ひとひら
私の幸せは、薄いガラスの上に乗っているものだと気が付いたある日。
ある日、父親が事故で死んだ。
ある日、母親は病んで精神科に入れられた。
私は、まだ五歳。
祖父母は、私を見なかった。
「あなたに構ってなどいられない」
やがてお母さんは、私を忘れた。
記憶障害だと医者は祖父母と、私に説明をした。これは残酷な世界に落とされた気分だろう。
「お母さん、私!私だよ、、??」
毎日母親に話しかけた。思い出す日を待っていた
その努力は報われず、私が母親を理由に縛っていた、ひとひらのガラスは割れ、砕け散った。
「自殺する、勇気なんてなかったと思ってた」
終わりでいい。これで私も。
ひとひらの、人生は。
またね!
またね!その言葉は何度聞いたんだろう。
毎年一度、亡くなった人に会えるという都市伝説。私は、彼に会いたくて試してみた。
そうしたら、最期まで動けなかった彼が、元気な姿で私の前に現れたのだ。
溢れ出る涙を堪えられず、透けてしまう彼を抱いている気分で泣き叫んだ。そして一時間もない幸せな時間は、またね!で締められる。
なんて寂しい話なんだろう。
春風とともに
今日は娘の入学式。
春風とともに、桜の下で写真を撮る。
綺麗な娘の姿に、
父親である自分は涙を流す他ない。
本当なら、涙を流すのは二回目のはずだった。
妻との間に授かった、長女は先に死んだのだ。
次女は、長女が亡くなった後に産まれているため、何も知らない。
それでもやがて知ることになる。
春風とともに、
お空に飛んで行ったお姉ちゃんのことを。
涙
「妊娠、したの」
ラブホテルで一緒していた女に突然言われた。
女とは、身体の関係を持ち、許可をもらってはゴムを付けずに性行為をしたものだ。
危険日じゃないから。その口実は何度も聞いた。
何度も、ゴムを着けようと告げた。
決して、彼女に迷惑はかけられない。
彼女を置いて、逃げたりはしたくなかった。
しかし、彼女は自分の心配を他所に、生が好きだと耳元で囁いた。
お互い学生だと言うのに。
自分は、彼女を強く睨んでこう告げた。
「妊娠させてすまない」
「責任取る。子供を堕ろせ」
彼女から流れる涙は、まるで産みたいと告げているよう。彼女が見つめた光は、綺麗な真っ二つに割れた。
それでもその光は、僕と彼女を縛る
「子育てなんて無理だろう!!」
彼女の妊娠は、螺旋階段が繋がっただけだ。
彼女の涙は、棒の中に入っている、真ん中に線の入った丸の中に沈んだ。
しかし、
彼女の産みたいという気持ちとは、裏腹に。
後日。彼女が涙を流して、親に赤ちゃんを堕ろされたと教えてくれた。
あぁ。堕ろせと言うなんて。
僕はなんて最低なんだろう。
彼女が流した涙は、罪悪感。
自分が流した涙は、自分への嫌悪だった。
小さな幸せ
『「幸せは偉大なことだ」100万部突破!!』
そんなニュースを耳にした。その本の中には、
「幸せは、大きいことだ。」
「小さなことでは得られない!」
「毎日の日常は、当たり前」
「その上に進むものが幸せを掴みとる!」
と書かれている。
まさに、自分を傷つけるようなその言い方。
私は、父子家庭で育ち、幼い頃からも家に父親は毎日おらず、家事も何もかもこなしてきた。
月に一度やってくる休みは、必ずどこかに連れて行ってくれて、たらふく食べさせてくれる。
それなのに、私は子供心のままか、豪華なものを父に求めた。
当時の私は、父親が低い給料でやりくりしていたことを知らなかったからだ。
そして、
これが小さなことでも、父は、ずっと一緒に居られる時間が幸せに感じていてくれたことも。
幸せは、大きな成功をしなくては得られない?
世間は、小さな幸せでも、認めてはくれない?
父との時間は幸せだった。
父の墓の前で、ふと考えた。