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 今日、久しぶりに幼馴染の順子と再会した。
 仕事帰りに弁当を買おうとコンビニに寄ったら、バッタリ出くわしたのだ。
 順子は子供の頃、『お兄ちゃん、待って』と俺の後ろを付いてきた
 俺もそんな順子の事を、妹の様に可愛がっていた。

 けれど、別れの日は突然だった
 親の仕事の都合で、順子が引っ越してしまったのだ。
 それ以来二度と会うこともなく、俺の中の順子は子供の頃のままだった。

 ところがだ。
 会えないと思っていた順子に、コンビニでバッタリ出逢ったのである
 いったいどんな奇跡だろうか?
 神様の気まぐれはいつも唐突すぎて、本当に心臓に悪い

 けれど久しぶりに会った幼馴染は、思い出の中の彼女と随分と変わっていた。
 そりゃそうだ。
 最期に会ってから10年以上経って、お互いいい大人。
 変わらない方がおかしい。

 だけど不思議なもので、最初こそぎこちなかったけど、すぐに打ち解けることが出来た。
 それから彼女と近況を話し、楽しくおしゃべりした。
 幸せな時間だった。
 けれど楽しい時間はあっという間に過ぎる。
 順子がしきりに時間を気にし始め、タイムリミットが迫っていることを知った。

「そろそろ帰らないと、終電に遅れちゃう」
 悲痛な表情で、俺に告げる順子。
 俺は別れたくない気持ちが高ぶり、『もっと話したい』と喉まで出かかる。

 けれど俺と順子は社会人。
 明日も仕事があるのだ。
 これ以上は引き留めることが出来ない。

 それに会えなくなるわけじゃない。
 会いたければまた会えばいい。
 子供の様に、親の許可は必要ない。
 それが大人だ。

 けれどどうしようもなく、俺は別れを告げるのが辛かった。
 『さよなら』
 たった四文字を言うだけなのに、とても胸が苦しくなる。
 離れ離れになった時の思い出がトラウマになって、別れの挨拶は苦手なのだ。
 女々しいと思いつつも、こればかりはどうしようもない。
 きっとこれからも苦しめられるのだろう。

 俺は切り出せずに口ごもっていると、順子は俺の唇に人差し指を当てた。
「さよならは言わないで」
 寂しそうに順子は呟く。
 順子も、俺と同じ気持ちなのだろうか……
 そう思うと、俺の気持ちも少しだけ救われた気持ちになる。

 だが別れの言葉は言わなければいけない。
 たとえ明日また会おうとも、別れの言葉は必要なのだ。

 俺は覚悟を決め、顔を上げて――
 と思ったら順子がにんまりと笑っていた。

 これは……
 小さい頃の順子がイタズラを思いついた時の顔……
 いったいどんなイタズラをされるのか。
 ビクビクしながら、順子の言葉を待つ。

「今日、お兄ちゃんの部屋に泊まるね」

 ……
 …………はい?

「もうさ、駅まで行く気力ないんだよね。
 ということで泊めて?」
「待て、仕事はどうするんだ?」
「体調不良って事にして有休とるよ。
 全然使ってないから余っているんだよね」
「そうか」
「お兄ちゃんも明日休みなよ。
 お兄ちゃんも有休余ってるって言ってたじゃん?
 それで、またお喋りしよ?」

 悪魔のような提案をしてくる順子。
 仕事の納期とか、迷惑が掛かるとか、いろんな事が頭を駆け巡る。
 順子と仕事。
 どっちを取るか、少し悩んで答えを出す

「分かった」
 どうせ仕事は俺一人くらいいなくても回る。
 なら一日くらいずる休みをしてもいいだろう。

「やったあ」
 俺の答えに満足したのか、順子は嬉しそうにはしゃぐ。
 『気力は無いはずでは?』とは言わない。
 あまりにも無粋だし、それに俺自身が順子と一緒に入れることが嬉しいからだ。

 これで俺と順子の別れは少し先になった。
 別れまでほんの少し猶予が出来たことが嬉しくて、俺は小さくガッツポーズをしたのであつた

12/4/2024, 1:28:33 PM