G14

Open App

 俺は悶々と眠れない夜を過ごしていた。
 目を開けて月明かりに照らされた時計を見れば、もう深夜の3時。
 日付が変わる前に布団に入ったというのに、俺は一睡もできていない。

 俺は寝付がいい。
 子供の時の遠足の前も、興奮してもすぐに寝ることが出来た。
 けれど今日だけは全く眠くなる事は無かった
 寝付きのいい俺が眠れない理由は分かっている。
 隣で寝ている幼馴染の存在であろう。

 幼馴染とは、家族の様に育った。
 でも幼馴染の親の仕事の都合で突然の引っ越し。
 それ以来会えなかったのだけど、今日仕事帰りににバッタリ再会。
 そのまま家に招待し、その場の流れで泊めることになった。
 それは別にいい。

 久しぶりの再会だ。
 話したいことがたくさんあるし、夜通し語り合いたいくらいだ。
 泊まるくらい何も問題ない。

 問題なのは、その幼馴染が異性――女性であることである。
 たしかに確かに子供の頃、幼馴染の順子とはよくお泊り会をした。
 でも互いにいい大人、子供の頃のようにはいかない……

 だというのに、俺たちは今一緒の布団で寝ている。
 ウチには来客用の布団なんて無い。
 だから最初は『布団は順子が使って、俺が床で寝る』と提案した。
 時代遅れかも知れないが、女性を床で寝かせるわけにはいかない。
 それに今日だけだしと、床で寝る覚悟をした

 だが、順子が猛抗議。
 『部屋の主を差し置いて布団では寝れない、私が床で寝る』と駄々をこねたのだ。
 なにかと他人に気を遣う順子らしい事である。

 だからと言って、俺は順子の案を飲むわけにはいかない
 『客を床で寝かせるわけにはいかない』と拒否。

 お互いの意見は真っ向対立し、夜も遅いというのに熱い議論が交わされた。
 その結果、折衷案で俺と順子は一緒に寝ることになった。


 どうしてこうなった……
 
 お互いの意見が尊重されていると言えば聞こえがいいが、ある意味で最悪の結果である。
 普通、恋人でもない男女は一緒の布団で寝ないんだ……
 許されるのは小学生までである。

 というか順子は、警戒心が無いのか?
 恋人がいるかは知らないが、間違いがあったらどうするつもりなんだ?
 信頼されているのか、男と見られて無いのか……
 悩ましい問題だが、本人に聞くわけにもいかない。


 順子はまるで我が家の様に、安心して眠っているようだった。
 俺は眠れないほど緊張しているって言うのに……
 もしかしたら本当に男として見てない……?

 そう考えると、なんだか馬鹿らしくなってきたぞ
 俺がこんなに悩んでいるって言うのに、順子は俺の事を何とも思っていない
 せいぜいが『信頼できるお兄ちゃん』なのだろう……

 これでは気にしている俺がバカみたいじゃないか。
 もう考えるのは良そう。
 はあ、気にしすぎて損した。
 こういうクサクサした気分の時は寝てるに限るな。
 はお、おやすみなさ――

「うーん」
 順子が、悩まし気な寝言を言いながらゆっくりと寝返りを打つ。
 その瞬間、俺の心臓は跳ね上がり、微かに会った眠気が吹き飛んでいく。

 うん、俺がどれだけ理屈をこね繰り回しても、年頃の女性が隣で寝ている事実には変わりないわけで……
 女性の免疫がない俺は、一睡も出来ないまま朝を迎えるのであった

12/6/2024, 3:59:52 PM