神様へ
神様へ、おかあさんの病気を治してください。
5歳の息子がそんな願いを口にした。
父親は、涙が止まらない。
だって妻は、おまえの母親は。
残り余命3ヶ月、もう自発呼吸もできないよ。
遠くの空へ
「単刀直入に告げる。」
「お前の母親はな、呼吸器官の病気なんだよ。」
まだ5歳の子供に、こんなことを告げる日が来るとは全く思っていなかった。
第1子の長男に、病気という事実を理解するにはまだ早いだろう。
ただ、理解させないといけない。
先程、息子は興味本位で母親の人工呼吸器に触れた。抜くつもりはない手の動き、ちょんちょんと、いつも通り誰かを起こす仕草で。
それがもし、人工呼吸器が抜けてしまえば
あいつの命に関わることになる。
そして今、目の前で理解できない顔を見せている息子。自分は、今現在、腕に1歳のふっくらとした娘を抱えている。
実際、自分の妻、つまり母親は
呼吸器官系の病気を患い、もう長くは無いのだ。
今は病院で、人工呼吸器に繋がれて苦しそうに息をしているに違いがない。
そしてその一ヶ月後。
妻は、突然自分にぎゅーを求めた。
自分は妻の要望通り、上から覆いかぶさった。
「ん…ぅ、も、し。わたしが…死んだら」
「やめろ、そんなこと言うな」
「えへへ、大事にされてるのしあわせだね」
そう言って、眠そうな目をしながら妻は、自分の背中に手を回した。
その数秒後、突然背中に回っていたはずの手がずるりと、滑り落ちた。
「…………え」
彼女は、もう息をしていないのだ。
遠くの空へ、行くことになった。
平穏な日常
朝の通勤ラッシュ。
駅員はバタバタと仕事に追われていた。
西船橋駅勤務の彼は、さすが千葉一位と思えるほどの人の量に圧倒されながら、電車を捌いていた時のこと。
毎日、客が駆け込み乗車をし、電車が出発するまでの約10分間。
この時間が何度も続く。
その時に、ふと思う。
もし震災が起きて、電車が止まったら。
こんな平穏な日常はないのかもしれない。
「仕事しろ」
まぁ、駅長に注意されるのは、まだ
「平穏な日常」だろう。
物憂げな空
彼女が、死んだ。人身事故で。
綺麗な夜景の下で。品川駅の線路に飛び込んだ。
最後まで、綺麗な姿だった。
ライトに照らされ、黒く反射した彼女の身体。
その後、世界は真っ赤に染まった。
その日の空は、物憂げな空だった。
彼女と品川に行く時に、見た朝日。
写真撮って、自撮りして、
自分のインスタのストーリーズにあげた。
ああ、こんなに寂しい空はあっただろうか
10年後の私から届いた手紙
10年後。私から一件の手紙が来た。
入院中の私に、看護師が手紙を渡してくる。
「……?」
恐る恐る手紙を開ける。
私の字、私の文字の書き方。
「こんにちは、10年前の私。」
「あなたは、死ぬ。教えられないけど」
「10年後にはいないよ」
それだけ書かれていた。
「……」
そしてその翌年。
彼女は病室のベッドで冷たくなっていた。
真っ白の、血色のない顔に布がかけられる。
___
「〇〇ちゃん。余命1年だったんだってね」
「そうそう、親が最期に手紙を残したんだって」
「10年後の彼女から。というお題でね」
「どうやら、余命宣告を隠してたらしくて」
「だから、こう手紙で伝えるみたいな」
死んだ彼女の、写真を見ていた。
病室のベッドで、冷たくなった彼女は親友だ。
私の、唯一の
あの手紙は、親が最期に彼女を笑わせようとした
そして、絶望に叩き落とした。
『あなたは死ぬ』
その一言でね。