僕と一緒に
「あああああ!」
精神科、閉鎖病棟で叫ぶ彼女の姿。
涙を流しながら叫び、光を失った目。
そんな彼女が、好きなのは変わらない。
でも彼女に対して、安楽死が決まった。
悲痛な選択を取った彼女の親。
僕は、彼女の親を殺した。惨殺した。
何度も何度もナイフで刺し、
血を、内蔵を抉った。
僕もどうせ死ぬ。死刑になって、殺される。
彼女と同じだ。
最期に、彼女の身体を抱きしめた。言葉にならない言葉を話す彼女の肩に、涙が落ちる。
「大丈夫、僕がいるよ」
「一緒に、死のうか。"僕と一緒に”」
フィルター
レンズのフィルターには色々隠せるものが存在する。
私もそれで色々隠していた。
スマホでやるような、消しゴムマジックでは無い
私は、
自分が隠しているものを知られてはならない。
だからフィルターをかけていた。
しかしパパラッチで破かれた。
俳優なのにも関わらず、一度人を殺していること
色々な異性と関わりを持ち、身体を重ねたこと
「バレちゃいけないんだよ、そうゆうのは」
「フィルターってね、人のプライバシーなの。破いていいわけないんだよ?」
「だから、死んで?」
そう言って、フィルターをかけた。
こぼれたアイスクリーム
私の好物はアイスだ。それは昔からずっと。
大好きな彼に出会い、幸せな時を過ごす時ですら、アイスは欠かせない。
そんな私が彼との子を妊娠した時も、幸せだ。
彼が喜んでお腹をさすった時も幸せだ。
彼は喜んで私を可愛がった。
身体を重ねた時ですら、私がアイスを好んで食べるのと同じように。
甘く優しい「バニラ」味。
でも怒った時は、苦くて冷たい「抹茶」味。
時々、ツンデレが発動する「チョコレート」味。
彼の蓋を開ければ、色々な味に出会えた。
でも、私は死んだ。
車に撥ねられたのだ。お腹の子とともに。
彼は泣いた。何味でもない彼。
初めて見た。
味が「こぼれた」アイスクリーム。
アイスは、どん底に落ちたせいか、
「「無味無臭」」だった。
やさしさなんて
俺は昔。人を殺した。
妻に虐待されていた、
娘を守るために、やむを得ず妻を殺した。
正しいのかは分からないが、真っ赤に返り血を浴びた自分を、娘が抱きしめた。
「ごめん、すぐに気づいてやれんくて。」
涙が溢れ出て、警察に連れて行かれる時ですら。
娘を見つめていた。
結果、妻がしていた虐待が正義となり、自分は執行猶予で済んだ。
娘と暮らし、何もかもが幸せだと思えた。
それなのに、周りは人はやさしさをくれた。
娘はともかく、近所の人、学校の教師。職場は。
いらない。いらない。人を殺した俺に。
やさしさを受け入れられない。
_やさしさなんて
__最初から、俺が受けるべきものじゃない。
そういう俺に、娘はやさしかった。
「私も。お母さんを殺したお父さんと同罪よ」
「だからやさしさなんて。って言わないで。あの人から守ってくれたのは。」
「紛れもない、ヒーロー(お父さん)でしょう?」
オアシス
私は死にたい。今も死にたい。
死にたいのに何故か息をしていた。
そんな私に当然オアシスなどあるわけもない。
つい先日。オアシスを壊されたのだ。
電車がオアシスだった私。山手線に乗り、ガタンゴトンと揺れる電車の音を楽しむのだった。
元々味方のいない人生から逃げるべく、死にたいと思っていて、それでも最後に楽しむことを探した。
それが電車になったわけだ。
しかし運命は残酷だ。
「席を譲れ!こちとら仕事帰りなんだ!」
「やめッ…!」
40か、50くらいの男が
私の腕を掴んで席を立たせた。
その後何度も声を掛けたが、無視される。
男は決まった電車に乗る私に目をつけ、毎度席を立たせるようになった。
怖がり、電車に乗るのをやめた。
心のオアシス。
「感情を伝えることが許されない。」
「なら、心なんていらないね」
「心のオアシス。」
「…あなたの心の在りどころでありますよう?」
「…………なにそれ」
「気持ち悪いね。」
____ガタン_ギィィィ
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死にたい彼女の言うこと。
死にたくても息をしている。
死にたいから心のオアシスを作ろうと周りが働く
彼女が、生きたいと思えた時に。
心のオアシスになってあげて欲しかった。
でも、それに気づいたのはもう遅かった。