平穏な日常
朝の通勤ラッシュ。
駅員はバタバタと仕事に追われていた。
西船橋駅勤務の彼は、さすが千葉一位と思えるほどの人の量に圧倒されながら、電車を捌いていた時のこと。
毎日、客が駆け込み乗車をし、電車が出発するまでの約10分間。
この時間が何度も続く。
その時に、ふと思う。
もし震災が起きて、電車が止まったら。
こんな平穏な日常はないのかもしれない。
「仕事しろ」
まぁ、駅長に注意されるのは、まだ
「平穏な日常」だろう。
物憂げな空
彼女が、死んだ。人身事故で。
綺麗な夜景の下で。品川駅の線路に飛び込んだ。
最後まで、綺麗な姿だった。
ライトに照らされ、黒く反射した彼女の身体。
その後、世界は真っ赤に染まった。
その日の空は、物憂げな空だった。
彼女と品川に行く時に、見た朝日。
写真撮って、自撮りして、
自分のインスタのストーリーズにあげた。
ああ、こんなに寂しい空はあっただろうか
10年後の私から届いた手紙
10年後。私から一件の手紙が来た。
入院中の私に、看護師が手紙を渡してくる。
「……?」
恐る恐る手紙を開ける。
私の字、私の文字の書き方。
「こんにちは、10年前の私。」
「あなたは、死ぬ。教えられないけど」
「10年後にはいないよ」
それだけ書かれていた。
「……」
そしてその翌年。
彼女は病室のベッドで冷たくなっていた。
真っ白の、血色のない顔に布がかけられる。
___
「〇〇ちゃん。余命1年だったんだってね」
「そうそう、親が最期に手紙を残したんだって」
「10年後の彼女から。というお題でね」
「どうやら、余命宣告を隠してたらしくて」
「だから、こう手紙で伝えるみたいな」
死んだ彼女の、写真を見ていた。
病室のベッドで、冷たくなった彼女は親友だ。
私の、唯一の
あの手紙は、親が最期に彼女を笑わせようとした
そして、絶望に叩き落とした。
『あなたは死ぬ』
その一言でね。
待ってて
大好きな人に会うこと。
それはすごく楽しみなこと。
「待ってて」
楽しみにしていた。
急いで電車に乗って、彼氏の所へ向かう。
その時に、一言電話
「_〇〇さんの、彼女さん、ですね」
「__い、ま_病院_で」
「え」
楽しみにしていた。
それは事実である。
でも、怪我をしてまで会いたかった訳じゃない
「___まってて」
楽しみだった思い出。
楽しみじゃないよ、もう。
怪我するのは、嫌いでしょ。
うん私も、嫌い。
処置室の前、倒れそうなほど
心臓がバクバクしていた。
君が隠した鍵
私は、この部屋で監禁されている。毎日朝、一人目を覚ませば、暗い部屋に入ってくる光を見る。
そして両手に湯気の出た朝ごはんを持ってくる男の顔を見ると、途端に苛立ちが湧いて彼に怒鳴る。
「出して。ここから。」
「……出せないよ、家にも帰れないのに」
そう、私は家に帰れない。家の場所を覚えていない。この男の顔も名前も覚えていない。
数年前に起こった、交通事故で恋人だった男の名前も顔も、自分のことすらも忘れ去った。
君が隠しているのは、私が無くした鍵だった。
私が、事故で彼との思い出に蓋をした。
それを彼が私に悟られぬように蓋の鍵を握っている。いつか、いつか記憶の箱が開くと信じて。
「家、家にかえ、りたい。」
同棲している彼に、そんなことを言っても意味が無い。私の頭にある家は存在しない。
帰りたい。と言っても帰る場所もないのだ。
だから君が鍵を隠した。
……私が、
自分の記憶と全てから逃げ出さぬように。