手を繋いで
目を覚ますと。見覚えのない場所にいた。
真っ白で、透明な世界。心すらも透き通すほど。
私は、死んだんだ。つい、先程。
彼が優しく手を握ってくれていた。
未だに、その感覚が残っている。手を動かしてみても、ぶらぶらと足を運んでも。その感覚は付いてくる。
………?
その時、ふと違和感が湧いた。
私の手を握ってくれていたのは、彼、じゃない。弟だ。私の彼氏は、先に病死した。死んだ私の年齢は、80を超えていた。
手を見つめながら、握ったり振ったりするのをようやく辞め、私は透明なその場所を見つめた。その瞬間、私の視線は一点に集中した。
先程までいなかった彼の姿に。
彼は、私の手に彼の手を重ねた。
そして優しく握ると、私の手を引っ張りながら、そのまま透明な世界の中に走って行く。
そうして、
二人は、手を繋ぎながら透明な世界から消えた。
まるで、透明な、糸に縛られているかのように。
彼の手は私から離れない。
二人の小説はまた、始まる。
どこ?
あなたは、どこ??
大雨の中、探し回った。
手術から逃げ出した彼を。
成功率10%だと言われ、死ぬかもしれないという絶望に襲われたのだろう。しかし、手術をしなければ、どの道、彼は命を失う。
それが今なのか、この先なのか。
酸素マスクを着けられた途端、医師を押し倒し、そのまま走り去った彼を、私は追いかけた。
しかし、あまりに大雨だったため、私は彼の後ろで転んだ。彼に背中を向けさせたままにした。
私は、それでも彼を見つけ出す。
どこにいようと、絶対。
彼の小説を、終わらせないために。
大好き
大好きだよ。そう言い、ほんのり甘いキスを。
私は、彼が大好きだった。付き合ってまだ一年未満。それでも、二人の愛は本物だと言えるほど。
身体を重ね、やがて結婚にまで及ぶ二人の関係。
私の中にある、彼が大好きな感情は変わらない。
「ずっと一緒にいてね」
そう囁いて、お互いに愛情を注ぎ合う。永遠を共にすることだって約束した。
しかし、その言葉とは裏腹に、
やがて終わりを迎える二人のワルツ。
永遠なんざ、共には出来ない。
彼が永遠を共にしようと、ありもしない現実を言い、甘い嘘をついたとしても。
それでも、私はずっと彼が大好き。
叶わぬ夢
二度と叶わない。
彼が帰ってきて下さい。なんて。
彼は病気で死んだ。最後はぎゅっと私の手を握りながら、息を引き取った。最後まで死にそうなことを、私に言わないまま。
「大丈夫、大丈夫。」
そういい、確信のない生存を伝えながら、最後を見送った私は、後悔しかない。
きっと、もうダメだと言うことを、私に一言でも伝えたかったのかもしれない。
きっと、ありもしない希望を言われて嫌だったに決まってる。
今更、言いたいことなんてないのに。
___彼が帰って来ますよう。
花の香りと共に
これは、恋人からもらった花。
手に収まっているのは、真っ赤に染まった薔薇。
これは、職場の人から頂いた花。
手に収まっているのは、ディモルフォセカ。
どれも素敵な花言葉がある。しかし、世の中には、とても闇深い花言葉を持つ、花も存在する。
私の正体は、花農家。
毎日、花の香りと共に生きていく。