蒼白ねっこ

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3/25/2025, 12:56:31 PM

記憶


私の記憶の中に存在する、あの子は誰だろう?

顔を火傷して、醜い姿を見せるなと蔑まれた彼女。それでも、折れずに頑張っていた彼女。面白い話をしてくれて、毎日隣にいた。

対して私は、何もかもから逃げ出し、罵られ、蔑まられたら最後。何も出来ないほど落ち込む。
彼女は、私とは真逆だった。

そんな私の記憶の中に残る彼女は、名前も思い出せない。誰なのかと考え、街中をふらついている。あまり親近感は無かったため、考えるのをやめた途端、一人の女が私に声を掛けた。喜んでいるような、そんな明るい声で。

「久しぶり!〇〇だよね?」

顔に火傷跡がついている女。私はその女を見つめる。親近感はないが、何故か見たことがあるように感じる。しかし、名前が分からない。

「え、お会いしたこと、ありましたっけ、?」


そうだ、そうだった。私の記憶は抹消されている

前に、頭をぶつけた。その時に、自分の名前すら思い出せないようになって、今の親が私の記憶を元に戻してくれた、、?

違う。違う。私の記憶は元には戻っていない。

元の親が、名前と今までのこと。

分からないことを話してくれた。


「思い出した、顔を火傷した、子、」


「そう、そうだよ!」

彼女は、私の前で涙を流して喜んだ。

3/24/2025, 11:15:02 AM

もう二度と


もう二度と、あなたの手を離さない。

そう決断した一人の男は、女を抱きかかえた。

しかし、女はどんなに語りかけても答えてくれることは無い。いつか獄炎の炎に焼かれる日まで。

真っ白に染まった、青白の肌は彼女の存在を否定しているようにも感じ、何よりも、彼女の身体はいつもに増して冷えきっている。


次は、もう二度と離さない。
あなたが産んでくれた子供を、何があろうと守る。

私は、番人になるのだ。



もう二度と、被害を加えさせないために。

3/23/2025, 1:40:44 PM

曇り


私の彼氏は、統合失調症を患っていて、多重人格のようになってしまった。日によって、彼の状態が違うのだ。

まずは、何も言わず、落ち込んでいる時。(雨)
この時は、ベッドの上でずっとうずくまっているのだ。こちらの呼び掛けにはあまり対応せず、酷ければ何も喉を通らない。

幻覚や幻聴に悩まされ、暴れる時。(雷雨)
この時、場合によっては身体を拘束しなければならない。何より彼は一度自殺未遂を起こしているのだ。点滴を全て自身で抜き、深夜帯に屋上に向かった。幸い、夜勤の看護師に捕まったため、事なきを得た。

時々、何も無い無関心な彼になる。(曇り)
呼び掛けには、「うん」とか、表情だけ。
何を思っているのか分からない、感情を表に出さない彼。ただ、「死にたい」などと言った、彼の口から鬱発言が見られる。

しかし、年に数える程しかないが、軽くでも笑みを浮かべてくれる日(晴れ)がある。


今日はどんな彼だろう。



彼の病室に赴くと、彼は、私のことを優しく迎える訳もなく、私の顔を一目見ると、そのまま視線を離した。今日は曇りの彼だ。

曇りの彼とは言いつつも、彼は時々笑みを浮かべている。


今日は、
色々な彼が混ざり、曇った色になっている。

まさに、
綺麗に混ざりきっていない絵の具のようだった。

3/22/2025, 2:36:48 PM

bye bye...


私は、かつて有名な見世物小屋の一人だった。


昔から、私の身体は所々にシミが出来ていて、子供の時に、親に捨てられた。

さまよってようやく、スターと呼ばれる人に出会ったのだ。彼は素敵な顔で、素敵な舞を見せた。

まさに、映画のような何かで。

努力の甲斐があってか、やがて見世物小屋のオーナーが、シミの出来た女の子と言い、私を招待した。

しかし、その場で私は虐げられ、蔑まれた。

それでも、死ぬ気で人々の目に焼き付ける、自身の姿を演じ続け、やがて身体を壊してしまった。



気が付けば、そこは夜の世界。



見世物小屋の一人としての炎は消え、傷まみれ。


ようやく認めてもらえた自分の姿。
珍しいね、と言ってもらえた私の存在。


震える手で、誰かの手を掴むために、また更にさまようことになる。

ようやく手を掴んでも、時代の流れは無情で。

皆、彼女の姿を受け入れない人間に変わっていた

彼女は何を言っても変わらない現実に絶望し、いつしか、見世物小屋丸ごと燃やし尽くした。


「さよなら。私の、生きた場所」


そして、燃やした犯人とされる彼女は、

どこかで消え失せた。残されていたのは、

「ばいばい」

と書かれた彼女の日記一冊だけ。

3/21/2025, 2:16:01 PM

君と見た景色


鮮明に覚えている。彼と見た流れ星の群れ。

まるで小説や漫画でしか見ないような素敵な。

この星は、十年に一度だと噂されており、毎回、ニュースになるほど有名なのだ。

そんな星を、彼と見に行った。川沿いの、綺麗な平地で。二人で乗るように、可愛らしい柄のレジャーシートを敷いた。流れ星が終盤に入ってきた頃に、彼は、優しく二度と叶わない夢を囁いた。


彼が微笑んで、彼と私の子供と見に行きたいと。


しかし、その幸せはもう既に崩れている。
神様が、私達を嫌いになったのか、彼の人生の小説を打ち切りにしてしまったのだ。

突然の心臓発作だ。


つまり、彼はもうこの世にいない。


そして子供が産まれた時、この星を見に来て、いつか伝えてあげようと思う。


この星は、お父さんと見たんだよ。と。



そして彼に言いたいことがたくさんある。

神様の情けなのか、彼が死ぬと分かっていたのか。最期に残してくれた、大切な私のお腹の中にいる子供は、もう妊娠八ヶ月を迎える。


その子と、最後のページを埋めてあげる。

幸せをくれた彼へのお礼には、すこし少なすぎる気がするけれど。


やりたいことは、全て叶えてくれましたと。


そして、

「君と見た景色」を見に行くね。と。

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