記憶
私の記憶の中に存在する、あの子は誰だろう?
顔を火傷して、醜い姿を見せるなと蔑まれた彼女。それでも、折れずに頑張っていた彼女。面白い話をしてくれて、毎日隣にいた。
対して私は、何もかもから逃げ出し、罵られ、蔑まられたら最後。何も出来ないほど落ち込む。
彼女は、私とは真逆だった。
そんな私の記憶の中に残る彼女は、名前も思い出せない。誰なのかと考え、街中をふらついている。あまり親近感は無かったため、考えるのをやめた途端、一人の女が私に声を掛けた。喜んでいるような、そんな明るい声で。
「久しぶり!〇〇だよね?」
顔に火傷跡がついている女。私はその女を見つめる。親近感はないが、何故か見たことがあるように感じる。しかし、名前が分からない。
「え、お会いしたこと、ありましたっけ、?」
そうだ、そうだった。私の記憶は抹消されている
前に、頭をぶつけた。その時に、自分の名前すら思い出せないようになって、今の親が私の記憶を元に戻してくれた、、?
違う。違う。私の記憶は元には戻っていない。
元の親が、名前と今までのこと。
分からないことを話してくれた。
「思い出した、顔を火傷した、子、」
「そう、そうだよ!」
彼女は、私の前で涙を流して喜んだ。
もう二度と
もう二度と、あなたの手を離さない。
そう決断した一人の男は、女を抱きかかえた。
しかし、女はどんなに語りかけても答えてくれることは無い。いつか獄炎の炎に焼かれる日まで。
真っ白に染まった、青白の肌は彼女の存在を否定しているようにも感じ、何よりも、彼女の身体はいつもに増して冷えきっている。
次は、もう二度と離さない。
あなたが産んでくれた子供を、何があろうと守る。
私は、番人になるのだ。
もう二度と、被害を加えさせないために。
曇り
私の彼氏は、統合失調症を患っていて、多重人格のようになってしまった。日によって、彼の状態が違うのだ。
まずは、何も言わず、落ち込んでいる時。(雨)
この時は、ベッドの上でずっとうずくまっているのだ。こちらの呼び掛けにはあまり対応せず、酷ければ何も喉を通らない。
幻覚や幻聴に悩まされ、暴れる時。(雷雨)
この時、場合によっては身体を拘束しなければならない。何より彼は一度自殺未遂を起こしているのだ。点滴を全て自身で抜き、深夜帯に屋上に向かった。幸い、夜勤の看護師に捕まったため、事なきを得た。
時々、何も無い無関心な彼になる。(曇り)
呼び掛けには、「うん」とか、表情だけ。
何を思っているのか分からない、感情を表に出さない彼。ただ、「死にたい」などと言った、彼の口から鬱発言が見られる。
しかし、年に数える程しかないが、軽くでも笑みを浮かべてくれる日(晴れ)がある。
今日はどんな彼だろう。
彼の病室に赴くと、彼は、私のことを優しく迎える訳もなく、私の顔を一目見ると、そのまま視線を離した。今日は曇りの彼だ。
曇りの彼とは言いつつも、彼は時々笑みを浮かべている。
今日は、
色々な彼が混ざり、曇った色になっている。
まさに、
綺麗に混ざりきっていない絵の具のようだった。
bye bye...
私は、かつて有名な見世物小屋の一人だった。
昔から、私の身体は所々にシミが出来ていて、子供の時に、親に捨てられた。
さまよってようやく、スターと呼ばれる人に出会ったのだ。彼は素敵な顔で、素敵な舞を見せた。
まさに、映画のような何かで。
努力の甲斐があってか、やがて見世物小屋のオーナーが、シミの出来た女の子と言い、私を招待した。
しかし、その場で私は虐げられ、蔑まれた。
それでも、死ぬ気で人々の目に焼き付ける、自身の姿を演じ続け、やがて身体を壊してしまった。
気が付けば、そこは夜の世界。
見世物小屋の一人としての炎は消え、傷まみれ。
ようやく認めてもらえた自分の姿。
珍しいね、と言ってもらえた私の存在。
震える手で、誰かの手を掴むために、また更にさまようことになる。
ようやく手を掴んでも、時代の流れは無情で。
皆、彼女の姿を受け入れない人間に変わっていた
彼女は何を言っても変わらない現実に絶望し、いつしか、見世物小屋丸ごと燃やし尽くした。
「さよなら。私の、生きた場所」
そして、燃やした犯人とされる彼女は、
どこかで消え失せた。残されていたのは、
「ばいばい」
と書かれた彼女の日記一冊だけ。
君と見た景色
鮮明に覚えている。彼と見た流れ星の群れ。
まるで小説や漫画でしか見ないような素敵な。
この星は、十年に一度だと噂されており、毎回、ニュースになるほど有名なのだ。
そんな星を、彼と見に行った。川沿いの、綺麗な平地で。二人で乗るように、可愛らしい柄のレジャーシートを敷いた。流れ星が終盤に入ってきた頃に、彼は、優しく二度と叶わない夢を囁いた。
彼が微笑んで、彼と私の子供と見に行きたいと。
しかし、その幸せはもう既に崩れている。
神様が、私達を嫌いになったのか、彼の人生の小説を打ち切りにしてしまったのだ。
突然の心臓発作だ。
つまり、彼はもうこの世にいない。
そして子供が産まれた時、この星を見に来て、いつか伝えてあげようと思う。
この星は、お父さんと見たんだよ。と。
そして彼に言いたいことがたくさんある。
神様の情けなのか、彼が死ぬと分かっていたのか。最期に残してくれた、大切な私のお腹の中にいる子供は、もう妊娠八ヶ月を迎える。
その子と、最後のページを埋めてあげる。
幸せをくれた彼へのお礼には、すこし少なすぎる気がするけれど。
やりたいことは、全て叶えてくれましたと。
そして、
「君と見た景色」を見に行くね。と。