、プリント終わった人から休み時間な」
え。
わかんないし。
1問目の基礎問題からよくわからない。
教科書を捲っても、ワークを見ても、
隣の人の答えを盗み見てもよくわからない。
他の人達は次々と提出してる。
置いてかれている状況に泣きたくなる。
「……後で教えてやるから、とりあえず写して」
差し出される記入済みのプリント。
顔を上げたら、君がいた。
相変わらず丁寧な字。
「あ、ありがと…」
戸惑いながらも、一生懸命写す。
無事に提出することが出来た。
今日、私たちの距離がまた動いて、
止まったままだったLINEも、動いた。
なんだ、別に難しいことじゃなかったんだ。