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12/5/2024, 1:39:00 PM

 世界では今、エネルギー不足が叫ばれております。
 今のエネルギー供給の主力は火力発電ですが、環境への負荷が問題ですね。

 その問題を解決すべく、原子力発電が注目されていますのはご存じの通りです。
 原子力発電は、火力発電と違って環境負荷が少ない!
 CO2削減、安定した大量のエネルギーの供給……
 様々なメリットがあります。

 その一方で、デメリットも無視できません。
 核廃棄物や作業員の健康被害。
 福島の事も無かった事には出来ません……

 あちらを立てればこちらが立たず。
 人類の未来を憂う皆様方も、夢と現実のギャップで苦しんでおられることでしょう……

 ですがご安心を!
 そんな皆様何に、全ての問題を解決する革新的なアイディアを用意しました。
 
 それは人間が、夢が破れたて絶望する時に発生する負のエネルギーを活用するといものです。
 意味が分からない?
 これから説明いたします

 まず、人というものは、夢を見なくては生きてはいけません。
 いえ、物理的には存在できますが、死んでいるとの同じ意味という事です。
 お聞きになっている皆様も、夢に溢れた若い頃は世界が輝いていた事でしょう。
 夢を見ることで、人間は人生を楽しく過ごすことが出来るのです。

 しかし、いい事ばかりでもありません。
 それは夢を叶えるのはほんの一握りということ……
 大多数が夢破れるのです……

 それは不幸な事で『こんな思いをするならば、夢なんて見たくなかった』と思う人もいるでしょう……
 そしてそんな思いを抱えながら、みじめな人生を送る人たちも少なくありません。
 そして夢と現実の差が大きいほど、絶望の度合いも大きくなります。

 そして私は見つけました。
 人間が絶望する時に、ある種のエネルギーが発生することを……

 そうです。
 私が提案するのは、『人を絶望させることで、エネルギーを得る』というものです。
 これならば環境負荷をゼロにすることが出来ます

 さらに!
 実験の結果、若い人ほど大きなエネルギーを発生させることが分かりました。
 よって、若者を計画的に絶望させることで、安定したエネルギーを得ようというのが私の提案です。

 心が痛むかもしれませんが問題ありません。
 エネルギー問題で一番困るのは未来の若者です
 幸福な未来を送るために、若者が人柱になるのは非常に理に適った方法。
 これで、若者には輝ける未来が到来します!
 ここに試作品があるのですが――

 え!?
 『お前、人の心無いのか』、『絶望前提で夢を見させるなんて、残酷すぎる!』ですって!?

 なんてこと言うんだ!
 人類のエネルギーの問題は、早急に解決すべき重大な問題!
 ずべこべ言っている場合では――

 なに?
 『ガキは帰って寝てろ』だって!?
 若いからって、バカにしやがって!

 今解決しないと、それこそ若者に、私たちは夢が見られないんだ。
 そのために多少の犠牲はやむを得ないだよ!

 くそ!
 凡人どもめ!
 なぜ理解できない。
 この崇高な発明が!

 『可哀そう』なんて何の意味がある!
 犠牲失くして問題が解決できるものか!

 くそ、このままじゃ、バカたちのせいで何もできやしない!
 私はこの発明で世界を救うのだ!
 なのに誰一人として救えないではないか!
 このままでは、私の夢が叶わなく――

 ん?
 試作機が動作を……?
 どんどんエネルギーを吸収して……

 ……
 …………

 えー、みなさん。
 お知らせがあります。

 えー、私が絶望した結果、莫大なエネルギーが溜まりました。
 エネルギー問題は解決しました。
 私、思っていたより若かったようです。
 ご清聴ありがとうございました。


 世界を救った、五歳の天才科学者の演説より。

12/4/2024, 1:28:33 PM

 今日、久しぶりに幼馴染の順子と再会した。
 仕事帰りに弁当を買おうとコンビニに寄ったら、バッタリ出くわしたのだ。
 順子は子供の頃、『お兄ちゃん、待って』と俺の後ろを付いてきた
 俺もそんな順子の事を、妹の様に可愛がっていた。

 けれど、別れの日は突然だった
 親の仕事の都合で、順子が引っ越してしまったのだ。
 それ以来二度と会うこともなく、俺の中の順子は子供の頃のままだった。

 ところがだ。
 会えないと思っていた順子に、コンビニでバッタリ出逢ったのである
 いったいどんな奇跡だろうか?
 神様の気まぐれはいつも唐突すぎて、本当に心臓に悪い

 けれど久しぶりに会った幼馴染は、思い出の中の彼女と随分と変わっていた。
 そりゃそうだ。
 最期に会ってから10年以上経って、お互いいい大人。
 変わらない方がおかしい。

 だけど不思議なもので、最初こそぎこちなかったけど、すぐに打ち解けることが出来た。
 それから彼女と近況を話し、楽しくおしゃべりした。
 幸せな時間だった。
 けれど楽しい時間はあっという間に過ぎる。
 順子がしきりに時間を気にし始め、タイムリミットが迫っていることを知った。

「そろそろ帰らないと、終電に遅れちゃう」
 悲痛な表情で、俺に告げる順子。
 俺は別れたくない気持ちが高ぶり、『もっと話したい』と喉まで出かかる。

 けれど俺と順子は社会人。
 明日も仕事があるのだ。
 これ以上は引き留めることが出来ない。

 それに会えなくなるわけじゃない。
 会いたければまた会えばいい。
 子供の様に、親の許可は必要ない。
 それが大人だ。

 けれどどうしようもなく、俺は別れを告げるのが辛かった。
 『さよなら』
 たった四文字を言うだけなのに、とても胸が苦しくなる。
 離れ離れになった時の思い出がトラウマになって、別れの挨拶は苦手なのだ。
 女々しいと思いつつも、こればかりはどうしようもない。
 きっとこれからも苦しめられるのだろう。

 俺は切り出せずに口ごもっていると、順子は俺の唇に人差し指を当てた。
「さよならは言わないで」
 寂しそうに順子は呟く。
 順子も、俺と同じ気持ちなのだろうか……
 そう思うと、俺の気持ちも少しだけ救われた気持ちになる。

 だが別れの言葉は言わなければいけない。
 たとえ明日また会おうとも、別れの言葉は必要なのだ。

 俺は覚悟を決め、顔を上げて――
 と思ったら順子がにんまりと笑っていた。

 これは……
 小さい頃の順子がイタズラを思いついた時の顔……
 いったいどんなイタズラをされるのか。
 ビクビクしながら、順子の言葉を待つ。

「今日、お兄ちゃんの部屋に泊まるね」

 ……
 …………はい?

「もうさ、駅まで行く気力ないんだよね。
 ということで泊めて?」
「待て、仕事はどうするんだ?」
「体調不良って事にして有休とるよ。
 全然使ってないから余っているんだよね」
「そうか」
「お兄ちゃんも明日休みなよ。
 お兄ちゃんも有休余ってるって言ってたじゃん?
 それで、またお喋りしよ?」

 悪魔のような提案をしてくる順子。
 仕事の納期とか、迷惑が掛かるとか、いろんな事が頭を駆け巡る。
 順子と仕事。
 どっちを取るか、少し悩んで答えを出す

「分かった」
 どうせ仕事は俺一人くらいいなくても回る。
 なら一日くらいずる休みをしてもいいだろう。

「やったあ」
 俺の答えに満足したのか、順子は嬉しそうにはしゃぐ。
 『気力は無いはずでは?』とは言わない。
 あまりにも無粋だし、それに俺自身が順子と一緒に入れることが嬉しいからだ。

 これで俺と順子の別れは少し先になった。
 別れまでほんの少し猶予が出来たことが嬉しくて、俺は小さくガッツポーズをしたのであつた

12/3/2024, 12:54:40 PM

 草木も眠る丑三つ時。
 住む人間が寝静まったとある民家で、闇に蠢く影があった。
 猫である。
 名前をミケと言う。

 この家で飼われている一歳の猫。
 この家の住人によって蝶よ花よと育てられた、遊び盛りの猫である。

 ミケは時間になると、活発に活動を始めた
 夜は猫の時間。
 昼ならば世界は人間のモノだが、夜では猫のモノだ。

 だが残念なことに、ミケの遊び相手はぐっすりと眠っている。
 これでは一匹で遊ぶしかない。
 と思われるだろうが、ミケの遊び相手はたくさんいる。

 ちょこまか逃げるネズミ、光に集まる小虫、残飯を漁るG。
 どれも活きがよくて、ミケは大好きだ。

 他には家に憑いている幽霊もいるが、ミケは幽霊が好きではない。
 飛び付こうにも、すり抜けてしまうからだ。

 それはともかくミケは遊ぶ。
 今日の設定は、家を侵略する悪者退治。
 主人の役に立つことを妄想し、いつもより張り切るのだ。
 今日も長い戦いが始まる。

 そして始まる運動会。
 家の人間は夢の中。
 誰もミケを止めるモノはいない。

 けれど、何事にも終わりはある。
 空が少しだけ明るくなる時間には、ミケは疲れて遊ぶのをやめてしまった。
 明るい時間は、人間の時間。
 楽しい時間は終わりなのだ。

 良い運動をしたと心地よい疲労感に包まれながら、ミケは餌箱に向かう
 家中を走り回ったミケは、お腹がペコペコだ。
 しかし、餌箱にはご飯が入ってなかった。
 まったく気が利かないと不満に思いながら、ミケは主人の元へと向かう。

 人間が寝ているところへ、抜き足差し足忍び足。
 そして頭に猫パンチ。
 ぺし。
 けれど反応はない。

 ミケは諦めずに、再び叩く。
 ぺしぺし。
 やはり反応はなく、まったく起きる気配がない。

 ミケは、なかなか起きない主人に呆れつつも、三度頭を叩く。
 ぺしぺしぺしぺし。
 けれど人間は起きない。

 ミケは仕方ないと、次の手段を取ることにした
 ジョリジョリジョリ。
 ざらついた猫舌が、人間を襲う。
 そこで人間から呻くような声が!

 だがここで安心してはいけないことを、ミケは良く知っていた。
 なぜならば人間は寝起きが悪い。
 ここで攻撃の手を緩めると、人間は二度寝してしまうからだ。

 ミケは人間を確実に起こすべく、次なる手段、泣き声を披露する。
 だが努力虚しく、人間は寝入ってしまった。

 しかし、ミケは諦めない。
 ご飯がもらえるまで、人間を起こし続ける。
 ミケの長い戦いは、まだ始まったばかりだ。

12/2/2024, 12:42:13 PM

 ハローハロー!
 こちら地球。
 宇宙のどこかにいるキミに話しかけています。

 この放送をキミが聞いているかは、ボクには分かりません。
 キミがどれくらい遠くにいるのかも分かりません

 けれどボクは、キミに呼びかけ続けます。
 どれくらいの距離があるかは分からないけど、きっと届くと信じています


 ボクは、太陽系にある地球という星に住んでいます。
 水と緑が沢山ある、不思議な星です。
 そこでボクたち人間は、いろんなものを作って生活しています。
 いろんな文化や娯楽がたくさんあります。

 キミの星はどうですか?
 ボクは、キミの星に興味があります。
 キミの星の事を聞きたいのです。
 もしこの通信を聞いていたら、お返事ください。

 キミの星は、宇宙を旅することは出来ますか?
 本当はボクの方からキミの所へ行けばいいんだけど、ボクたちはまだ地球を出るのに苦労しています。
 だからキミが宇宙に出れるのであれば、是非地球に来てください。
 会って、たくさんお話ししましょう

 もしかしたらこれを聞いているキミは、返事も出来なくて、宇宙に出れないのかもしれません。
 それは残念ですが、嘆くことはありません。
 なぜならボクがキミに会いに行くからです。

 確かにボクたちは宇宙を旅するのは難しいです。
 けれど、ボクが大人になってとても速い宇宙船を作ります。
 そうしたら、絶対にキミに会いに行きます。
 約束です。

 だからキミはこれだけは知っておいてください。
 キミは一人ではありません。
 ボクとキミは友達です。

 いつか宇宙に出て、キミに会いに行きます。
 では遠い未来に会いましょう。

 ◇

 まだ見ぬ『異星人と会う』という人類の悲願を背負って、旅に出てから一か月。
 無線機からは懐かしいものが流れてきた。

 希望に満ち溢れた幼い『ボク』が、まだ見ぬ『キミ』に送ったメッセージ。
 『キミ』に届くと信じて発信したけれど、結局返事が返ってこなかったけれど、まさか受け取りが僕とは思いもしなかった。

 この宇宙船は光より早く移動できる人類の英知の結晶だ。
 だから理論上、電波に乗せて光の速さで飛んでいくしかない『ボク』のメッセージには追いつけるけど、実際に追いついてみれば驚きしかない。

 僕は無線機を操作して、受信したメッセージを改めて宇宙に発信する。
 科学の進歩は宇宙船だけではなく、無線機の技術にも及んでいた。

 かつて光の速さでしか送れなかったこのメッセージも、今では光より早く送ることが出来る。
 こうしてもう一度発信すれば、ボクが到着する前には『キミ』にメッセージが届いているだろう。

 ごめんね、まだ見ぬ『キミ』よ。
 メッセージはまだ届いてないけれど。
 どこにいるかもわからないけれど。
 一方的な約束だけど。

 ボクは、キミに会いに行きます

12/1/2024, 1:37:07 PM

『泣かないで』
 育児を経験した人間なら、誰もが願ったことがあるだろう。
 いや、育児の習性を持つ動物ですら、願っているのかもしれない。

 赤ちゃんが泣くのは仕事とはいえ、世話をする側にとっては大変な事だ。
 赤ん坊はこっちの事情はお構いなし。
 寝ていようが他の作業をしていようが、ひたすら泣くのだ……

 ただ何事も例外はある。
 泣くことが良い事とされ、赤ん坊たちをこぞって泣かせようとする奇祭がある。
 泣き相撲だ。

 ルールは簡単。
 赤ん坊を向かい合わせて、先に泣いた方が勝ち。
 同時の場合は、泣き声の大きな方が勝ち。
 そんな奇妙な祭事なのだ

 赤ん坊の泣き声によって邪を打ち払い、健康と成長を願う。
 ヤケクソで思いついたのではないかと邪推するものの、そこそこ人気のある行事でもある。
 ともかく、この泣き相撲に我が子を参加させようと、日本各地から泣き上手が集まる。

 その泣き上手の中に、晴太という赤ん坊がやって来た
 去年のチャンピオンで、今年も優勝すべく参加を決めた。
 彼は関係者の期待に答え、決勝戦へと駒を進めた。

 だが彼の最後の相手は、誰もが予想だにしなかった相手だった。
 今回初出場の、ロボ太――超高性能のAIを搭載したロボットだったのだ

 もちろん、ロボ太を参加させるに当たって議論は紛糾した。
 『AI』を赤ん坊に数えていいものなのかと……
 しかし制作者いわく、
 『このAIは生まれて一年です。
 この子にも参加資格はありますよ。
 ありますよね!?』
 とゴリ押し、責任者はしぶしぶ参加を認めた。

 とはいえ、納得いかない人間が多いのも事実。
 新参者に現実を思い知らせてやれと、否が応でも晴太に期待は集まる

 そして決勝戦、二人は顔を合わせた。
 両者は笑顔で土俵に登る。
 そして行司が入場。
 会場は緊張に包まれた。

 そして――
 「はっけよい……

 のこった!」
 行司の掛け声が響き渡る
 観衆が見守る中、注目を集めた二人は――

 笑顔だった。

 晴太は、始めて見たロボットに興味津々。
 ロボ太も、晴太につられ誤作動を起こし、こちらも笑う。

 これには関係者も大慌て。
 泣き相撲は泣いた方が勝ち。
 泣いてもらわないと、勝負が決まらないのだ。

 二人を泣かせようと、鬼のお面を持った大人たちが土俵に登る。
 しかし、二人は泣くどころか大喜び。
 これには誰もが困惑顔である。

 そして一番焦っていたのは行司であった。
 彼はトイレを我慢していたのだ。
 少し遠いトイレに行くかどうか迷い、行かないことを選んだのだ彼だが、早くも後悔し始めていた

 優勝候補の二人の試合は、いつも数秒で決まっていた
 なのですぐ終わるだろうと、我慢して土俵に登ったのが運の尽き。
 勝負は終わりそうにない

 このまま勝負が長引けば、行司は大衆監視のなかで漏らしてしまう。
 もしそうなれば、行司は恥ずかしさのあまり泣いて、泣き相撲の勝者として祭り上げられるだろう。
 それだけは避けたかった。

「ほら泣いて、泣いて」
 行司は必死に赤ん坊に泣くように促す。
 しかし、二人は喜ぶばかり。
 とても泣きそうになかった。

「ほら、泣いて、ね?
 泣いてよ。
 お願いだからさ」 
 行司は泣きそうになりながら、二人を泣かせようと奮闘するのであった

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