手を繋いで
目を覚ますと。見覚えのない場所にいた。
真っ白で、透明な世界。心すらも透き通すほど。
私は、死んだんだ。つい、先程。
彼が優しく手を握ってくれていた。
未だに、その感覚が残っている。手を動かしてみても、ぶらぶらと足を運んでも。その感覚は付いてくる。
………?
その時、ふと違和感が湧いた。
私の手を握ってくれていたのは、彼、じゃない。弟だ。私の彼氏は、先に病死した。死んだ私の年齢は、80を超えていた。
手を見つめながら、握ったり振ったりするのをようやく辞め、私は透明なその場所を見つめた。その瞬間、私の視線は一点に集中した。
先程までいなかった彼の姿に。
彼は、私の手に彼の手を重ねた。
そして優しく握ると、私の手を引っ張りながら、そのまま透明な世界の中に走って行く。
そうして、
二人は、手を繋ぎながら透明な世界から消えた。
まるで、透明な、糸に縛られているかのように。
彼の手は私から離れない。
二人の小説はまた、始まる。
3/20/2025, 2:59:06 PM