ボクの名前はミケ。
ボクはかつては安住の家もなく、ただ死を待つだけの弱い猫だった。
けれどある日、ご主人に拾ってもらい、僕は名前と家を手に入れた。
美味しいごはんと暖かい寝床ももらい、今では何不自由ない暮らしを送っている。
ご主人には感謝してもしきれない。
そんな僕のお気に入りの場所は、ご主人の部屋の片隅に置いてあるタンスの上。
ご主人の顔がよく良く見える、お気に入りの場所だ。
ご主人の部屋に悪い奴が来ないよう、今日も
◇
今日もタンスの上で寝ていると、部屋に近づいて来る足音が聞こえてきた。
ご主人が学校から帰って来たのかな?
ボクは身を起こして耳を澄ませる。
けれど、どうにも様子が違う。
この乱暴な足音。
これはご主人ではない!
ご主人の友人、ユリコの足音だ!
「沙都子、遊びに来たよ!」
ユリコは不躾にドアを開けて、部屋に入る。
この女はユリコ、ご主人と仲がいいらしく、毎日遊びに来る。
けれどボクは百合子のことが嫌いだった。
うるさいし、なによりボクとご主人の時間を邪魔するからだ。
早く帰って欲しい。
「あれー、沙都子まだ帰って来てないの?
早く来過ぎちゃったか……」
部屋を見渡しながら、がっかりしたような声を出す彼女。
ユリコの言う通り、ご主人はまだ帰って来てない。
コイツの事は嫌いだが、同情だけはしてやる。
ボクも、部屋にご主人がいなかったらがっかりするもの。
邪魔だから帰って欲しいのは変わらないけど。
「仕方ない。
もう少し、待つか」
そう言って、ユリコは定位置に行こうとして――
僕を見た
「あ、ミケがいるじゃん。
沙都子が来るまで遊んであげる」
なんてこった
、気付かれてしまった。
ユリコはやる気満々で、おもちゃの準備をする。
けどボクは遊ぶ気はない。
そんな気分でもないし、ユリコは嫌いだし、なによりも雑だし……
ユリコはすぐ飽きるのだ。
中途半端なので、いつも消化不良になってしまう。
そうなるくらいなら遊ばない方がマシ!
ご主人が帰ってくるまで、ボクは寝ることにした
「狸寝入りしやがった
猫の癖に」
なんとでも言え。
ボクは遊ばない。
「ほら、遊ぼうよ」
閉じた瞼の向こうで、おもちゃが揺らめく気配がする
少し気になるが、僕は遊ばない
遊ばないぞ
あそば、ないぞ……
「ニャ!」
ボクは目をカッと見開き、目の前の羽のおもちゃを捕まえる。
やったぜ!
あ、やってしまった。
遊ばないって決めてたのに……
意地悪いユリコの事だ。
きっと意地悪い顔して、ボクを見て……
……こいつ、寝てやがる。
なんて忍耐の無い奴だ。
遊ぶって言ったくせに、遊ぶ前に飽きてやがる。
ユリコはコレだから嫌いだ。
まあいいや。
ユリコが寝てるならそれに越したことはない。
僕も二度寝するとしよう。
と、そこでボクはあることに気づいた。
うつぶせで寝ているユリコの背中。
なんだろう、ものすごく『そそられる』。
こんな気持ち、初めてだ。
一体あの背中には何があるのだろう……
――確かめよう!
ボクはユリコを起こさないよう、ゆっくりと百合子の背中へと移動するのだった
◇
寝ていると、誰かが部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。
この優雅な足音は……
ご主人だ!
僕は身を起こすと同時に、部屋のドアが開く。
「ただいま、ミケ。
ごめんね、今日は日直で遅れて――
あなたたち何してるの?」
ご主人がボクを見て、困惑したような表情になる
何かしたっけな?
ボクが悩んでいると、寝床がもぞもぞと動いた。
「沙都子、やっと帰って来た。
ミケをどかしてよ。
背中にいて身動き取れない」
ああ、そうだった。
ユリコを寝床にしたんだった。
背中で寝転ぶと、いい感じに体がフィットしたんだよね。
「ミケ、百合子がこう言ってるけどどうする?」
決まってる。
このまま寝る。
こんな気持ちのいい寝床を手放せるはずがない!
ボクは、ご主人の前で横になる。
「どかないって言ってるわ。
百合子、そのままベットになってなさい」
「そんなあ」
ユリコは不服なのか、身をくねらせる。
そのうねりが不快だったので、ボクはユリコの頭をかるく殴る。
そのうねり具合が寝るのにちょうどよくって、ボクはそのまま夢の世界へ旅立つのだった
12/9/2024, 12:56:38 AM