G14(3日に一度更新)

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12/9/2024, 1:35:21 PM

 今日はクリスマスの夜。
 世界中の子供たちが、ずっと待ちわびた日。
 サンタクロースは子供たちにプレゼントを届けるべく、トナカイを駆って世界中を飛び回っていました。

 そして中盤に差し掛かったころ、とある子供の家にやってきました。
 子供の名前はジョン。
 年相応にやんちゃですが、近所でも評判のいい子です。

「ホッホッホッ。
 ジョンよ、いい子にしていたかい?」
「もちろんだよ!」
「なら良かった。
 じゃあ、プレゼントをあげよう!」

 サンタはそう言うと、大きな袋の中からプレゼントを取り出しました。
 ジョンがとても欲しかったもの、switch2です。
 ゲームが大好きなジョンは、どうしても欲しかったものです。
 まだ発売していませんが、ジョンのために特別に用意したプレゼントです。

「ほら、受け取りなさい」
「わーい」
 ジョンはとても喜びました。
 ジョンは喜びのあまり、サンタに抱き着きます。
 
「サンタさん、大好き!」
「ホッホッホッ。
 喜んでくれて何よりじゃ」
「プレゼント、ありがとう。



 ……でもごめんね」

 なんということでしょう。
 どこに持っていたのか、ジョンの手にはハサミが握られていました。
 そのハサミを、ジョンは笑顔のままサンタの首筋に突き刺そうとします。
 しかしハサミは、サンタの首に届きません。
 サンタが、いつの間にかハサミを奪い取っていたからです。

「まさか、止めれられるなんて!」
 ジョンは驚きのあまり、サンタから体を離しました。
 一方サンタはというと、殺されそうになったのに変わらず優しい笑顔です。
 ジョンはサンタの様子に戦慄を覚えました。

「ホッホッホッ。
 ジョンよ、残念じゃったの」
 サンタは奪い取ったハサミを、近くの机に置きます。
 その様子は、つい先ほど殺されそうになった事なんて、少しも感じさせませんでした。

「ジョンよ。
 儂を襲ってプレゼントを奪おうとしたな?
 欲しいのはPS5pro辺りかの?
 しかし残念じゃったな。
 こういった事は慣れっこなのじゃよ」

 サンタは、おかしそうにポンポンと袋を叩きます。
 しかしジョンは恐怖のあまりぶるぶると震えてました。
 サンタにどんな仕返しをされるか分からなかったからです。

「ホッホッホッ。
 ジョンよ、そう怖がるんじゃない。
 儂は何もせんよ」
「でもアナタを殺そうとして……」
「ホッホッホッ。
 慣れっこと言ったじゃろう?
 この程度、トラブルのウチにも入らん」

 そう言うと、サンタは大きな袋を担ぎました。
 サンタは帰り支度を始めたのです
 言葉通り、ジョンに危害を加えるつもりはないようです。

 そんなサンタを見て、ジョンはモヤモヤした思いを抱えました。
 仕返しがなくホッとしたもの確かです。
 しかし、それ以上に言うべきがあるのではないかと思ったのです。
 ジョンが悩んでいる間も、サンタは部屋から出て行こうとします。

「待って!」
 ジョンはサンタを呼びとめます。
 しかし何を言うべきか、まだ思いつきません。
 それでも、このまま帰してはいけないという思いがジョンを突き動かしました。
 
 その気持ちを汲んでか、サンタはなにも言いません。
 そうして両者の間に沈黙が流れます。

 一分ほど経ったでしょうか?
 ジョンは悩み抜いた末、自分の気持ちを正直に言うことにしました。

「サンタさん」
「何かな?」
「プレゼントありがとう」
「うむ」
「でも乱暴しようとしてごめんね」
「ホッホッホッ。
 気にしておらんぞ。
 それに自分の間違いを認めて謝れるのはいい子じゃ。
 来年もいい子でいるんじゃぞ」

 ジョンは、サンタの言葉を聞いて笑顔になりました。
 サンタも一緒に笑顔になります。
 そしてサンタは、ジョンの頭を撫でながら言いました

「来年も良い子でいるんじゃぞ、ジョン。
 メリークリスマス!」

12/9/2024, 12:56:38 AM

 ボクの名前はミケ。
 ボクはかつては安住の家もなく、ただ死を待つだけの弱い猫だった。
 けれどある日、ご主人に拾ってもらい、僕は名前と家を手に入れた。
 美味しいごはんと暖かい寝床ももらい、今では何不自由ない暮らしを送っている。
 ご主人には感謝してもしきれない。

 そんな僕のお気に入りの場所は、ご主人の部屋の片隅に置いてあるタンスの上。
 ご主人の顔がよく良く見える、お気に入りの場所だ。

 ご主人の部屋に悪い奴が来ないよう、今日も


 ◇

 今日もタンスの上で寝ていると、部屋に近づいて来る足音が聞こえてきた。
 ご主人が学校から帰って来たのかな?
 ボクは身を起こして耳を澄ませる。

 けれど、どうにも様子が違う。
 この乱暴な足音。
 これはご主人ではない!
 ご主人の友人、ユリコの足音だ!

「沙都子、遊びに来たよ!」
 ユリコは不躾にドアを開けて、部屋に入る。
 この女はユリコ、ご主人と仲がいいらしく、毎日遊びに来る。
 けれどボクは百合子のことが嫌いだった。
 うるさいし、なによりボクとご主人の時間を邪魔するからだ。
 早く帰って欲しい。

「あれー、沙都子まだ帰って来てないの?
 早く来過ぎちゃったか……」
 部屋を見渡しながら、がっかりしたような声を出す彼女。
 ユリコの言う通り、ご主人はまだ帰って来てない。

 コイツの事は嫌いだが、同情だけはしてやる。
 ボクも、部屋にご主人がいなかったらがっかりするもの。
 邪魔だから帰って欲しいのは変わらないけど。

「仕方ない。
 もう少し、待つか」
 そう言って、ユリコは定位置に行こうとして――

 僕を見た

「あ、ミケがいるじゃん。
 沙都子が来るまで遊んであげる」

 なんてこった
、気付かれてしまった。
 ユリコはやる気満々で、おもちゃの準備をする。
 けどボクは遊ぶ気はない。

 そんな気分でもないし、ユリコは嫌いだし、なによりも雑だし……
 ユリコはすぐ飽きるのだ。
 中途半端なので、いつも消化不良になってしまう。
 そうなるくらいなら遊ばない方がマシ!
 ご主人が帰ってくるまで、ボクは寝ることにした

「狸寝入りしやがった
 猫の癖に」
 なんとでも言え。
 ボクは遊ばない。

「ほら、遊ぼうよ」
 閉じた瞼の向こうで、おもちゃが揺らめく気配がする
 少し気になるが、僕は遊ばない
 遊ばないぞ
 あそば、ないぞ……

「ニャ!」
 ボクは目をカッと見開き、目の前の羽のおもちゃを捕まえる。
 やったぜ!


 あ、やってしまった。
 遊ばないって決めてたのに……

 意地悪いユリコの事だ。
 きっと意地悪い顔して、ボクを見て……
 ……こいつ、寝てやがる。

 なんて忍耐の無い奴だ。
 遊ぶって言ったくせに、遊ぶ前に飽きてやがる。
 ユリコはコレだから嫌いだ。

 まあいいや。
 ユリコが寝てるならそれに越したことはない。
 僕も二度寝するとしよう。

 と、そこでボクはあることに気づいた。
 うつぶせで寝ているユリコの背中。
 なんだろう、ものすごく『そそられる』。

 こんな気持ち、初めてだ。
 一体あの背中には何があるのだろう……

 ――確かめよう!
 ボクはユリコを起こさないよう、ゆっくりと百合子の背中へと移動するのだった


 ◇

 寝ていると、誰かが部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。
 この優雅な足音は……
 ご主人だ!
 僕は身を起こすと同時に、部屋のドアが開く。

「ただいま、ミケ。
 ごめんね、今日は日直で遅れて――

 あなたたち何してるの?」

 ご主人がボクを見て、困惑したような表情になる
 何かしたっけな?
 ボクが悩んでいると、寝床がもぞもぞと動いた。

「沙都子、やっと帰って来た。
 ミケをどかしてよ。
 背中にいて身動き取れない」

 ああ、そうだった。
 ユリコを寝床にしたんだった。
 背中で寝転ぶと、いい感じに体がフィットしたんだよね。

「ミケ、百合子がこう言ってるけどどうする?」
 決まってる。
 このまま寝る。
 こんな気持ちのいい寝床を手放せるはずがない!
 ボクは、ご主人の前で横になる。

「どかないって言ってるわ。
 百合子、そのままベットになってなさい」
「そんなあ」
 ユリコは不服なのか、身をくねらせる。
 そのうねりが不快だったので、ボクはユリコの頭をかるく殴る。
 そのうねり具合が寝るのにちょうどよくって、ボクはそのまま夢の世界へ旅立つのだった

12/6/2024, 3:59:52 PM

 俺は悶々と眠れない夜を過ごしていた。
 目を開けて月明かりに照らされた時計を見れば、もう深夜の3時。
 日付が変わる前に布団に入ったというのに、俺は一睡もできていない。

 俺は寝付がいい。
 子供の時の遠足の前も、興奮してもすぐに寝ることが出来た。
 けれど今日だけは全く眠くなる事は無かった
 寝付きのいい俺が眠れない理由は分かっている。
 隣で寝ている幼馴染の存在であろう。

 幼馴染とは、家族の様に育った。
 でも幼馴染の親の仕事の都合で突然の引っ越し。
 それ以来会えなかったのだけど、今日仕事帰りににバッタリ再会。
 そのまま家に招待し、その場の流れで泊めることになった。
 それは別にいい。

 久しぶりの再会だ。
 話したいことがたくさんあるし、夜通し語り合いたいくらいだ。
 泊まるくらい何も問題ない。

 問題なのは、その幼馴染が異性――女性であることである。
 たしかに確かに子供の頃、幼馴染の順子とはよくお泊り会をした。
 でも互いにいい大人、子供の頃のようにはいかない……

 だというのに、俺たちは今一緒の布団で寝ている。
 ウチには来客用の布団なんて無い。
 だから最初は『布団は順子が使って、俺が床で寝る』と提案した。
 時代遅れかも知れないが、女性を床で寝かせるわけにはいかない。
 それに今日だけだしと、床で寝る覚悟をした

 だが、順子が猛抗議。
 『部屋の主を差し置いて布団では寝れない、私が床で寝る』と駄々をこねたのだ。
 なにかと他人に気を遣う順子らしい事である。

 だからと言って、俺は順子の案を飲むわけにはいかない
 『客を床で寝かせるわけにはいかない』と拒否。

 お互いの意見は真っ向対立し、夜も遅いというのに熱い議論が交わされた。
 その結果、折衷案で俺と順子は一緒に寝ることになった。


 どうしてこうなった……
 
 お互いの意見が尊重されていると言えば聞こえがいいが、ある意味で最悪の結果である。
 普通、恋人でもない男女は一緒の布団で寝ないんだ……
 許されるのは小学生までである。

 というか順子は、警戒心が無いのか?
 恋人がいるかは知らないが、間違いがあったらどうするつもりなんだ?
 信頼されているのか、男と見られて無いのか……
 悩ましい問題だが、本人に聞くわけにもいかない。


 順子はまるで我が家の様に、安心して眠っているようだった。
 俺は眠れないほど緊張しているって言うのに……
 もしかしたら本当に男として見てない……?

 そう考えると、なんだか馬鹿らしくなってきたぞ
 俺がこんなに悩んでいるって言うのに、順子は俺の事を何とも思っていない
 せいぜいが『信頼できるお兄ちゃん』なのだろう……

 これでは気にしている俺がバカみたいじゃないか。
 もう考えるのは良そう。
 はあ、気にしすぎて損した。
 こういうクサクサした気分の時は寝てるに限るな。
 はお、おやすみなさ――

「うーん」
 順子が、悩まし気な寝言を言いながらゆっくりと寝返りを打つ。
 その瞬間、俺の心臓は跳ね上がり、微かに会った眠気が吹き飛んでいく。

 うん、俺がどれだけ理屈をこね繰り回しても、年頃の女性が隣で寝ている事実には変わりないわけで……
 女性の免疫がない俺は、一睡も出来ないまま朝を迎えるのであった

12/5/2024, 1:39:00 PM

 世界では今、エネルギー不足が叫ばれております。
 今のエネルギー供給の主力は火力発電ですが、環境への負荷が問題ですね。

 その問題を解決すべく、原子力発電が注目されていますのはご存じの通りです。
 原子力発電は、火力発電と違って環境負荷が少ない!
 CO2削減、安定した大量のエネルギーの供給……
 様々なメリットがあります。

 その一方で、デメリットも無視できません。
 核廃棄物や作業員の健康被害。
 福島の事も無かった事には出来ません……

 あちらを立てればこちらが立たず。
 人類の未来を憂う皆様方も、夢と現実のギャップで苦しんでおられることでしょう……

 ですがご安心を!
 そんな皆様何に、全ての問題を解決する革新的なアイディアを用意しました。
 
 それは人間が、夢が破れたて絶望する時に発生する負のエネルギーを活用するといものです。
 意味が分からない?
 これから説明いたします

 まず、人というものは、夢を見なくては生きてはいけません。
 いえ、物理的には存在できますが、死んでいるとの同じ意味という事です。
 お聞きになっている皆様も、夢に溢れた若い頃は世界が輝いていた事でしょう。
 夢を見ることで、人間は人生を楽しく過ごすことが出来るのです。

 しかし、いい事ばかりでもありません。
 それは夢を叶えるのはほんの一握りということ……
 大多数が夢破れるのです……

 それは不幸な事で『こんな思いをするならば、夢なんて見たくなかった』と思う人もいるでしょう……
 そしてそんな思いを抱えながら、みじめな人生を送る人たちも少なくありません。
 そして夢と現実の差が大きいほど、絶望の度合いも大きくなります。

 そして私は見つけました。
 人間が絶望する時に、ある種のエネルギーが発生することを……

 そうです。
 私が提案するのは、『人を絶望させることで、エネルギーを得る』というものです。
 これならば環境負荷をゼロにすることが出来ます

 さらに!
 実験の結果、若い人ほど大きなエネルギーを発生させることが分かりました。
 よって、若者を計画的に絶望させることで、安定したエネルギーを得ようというのが私の提案です。

 心が痛むかもしれませんが問題ありません。
 エネルギー問題で一番困るのは未来の若者です
 幸福な未来を送るために、若者が人柱になるのは非常に理に適った方法。
 これで、若者には輝ける未来が到来します!
 ここに試作品があるのですが――

 え!?
 『お前、人の心無いのか』、『絶望前提で夢を見させるなんて、残酷すぎる!』ですって!?

 なんてこと言うんだ!
 人類のエネルギーの問題は、早急に解決すべき重大な問題!
 ずべこべ言っている場合では――

 なに?
 『ガキは帰って寝てろ』だって!?
 若いからって、バカにしやがって!

 今解決しないと、それこそ若者に、私たちは夢が見られないんだ。
 そのために多少の犠牲はやむを得ないだよ!

 くそ!
 凡人どもめ!
 なぜ理解できない。
 この崇高な発明が!

 『可哀そう』なんて何の意味がある!
 犠牲失くして問題が解決できるものか!

 くそ、このままじゃ、バカたちのせいで何もできやしない!
 私はこの発明で世界を救うのだ!
 なのに誰一人として救えないではないか!
 このままでは、私の夢が叶わなく――

 ん?
 試作機が動作を……?
 どんどんエネルギーを吸収して……

 ……
 …………

 えー、みなさん。
 お知らせがあります。

 えー、私が絶望した結果、莫大なエネルギーが溜まりました。
 エネルギー問題は解決しました。
 私、思っていたより若かったようです。
 ご清聴ありがとうございました。


 世界を救った、五歳の天才科学者の演説より。

12/4/2024, 1:28:33 PM

 今日、久しぶりに幼馴染の順子と再会した。
 仕事帰りに弁当を買おうとコンビニに寄ったら、バッタリ出くわしたのだ。
 順子は子供の頃、『お兄ちゃん、待って』と俺の後ろを付いてきた
 俺もそんな順子の事を、妹の様に可愛がっていた。

 けれど、別れの日は突然だった
 親の仕事の都合で、順子が引っ越してしまったのだ。
 それ以来二度と会うこともなく、俺の中の順子は子供の頃のままだった。

 ところがだ。
 会えないと思っていた順子に、コンビニでバッタリ出逢ったのである
 いったいどんな奇跡だろうか?
 神様の気まぐれはいつも唐突すぎて、本当に心臓に悪い

 けれど久しぶりに会った幼馴染は、思い出の中の彼女と随分と変わっていた。
 そりゃそうだ。
 最期に会ってから10年以上経って、お互いいい大人。
 変わらない方がおかしい。

 だけど不思議なもので、最初こそぎこちなかったけど、すぐに打ち解けることが出来た。
 それから彼女と近況を話し、楽しくおしゃべりした。
 幸せな時間だった。
 けれど楽しい時間はあっという間に過ぎる。
 順子がしきりに時間を気にし始め、タイムリミットが迫っていることを知った。

「そろそろ帰らないと、終電に遅れちゃう」
 悲痛な表情で、俺に告げる順子。
 俺は別れたくない気持ちが高ぶり、『もっと話したい』と喉まで出かかる。

 けれど俺と順子は社会人。
 明日も仕事があるのだ。
 これ以上は引き留めることが出来ない。

 それに会えなくなるわけじゃない。
 会いたければまた会えばいい。
 子供の様に、親の許可は必要ない。
 それが大人だ。

 けれどどうしようもなく、俺は別れを告げるのが辛かった。
 『さよなら』
 たった四文字を言うだけなのに、とても胸が苦しくなる。
 離れ離れになった時の思い出がトラウマになって、別れの挨拶は苦手なのだ。
 女々しいと思いつつも、こればかりはどうしようもない。
 きっとこれからも苦しめられるのだろう。

 俺は切り出せずに口ごもっていると、順子は俺の唇に人差し指を当てた。
「さよならは言わないで」
 寂しそうに順子は呟く。
 順子も、俺と同じ気持ちなのだろうか……
 そう思うと、俺の気持ちも少しだけ救われた気持ちになる。

 だが別れの言葉は言わなければいけない。
 たとえ明日また会おうとも、別れの言葉は必要なのだ。

 俺は覚悟を決め、顔を上げて――
 と思ったら順子がにんまりと笑っていた。

 これは……
 小さい頃の順子がイタズラを思いついた時の顔……
 いったいどんなイタズラをされるのか。
 ビクビクしながら、順子の言葉を待つ。

「今日、お兄ちゃんの部屋に泊まるね」

 ……
 …………はい?

「もうさ、駅まで行く気力ないんだよね。
 ということで泊めて?」
「待て、仕事はどうするんだ?」
「体調不良って事にして有休とるよ。
 全然使ってないから余っているんだよね」
「そうか」
「お兄ちゃんも明日休みなよ。
 お兄ちゃんも有休余ってるって言ってたじゃん?
 それで、またお喋りしよ?」

 悪魔のような提案をしてくる順子。
 仕事の納期とか、迷惑が掛かるとか、いろんな事が頭を駆け巡る。
 順子と仕事。
 どっちを取るか、少し悩んで答えを出す

「分かった」
 どうせ仕事は俺一人くらいいなくても回る。
 なら一日くらいずる休みをしてもいいだろう。

「やったあ」
 俺の答えに満足したのか、順子は嬉しそうにはしゃぐ。
 『気力は無いはずでは?』とは言わない。
 あまりにも無粋だし、それに俺自身が順子と一緒に入れることが嬉しいからだ。

 これで俺と順子の別れは少し先になった。
 別れまでほんの少し猶予が出来たことが嬉しくて、俺は小さくガッツポーズをしたのであつた

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