しそひ

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9/5/2023, 12:32:33 PM

貝殻
「博士、これは……」
「ああ、束彩。貝殻の化石を拾ったのか」
「はい。ところで貝殻とはなんですか」
「貝殻はかつて海で採取できたものだ。それは無機物のようだが、食べられるものもあるんだぞ」
「ホタテとかですか」
「そうだな。現在は海自体が枯れてしまったから、食卓に並べるものはどうしても限りなく似せたものになってしまうんだ。申し訳ない」
「別に……博士が謝ることじゃないですよ。海がないのは地球温暖化を進めた人間ですし……全く理解ができない……わたしにとったらあなた達が毒のようなものですよ……ブツブツ」
「そう悪く言わないであげてくれ。束彩も元々は人なのだから、」
「博士。現在のわたしはクローンです。……昔の話をされても、どうとも思えません」
「そうだな。ごめん」
「…………あの」
「ん?」
「博士、可能であればなんですが」
「どうしたんだ?」
「博士は、わたし達に海をもう一度見せてくれますか」
「……それは、かなり不可能に近いな。でも、どうして?」
「綺麗だなって思えたんです。これは毒もない。わたしが綺麗だと思えたものは全て毒が含まれていました」
「束彩は……海が見たいんだな」
「そうです。化石の状態でこんなにも綺麗なら、海本来はとても美しいに違いない。そう思いませんか」
「なるほどな。わたしも地球温暖化により消滅したものを復元しようとしているところではある。……その望み、覚えておくよ」
「どうも。楽しみにしています」


〜〜〜


おまけ
空模様(8/19のお題)
本日書いたものとは世界観が異なります。
「……」
「詠人さん?」
「ん?ああ、玲央か」
「お悩みですか?私ができることならなんでもやらせていただきます」
「いや、違うんだ」
「?」
「空は元々いた世界と同じだな、って感じていた」
「元々……?」
「俺様は本当はここの世界の住民ではないんだ。信じてはもらえないだろうが」
「いいえ、信じますよ」
「……お人好しだな」
「いいえ、根拠からの推測です」
「どういうことだ?」
「現在、どこからともなく現れてここで生活している、仲原みさとさんが証人のようなものです」
「……なるほどな。彼女にも元々の世界があるような発言だからな」
「なにより……」
「ん?」
「……いえ。空、本当に綺麗ですよね」
「……?ああ……そうだな……?」

8/28/2023, 12:07:10 PM

突然の君の訪問。
ピンポーン。
家で曲を作っていた時に突然鳴り響いたインターホン。こんな夜中に鳴るなんて、危ない人か何かなのでは……と警戒してしまう。
「いやでも、うーん……ね、念のため……」
一応、覗き穴から見てみようと近づいた途端、身につけているスマートフォンが振動した。
「ぅわッ!?」
心臓に悪い……と少しぼやきながら画面を開いた。それは自分の知人からの連絡であった。

『突然の訪問ごめんなさい、邨松さん。
本当に急で迷惑だと思うし、嫌なら
断ってもらってもいい。邨松さんの家で
しばらく過ごしてもいいですか』

全ての文章を読み終わる前に玄関のドアを開けていた。自分の頭では理解できないくらいに体が反応して咄嗟に判断をしていた。
「額狩さ、ん」
「……ごめんなさい。本当に……」
彼女は非常に弱っているように見えた。生気の無い目。その下には泣き痕。常に美しく保たれていた服装にはアイロンがけがされていなかった。
「……大丈夫です、大丈夫ですから」
「傍に、いてもいい?」
「もちろんです」
「本当に……?いなくならない……?」
「はい、どこにも行きませんから」
「……」
「……一緒にわたしの家へ帰りましょう。エレクトーンが置いてあるので、少し狭いかもしれませんが……」
「帰る……」
「ええ、一緒にいましょう……」

8/24/2023, 6:32:03 AM

海へ
「ねえみんな、夏休み海行く?」
「おれ行きたーい」
「僕も行きたいなー」
「俺……は行かないかも、です」
「あれ、野上くん泳ぐの苦手?」
「まああの、そもそも外に出たくないっていうか……」
「そっかー……仁くんが行かないなら僕も行かなくていい?コーギー」
「幻灯も行かないの?というかコーギーはやめて」
「仁くんがいなくて悲しいのはもちろん、姉も着いてきそうだしさー……厄介なんだよねー」
「いいと思うけどなあ。僕も弟連れて行こうと思ってるから。あと二人は蛍のこの顔を見ても行かないと言える?」
「ふたりは来ないのか、さみしい」
「うっ……ごめん……」
「汚いぞコーギー!?」
「やめろって言ったよね」
「仁、おれと海行きたくない?」
「そ、そんなことないけど……」
「じゃあ行こう。いっぱい遊びたいし」
「…分かった……行くから、泣かないでほしい……」
「やったー。仁も行くって」
「よしよし、ナイスだよ蛍」
「じゃあ僕も行くかあー」
「やったー幻灯も来てくれるー」
「うん、そろそろ日焼けしたいと思ってきたところだからねー!焼くぞーー」
「それ以上焼いたら魚の皮みたいになるねー食べ頃かな」
「コーギー?それ他の人に言っちゃだめだかんね。絶対」

8/18/2023, 11:36:42 AM


鏡が好きじゃなかった。
博士が作成したクローンは数多くいるが、その中でも異様な顔立ちをしていた。目や鼻などの過不足はないものの、人間を元に見た際口元が特殊らしく、歯というものがなかった。
その代わり、強力な体液により食べ物を溶かすという食材の味が分からないクチだった。
気にしているのを勘付かれたのか、口元を隠す覆面を博士は作ってくれたため、そこに関しては現在大きくは気にしていない。
問題は顔色だった。他に比べて圧倒的に顔色が悪く、不健康的な見た目がどうにも気味が悪く好きになれなかった。皆は気にしなくても問題ないと言ってくれてはいるものの、青白い自らの肌を見てあまり良い気分はしなかった。
ある日、やはり「無感覚」という肩書きから、神経なども抜かれたような見た目にされてしまったのか。考えたくないが、どうしてもそのことが頭によぎって支配をしてくる。
「考え事かい?」
「ああ、慎太郎」
彼の名前は青鷺慎太郎。同僚みたいなものだ。基本的には、礼儀正しく安心感を与えるような声色と話し方。
「やあ神已。下を向いていたら視野が狭くなるよ。そんなのつまんないさ。俺が無理やり上を向かせてあげようか?」
ただしかなりの危険思考。
「お前に頼めば首の骨が心配だ」
「よく気づいたね。それで?悩み事?」
まあ正直こんなことを言うなんて贅沢すぎると思う。しかし無意識に口は動いていた。
「簡単に言えば肌色のことを考えていた。皆とは違うから多少気になってしまって」
「ふーん」
「すまない。ただ……少しだけ他人に共有をしたくて」
そう。それだけなんだ。それだけで十分。このことを自分一人で抱えていないという事実だけで救われる…
「神已のことだから解決しようとも考えてないでしょ?」
危険思考ではあるが、慎太郎について一つは分かっていることがある。
「全く考えていない」
「じゃあ俺から言えるのはこれだけだね。話してくれてありがとう」
彼は温もりがないわけではないことだ。
「こちらこそ。聞いてくれてありがとう」
その日をきっかけに、部屋の鏡を真っ直ぐ見れるようになった……ほんの少しの間。

8/17/2023, 1:51:04 PM

いつまでも捨てられないもの
「柘榴さん、捨てられないものってあります?」
「ねえな。というか捨てたいものばっか」
「えー!?思い出を置いとけないとか、薄情、」
「うぜえよ。過去が全部輝かしいものだと思うなよ馬鹿」
「柘榴さんがそんなに言うなんて……なにがあったんですかー?ほらほらこっそり教えてくださいよ」
「デリカシーって言葉はお前の脳にねえようだな」
「ないですねー!秘密は秘密にしておけないタイプなんで!」
「クズすぎるだろお前。というかどうなんだよ」
「なにがです?」
「話振っておいて忘れんなや。……あれだよ、捨てられないものだっけか」
「あーそうっすね……このリボンは捨てられないですね、どうしても」
「へー。なんか特別なものって感じでもなさそうだけど?」
「奴隷の時代だったとき、輪廻さんがわたしたちを買ってくれたあと、このリボンもプレゼントしてくれたんですよ。絶対捨てられないなあ」
「は、先生からのプレゼント!?ボロボロになろうと使えよてめぇ」
「捨てられないって言ってるじゃないですかー。というかこの身が滅びようとリボンだけは綺麗にさせていただきますよー」
「当たり前だ。お前より先生が選んでくださったモノの方が価値があるに決まってんだろ」
「はいそれ特大ブーメランでーす」
「は?承知の上だが?」
「というか柘榴さんよりわたしの方が輪廻さんと仲良いですしー。プレゼントもらいましたしー」
「ナメんなよ。俺この前先生が微笑みかけてくれたからな」
「うわずるいずるい。ワイロじゃないっすか」
「ちげえよそんな汚い大人じゃねえし」
「いやいや汚れきってます」
「?なにかございましたか。中之条雅さん。黒薙柘榴さん」
「いえ輪廻さん!なんにもございません!!」
「そうですよ先生!僕ら超仲良しです!」
「そうでしたか。何より嬉しいことです」
「……天使ですね」
「いや、神様に決まってる……」
「わたしら何話してましたっけ」
「知らね。ゴミみたいな話じゃね。先生の微笑み見れたし仕事行こうぜ」
「サーイエッサー」

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