君に会いたくて
電車が駅に止まる。
プラットフォームが人で溢れて来る。
人混みの中をかき分け 一つ一つ車両を
目で追い 会いたい 目的の人物を探す。
そうして見つけた。
手を振り 駆け寄る。
「お兄」呼び掛ける。
兄は、呆れた様に私に目を向け
「お前来たのか わざわざ迎えに来なくても 家で待ってれば良かったのに...
寒いだろう」
「いいの だって早くお兄に会いたかった
んだもん!」 私は、そう言ってお兄の
腕に飛び付く
お兄は、苦笑して
「仕方ない奴だなあ」と私を何だかんだ
受け入れる。
二人で歩く家までの道 久しぶりに
帰省する兄の時間を私一人余分に
一人じめ
ブラコンだって周りから言われても
私は兄が大好きです!!。
閉ざされた日記
○月■日
白い薔薇の花を一輪持って 俺は、
今日もお前のお墓に向かう
そうして墓前にお前の髪の色と同じ
白い薔薇を供える。
お前が亡くなって一年が経つ
「やっと見つけたよ お前の日記!」
俺は、古びた表紙の日記帳を
お前の墓前に掲げる。
「勝手に引き出しをこじ開けたのは
悪いとは、思ってる
けどお前だって 俺に黙って隠す
必要ないだろう 厳重に鍵まで
掛けて」
(ったく俺が鍵をこじ開けなかったら
ずっと知らないままだったんだぞ
お前の気持ち知らないまま
一生を終えるなんてその方が
未練が残るだろう....)
心の中でお前に文句を言うのは、
許してくれ だってそうだろう...
【貴方にこんな醜い私 見られたくないから貴方に内緒で日記を書こうと思います
私は生まれつき 人より早く老化する病に
罹っています。
だから黒髪だった期間も短く 今はこんな
白髪だらけ 手も痩せ細り 皺だらけ
こんな私を見たら貴方は幻滅するでしょう
だって貴方の周りには、可愛くて
綺麗な子ばかりだから...
何時だって モテモテで周りの女の子達が
貴方を放って置かなかった。
貴方は、誰にでも優しくて だから
あの時 ふらついてしまった私を見かねて
声を掛けてくれたのは、特別じゃ無いって
分かってる .... でも私は、
あの時から 私は貴方が好き
でも 醜い私に想いを伝える権利なんて
ない だから 友達でも何でも貴方の隣に
居られる事が嬉しかった
貴方は、これからどんな人を好きになるの
かなあ... きっと私より綺麗な子を
好きになるに決まってる
だって貴方は、面食いだから
こんな醜い想い貴方に知られたくないから
だから日記に書いて閉じ込める事しか
できない...
こんな醜い私 貴方は嫌いに決まってるのに....】
「本当 馬鹿な女だなあお前は
病気の事だってちゃんと詳しく言って
くれれば俺だって何か出来る事が
あったかもしれないのに...」
「はあ~」と俺は、溜息を吐く
一人よがりで 思い込みが激しくて
誰にも言わず一人で全部背負い込みやがって....
「俺の返事も聞かず勝手に逝くなよなぁ...」
俺は、頭を押さえ ガジガジと髪の毛を
掻く
「好きでも無い女の墓参りに毎日来るかよ!」
おまけに....「想いの丈 全部日記に綴りやがって 俺に直接言えよ!」
俺は拳で地面を叩く
「引き出しの奥にしまって鍵掛けやがって
取り出すの大変だったんだぞ!」
(全く こんな可愛い事書いて置いて
俺に読ませ無いとか とんでも無い女だなあ... お前は...)
俺は、ニヤリと笑い
「おかげで ますますお前に惚れちまった
じゃねェか もう 俺 お前のせいで
一生 独身だわ 俺モテるのにどうして
くれるんだよ! 罰としてお前の日記帳は
俺が預かる ざまあ見ろ!!」
こうして俺は、あいつの日記帳を持って
踵を返し あいつの墓を後にした。
木枯らし
ピュウッと木枯らしが吹き荒ぶ
「寒い~っ!」と言いながら私達は
体を擦り合わせ 両手を摩る
「早くバス来ないかなあ~」
「遅いねぇ~」
「何かあったのかなあ~」
私達女子三人は、予定時刻より遅れている
バスをバス停で待ちぼうけを食っていた。
制服のスカートから出る素足を
厚手の靴下やタイツで誤魔化し
寒さを凌ぐ女子三人
よくお洒落は我慢とか言うけど...
私は 校則で決まっていなければ
喜んでズボンを履く派だ
現にスカートの長さも私だけ指定の
長さに降ろしていた
それでも スカートの下から入ってくる
風は、堪えるので 厚手のタイツ靴下で
頑張っている。
やはりお洒落をしていなくても
スカートを履いている限り女子は
冬は、我慢の様な気がする....
ああ 男子に生まれたかった。
そんな下らない事を悶々と考えて
寒さを記憶から追い出していると
友達の一人が....
「あっバス来たよ!」
一方向を指 指して言った。
やっと目的のバスが来たらしい...
自動ドアが開き 乗り込む時
運転手さんから
「道を開けて下さい!」と指示があった。
見ると歩行器を引いて歩くおばあさんの姿があった。
傍らには、息子さん いやお孫さんだろうか 二十代位の男性がおばあさんに
寄り添って手を引いて 階段が
あるので まず一旦おばあさんを
手を繋いで降ろしてから
おばあさんが引いていた
歩行器をお孫さんが降ろしていた
次に幼稚園の年中組だろうか
園の遠足でもあったのかなあ....
小さな子供達が ちょこちょこと
小さい歩幅で保育士さんの手を
借りて一人ずつ降りて行く
そうして みんな降り終わった所で...
おばあさんとお孫さん
幼稚園の保育士さん園児達が
一斉に 「ありがとうございました」と
挨拶して去って行き
最後に運転手さんが
「御協力ありがとうございました」と
乗車するお客さん達に声を掛けていた。
私達 三人は、顔を見合わせ
このバスが遅れた理由を察する。
そうして 三人で顔を綻ばせ
バスに乗り込んだ。
そうしてバスは 発車する。
いつの間にか私達三人は、
木枯らしの風の寒さが気にならなく
なっていた。
それどころか胸の中心がぽかぽかと
暖かくなっていた。
美しい
煌びやかな豪奢なシャンデリア
赤く毛足の長い絨毯
色とりどりのドレスで着飾った 御夫人達
そんな風景を見ながら 玉座に座っている
ある一国の王子は、長々と溜息を吐いた。
「王子そんな顔して溜息なんて吐かないで
下さい 周りの人達に聞こえてしまいますよ....」隣に佇む従者が窘める。
「この中から未来の妃候補を選べと
王から直々に命じられて
その通りにしなければならない
私の憂いが分かるか
溜息位吐かせてくれ...」
王子は、広間のパーティーは、
始まったばかりだと言うのにもう
疲れた顔をしていた。
従者は、そんな王子の苦労も直に見て
聞いているので分からなくはないのだが...
しかし此処は公の場しっかりと
王族らしい振る舞いをしてもらわなければ
困る。
「皆様 お待ちですよ 挨拶をして来て
下さい」従者が促すと...
「分かっている...」王子は、最後の溜息を
吐くと玉座の椅子から立ち上がり
皆の元に足を向ける。
それを見て従者は...
(基本的に家の主様は見かけの美しさを
信用してないからなぁ...)と心の中で唱える
まぁそれも無理からぬ事ではあるのだが...
王宮の中は美しさに囲まれている様に
見えて その内部は打算や欲望が
渦巻いている
そんな環境に幼少期から触れている
主様の立場を考えれば見かけの美しさに
猜疑心を抱いても仕方の無い事なのかも
しれない....
しかしそれでも従者は、密かに願うのだ
いつかそんな頑なな わが主様の心を
溶かし救ってくれる御夫人が現れる事を...
そう想っているからこそ
主様の憂鬱を知りながら
積極的に王に取り付け
この妃候補のパーティーを企画したのだ
願わくば我が主様に素敵な出会いが
ありますように...
そう従者は心の中で真剣に祈りを
捧げた。.....
この世界は
この世界は美しい そうやって持て囃されてる僕達の世界
だけど完璧な美しさを保つには、
欠けた物を覆い尽くす必要があって
見えなくする必要があって...
僕達は、その見えない部分の住人で...
暗い 暗い 闇の中 食べる物も
寝る所も 雨露を凌ぐ庇も無くて...
それでも必死に生きるのは....
死にたく無いから....
それもある
しかし一番の理由は、きっと
諦めているから...
この世界の美しさに敗北を感じているから
たとえ僕達が死んでも
誰にも見向きもされないから....
明るい世界に行けるのは
一握りの選ばれた人間だけ...
それを知っているから....
今日も僕達は、ゴミを漁り
それを売ってお金に変え
一つのパンを分け合って食べる。
お互いを明るく照らす灯りにして....
この世界の最上階の暮らしを夢想し
おかずにして
恨み言も憎しみも枯れ果てて
僕達は僕達の世界を受け入れ
あるがままに生きて行く
最上位の者に笑われ蔑ずまれても
これが僕達の生き方
格好悪くても はしたなくても
人は与えられた環境の中で生きて行くしかない
幸か不幸か
貧しさ富かは別にして
人は、生まれた時から平等ではない
理不尽に虐げられる人も
お金があっても満たされず空虚さを
抱える人もいる。
どういう環境が幸せか
なにがあれば幸せだなんて一概には言えない
この世界には、戦争をしている世界も
富や名声を築く世界もある
戦争をしている世界は必死に逃げ
家族や 友達 恋人あらゆる大切な人と
一緒に居られる事に感謝し
戦争の終わりを祈るだろう...
富や名声を築いて居る世界は
豊かな食物 豊富な物資に囲まれ
贅を尽くして幸せを享受している
しかしいつしか本当に心の底から
欲しい物 叶えたい事を
失している。
この世界の表と裏
光と闇
幸と不幸
貧しさと富
上と下
皆が皆 平等に幸せになれる世界は
理想だし 目指すべき目標なのだろう...
でも人と人が一緒に住み
言葉を交わしあえば 衝突を生み
喧嘩を生むだろう
だけど 人と人が一緒に住む事で
寂しさを埋め合ったり
優しさを分け合ったり出来る。
世界の表と裏
それと上手に付き合うのは
難しい事なのかもしれない
だけどその世界に住む人達の絶望や希望
いろんな事がある中で
少しでも 些細なプラスを見つけて
ポジティブに受け取れれば
きっと絶望も希望になれるはず
そういう世界が一つずつ増えれば
良いと僕は思う
そう思い 僕達は 暗い 暗い
絶望の中のこの世界で
死にたくない想いと 少しの諦めを
抱えながら
今日も僕達の世界を生きて行く。