オアシス
私は死にたい。今も死にたい。
死にたいのに何故か息をしていた。
そんな私に当然オアシスなどあるわけもない。
つい先日。オアシスを壊されたのだ。
電車がオアシスだった私。山手線に乗り、ガタンゴトンと揺れる電車の音を楽しむのだった。
元々味方のいない人生から逃げるべく、死にたいと思っていて、それでも最後に楽しむことを探した。
それが電車になったわけだ。
しかし運命は残酷だ。
「席を譲れ!こちとら仕事帰りなんだ!」
「やめッ…!」
40か、50くらいの男が
私の腕を掴んで席を立たせた。
その後何度も声を掛けたが、無視される。
男は決まった電車に乗る私に目をつけ、毎度席を立たせるようになった。
怖がり、電車に乗るのをやめた。
心のオアシス。
「感情を伝えることが許されない。」
「なら、心なんていらないね」
「心のオアシス。」
「…あなたの心の在りどころでありますよう?」
「…………なにそれ」
「気持ち悪いね。」
____ガタン_ギィィィ
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死にたい彼女の言うこと。
死にたくても息をしている。
死にたいから心のオアシスを作ろうと周りが働く
彼女が、生きたいと思えた時に。
心のオアシスになってあげて欲しかった。
でも、それに気づいたのはもう遅かった。
どこにも行かないで。
昔から、
友達が親と仲良いという関係が羨ましかった。
自分の母親は病弱で入院していて、父親は毎日病院で付きっきり。僕は孤独だった。
そんな生活に慣れてしまったので、母親のお見舞いに行くことはそうそうなかった。
だから人の家に行く時、母親と子供が仲良くする関係に憧れがあった。
「病院行ってくるから」
だからどこにも行かないで。
僕を見て。
僕もお母さんとお父さんの子供だから。
そして気がついた。
僕が、問題児になれば見てくれるということに。
君の背中を追って
僕の寿命が何年あるとお思いで?
公園で暮らす、しっぽの付いた男性の姿を見た。引かれるように彼に話しかけた。
微笑んだ彼の姿。僕はどこか惹かれるが、人間であり、現在24歳自分に対し、彼は1000年生きたと言い出す。私はそんな彼にふっと笑みがこぼれた。
しかしそれは嘘じゃなかった。
「行かないで、やだぁ、」
身体を重ねる関係にまで発展した二人のワルツは、いい加減終わりにしようと神様に壊された。
その翌年。ニュースで告げられた。
_しっぽのついた彼が自殺しました。
__恐らく、関係があった男を追いかけて。
「君の背中を追いかけてきたよ」
「……会いたかった。」
好き、嫌い
「おかあさん、」
養子と実母の差。毎日痛感しているものだった。
「うるさい。黙れ」
「ままー!」
「あらぁ、なぁに?」
今の母親は、実母じゃない人だ。
僕は養子としてこの家に引き取られた。そして母親は、僕を嫌っているため、いつもご飯が出てくる保証などどこにも無い。
対して、母親の実子である弟は何もかも甘やかされ、マイペースでのろまな存在になっていった。
そんな弟が、僕に危害を加えようものなら、じっと耐え忍ぶのみ。抵抗すれば、母親にナイフを向けられ、ご飯は一ヶ月以上出てこない。
母親の好きな弟に従い、母親の嫌いな僕は人形になる。
そうでないと、命の保証などない。
だから僕は嫌いになった。
___この母親も。弟も。
____お兄ちゃんなんか死ね!
弟が僕にナイフを向けて、母親のように殺そうと襲いかかってきたのを、僕は難なく交わし、弟を殺した。その後、悲鳴をあげる母親を殺害した。
「二人のこと嫌い!でも、この死に顔は好き♡」
糸
僕と実母の糸は引きちぎられた。
僕は小一のとき、養子縁組に出され、養子としてとある家に入れられた。
それからだった。僕が壊れ始めたのは。
糸で固く結ばれた夫婦の中に、ポツンと入るわけだ。そして妻は妊娠している。僕に二人と繋がった糸は無い。
糸でキツく結び付けた関係になるよりも先に、きっと糸は何らかの方法でちぎれる。
僕を拒むように。
それが女から赤子が生まれたとき。
そう悟ると、全てが崩れ落ちた音がした。
__産んだなら、ちゃんと育ててよ。
_なんで、僕と糸で繋いだのさ。おかあさん。
「朝ごはん、何が食べたい?」
「………」
「……」
義母なんざ要らない。どうせ糸で繋がらない。信頼が深ければ深いほど太く頑丈になる糸。僕に巻かれた糸は全て細いもの。
この二人の糸はとんでもなく太いのに。
そして、朝ごはんの話を持ちかけた女の中にいる子供もだ。
俺はどうせこいつらの子供よりも愛されない。
何が養子縁組だ。「愛してる」とか口を開いておきながら、実際は実子と養子の違いを、まだ幼い子供に分からせるためか。だったらいらない。
こんな、口だけの糸なんて。
「……嫌!嫌ッ!!やめて!この子だけは!」
愛されないなら、
僕は一生愛されないまま進むことになる。
それなら自分で糸を切る選択を取るだろう。
縋るように括った糸に依存するよりも、糸を切ってしまうほうが正直楽だった。
女の膨らんだ腹を殴り、罵倒した。
やがて中にいる赤子を殺した。
そして、
自分はまた施設に送られ、新しい養子となる。
「君が、〇〇くんだね。よろしくな。」
「………」