こぼれたアイスクリーム
私の好物はアイスだ。それは昔からずっと。
大好きな彼に出会い、幸せな時を過ごす時ですら、アイスは欠かせない。
そんな私が彼との子を妊娠した時も、幸せだ。
彼が喜んでお腹をさすった時も幸せだ。
彼は喜んで私を可愛がった。
身体を重ねた時ですら、私がアイスを好んで食べるのと同じように。
甘く優しい「バニラ」味。
でも怒った時は、苦くて冷たい「抹茶」味。
時々、ツンデレが発動する「チョコレート」味。
彼の蓋を開ければ、色々な味に出会えた。
でも、私は死んだ。
車に撥ねられたのだ。お腹の子とともに。
彼は泣いた。何味でもない彼。
初めて見た。
味が「こぼれた」アイスクリーム。
アイスは、どん底に落ちたせいか、
「「無味無臭」」だった。
やさしさなんて
俺は昔。人を殺した。
妻に虐待されていた、
娘を守るために、やむを得ず妻を殺した。
正しいのかは分からないが、真っ赤に返り血を浴びた自分を、娘が抱きしめた。
「ごめん、すぐに気づいてやれんくて。」
涙が溢れ出て、警察に連れて行かれる時ですら。
娘を見つめていた。
結果、妻がしていた虐待が正義となり、自分は執行猶予で済んだ。
娘と暮らし、何もかもが幸せだと思えた。
それなのに、周りは人はやさしさをくれた。
娘はともかく、近所の人、学校の教師。職場は。
いらない。いらない。人を殺した俺に。
やさしさを受け入れられない。
_やさしさなんて
__最初から、俺が受けるべきものじゃない。
そういう俺に、娘はやさしかった。
「私も。お母さんを殺したお父さんと同罪よ」
「だからやさしさなんて。って言わないで。あの人から守ってくれたのは。」
「紛れもない、ヒーロー(お父さん)でしょう?」
オアシス
私は死にたい。今も死にたい。
死にたいのに何故か息をしていた。
そんな私に当然オアシスなどあるわけもない。
つい先日。オアシスを壊されたのだ。
電車がオアシスだった私。山手線に乗り、ガタンゴトンと揺れる電車の音を楽しむのだった。
元々味方のいない人生から逃げるべく、死にたいと思っていて、それでも最後に楽しむことを探した。
それが電車になったわけだ。
しかし運命は残酷だ。
「席を譲れ!こちとら仕事帰りなんだ!」
「やめッ…!」
40か、50くらいの男が
私の腕を掴んで席を立たせた。
その後何度も声を掛けたが、無視される。
男は決まった電車に乗る私に目をつけ、毎度席を立たせるようになった。
怖がり、電車に乗るのをやめた。
心のオアシス。
「感情を伝えることが許されない。」
「なら、心なんていらないね」
「心のオアシス。」
「…あなたの心の在りどころでありますよう?」
「…………なにそれ」
「気持ち悪いね。」
____ガタン_ギィィィ
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死にたい彼女の言うこと。
死にたくても息をしている。
死にたいから心のオアシスを作ろうと周りが働く
彼女が、生きたいと思えた時に。
心のオアシスになってあげて欲しかった。
でも、それに気づいたのはもう遅かった。
どこにも行かないで。
昔から、
友達が親と仲良いという関係が羨ましかった。
自分の母親は病弱で入院していて、父親は毎日病院で付きっきり。僕は孤独だった。
そんな生活に慣れてしまったので、母親のお見舞いに行くことはそうそうなかった。
だから人の家に行く時、母親と子供が仲良くする関係に憧れがあった。
「病院行ってくるから」
だからどこにも行かないで。
僕を見て。
僕もお母さんとお父さんの子供だから。
そして気がついた。
僕が、問題児になれば見てくれるということに。
君の背中を追って
僕の寿命が何年あるとお思いで?
公園で暮らす、しっぽの付いた男性の姿を見た。引かれるように彼に話しかけた。
微笑んだ彼の姿。僕はどこか惹かれるが、人間であり、現在24歳自分に対し、彼は1000年生きたと言い出す。私はそんな彼にふっと笑みがこぼれた。
しかしそれは嘘じゃなかった。
「行かないで、やだぁ、」
身体を重ねる関係にまで発展した二人のワルツは、いい加減終わりにしようと神様に壊された。
その翌年。ニュースで告げられた。
_しっぽのついた彼が自殺しました。
__恐らく、関係があった男を追いかけて。
「君の背中を追いかけてきたよ」
「……会いたかった。」