G14(3日に一度更新)

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11/18/2024, 1:22:38 PM

「俺、冬になったら結婚するんだ」
 食堂で昼食を取っていたところ、一緒に食べていた同僚の木下が突然変なことを言い出した。
 急なことに心構えが出来ておらず、口に入れていた物を思わず吹き出す。
 僕の昼食が無残に目の前に広がる!

 そんな僕を見て、木下が「汚ねえ」と呟く。
 『誰のせいだよ』と言いたいが後回し。
 僕は言わなければいけない言葉を口する。

「それ、死亡フラグ!」
「……俺も言っててそう思った」
「まったく気を付けなよ。
 結婚しようという人間の発言とはとても考えられないな」

 僕は一息ついて、噴き出した食べ物をティッシュでふき取る。
 僕においしく食べられるはずだったご飯は、ゴミとして捨てられる運命だ……。 
 ああ、もったいない。

「だいたいさ。
 君が結婚?
 『恋人いない歴』=『年齢』の君が?
 冗談だろ」
 木下に恋人がいるという話を聞いたことがない。
 だから嘘か、そうでなければ結婚詐欺のどちらかだ。
 僕が指摘すると、不愉快だったのか木下は眉を寄せてギロリと睨む。

「そっちだって恋人いないくせに!」
「いるよ、心の中にな」
「二次元だろ!
 このオタクめ」
「僕の幸せに嫉妬しない。
 で、どうなのさ」
「いるよ」
「病院行きな」
「喧嘩売ってんのか!?」
「だってさあ……」

 僕が木下の恋人実在説を疑うのは、もう一つ理由がある
 どちらかといえば、こちらの方が大きい。
 木下にそのことを指摘するため、僕は食堂の備え付きのテレビを指さした。

「あれ見て」
 テレビでは天気予報をやっていた。
 テレビの中では、天気のお姉さんが難しい顔をして解説している

『ご覧の様に、来年の四月まで最低気温が15度は下回らることはないでしょう。
 地球温暖化で、冬はもう来ないと考えても間違いありません』
「聞いたか?」

 俺は木下の方をもう一度見る。
「冬はもう来ないんだ。
 気温は上がる一方で、もう下がる事は無い
 だから『冬が来たら結婚』ということ自体が成立しない。
 騙されているか、もしくは遠回しの御断りの言葉だと思うね」
 僕は木下の矛盾をついてやる。
 『泣くかな?』と思ったが、意外にも木下は不敵に笑う。

「そこは大丈夫だ。
 冬は来る」
「なぜそう言い切れる?
 現実逃避かい?」
「俺も断られたかと思った。
 でも彼女は『冬は来る』と保証してくれた」

 木下の言葉に唖然とする。
 おかしいのは木下ではなく、嫁さん(仮)の方らしい。
 いや、それを信じる木下もおかしいか……

「悪いことは言わん。
 別れな」
「今の会話でなんでそうなる?」
「君の言う嫁が、明らかにヤバいからだよ」

 木下は僕の言葉を受けて、一瞬ぽかんとする。
 だがすぐに何かに納得したように、俺を見た。

「言ってなかったけ?
 俺の彼女、宇宙人だよ」
「は?」

 うちゅうじんだよ?
 何言ってんだコイツ。

「彼女の星は、環境汚染の影響で寒冷化しちゃって凄く寒いらしいんだ。
 で、その星と寒さと地球の暑さを貿易してだな――」
「待て待て待て
 全く話が分からない
 どっから宇宙人出てきた!?」
「で、彼女はエリートでな。
 めちゃくちゃ頭いいんだよ。
 でも可愛くて、そのギャップがたまらないんだ」
 何がどうなってるのか?
 どこでフラグが立ったのか、木下は『宇宙人の彼女』のことをベラベラ話始めた。
 目をギンギンに輝かせて、少し怖い
 木下って、こんなにヤバい奴だったのか

「ジョークも可愛いんですよ。
 『食べちゃうぞー』って。
 あ、これが彼女の写真です」

 そう言って木下が見せてくれた彼女の写真を見て、僕は背筋が凍る。
 木下の彼女は、いかにも『人間が主食でござい』といった風貌の宇宙人だったからだ。

 僕が放心していると、テレビが騒がしくなる
『緊急ニュースです!
 政府が宇宙人から接触があったと発表がありました。
 これまで水面下の交渉が行われていたようです。
 また、地球温暖化について解決策があるとのこと。
 今度の動向に注目が集まります』

 この出会いが、人類にとって吉と出るか凶と出るか。
「人間の冬が来ないといいなあ」
 そう思わずにいられないのであった

11/17/2024, 1:09:39 PM

 仕事帰り、いつものように弁当を買いにコンビニへと寄る。
 毎日毎日遅くまで仕事をするので、自炊する気力も時間もない。
 前回早く帰れたのはいつだったか
 もう思い出せない。

 家に帰っては、すぐ布団に入る日々。
 休日は休日で、疲れた体を休めようとやはり一日中寝ている。
 お金があっても、どこにも行けない人生。
 俺の人生とは一体何なのであろう?

 そんな刺激のない人生で、唯一楽しみなこと――それが弁当選び。
 小さな箱の中に作られた、美しい世界。
 それを『どれがおいしいだろう?』と吟味するのが、何よりも充実した時間だ。

 しかし目の前にあるのは、売れ残った幕の内弁当一つだけ。
 今日は仕事が長引き、いつもより遅い時間に来たからだろう。
 選ぶ楽しみがないが、残っている時点で幸運なのだ。
 すっきりしない思いを抱えながら、売れ残った弁当に手を伸ばす。
 だがその手は弁当に届く事は無かった。

「「あ」」
 俺と同じように弁当を取ろうとした女性の手と、俺の手が不意に重なってしまったからだ。

「すいません」
 条件反射で頭を下げる。
 だが女性はなにも言わなかった。
 もしかして怒らせた?
 俺はビクビクしながら女性の顔色を伺うと、女性の方も驚いた顔をしていた。

「もしかして……
 お兄ちゃん?」

 お兄ちゃん?
 だが俺に妹はいない。
 『人違いですよ』
 そう言おうとして、俺は思い出す。
 妹はいないが『お兄ちゃん』と呼ぶ女の子はいたことを。

「もしかして、順子か?」
 小学生の時、仲のいい女の子がいた。
 隣の家に住む3歳年下の女の子で、俺によくなついていた
 その子は俺の事を『お兄ちゃん』と呼び、俺も可愛い妹が出来たみたいで、よく一緒に遊んでいた。

 本当の兄妹みたいに仲の良かった俺たちは、ある日離ればなれになった
 順子の親の海外出張が決まったのだ。
 それ以来、俺たちは出逢うことなく今に至る

「奇遇だね」
「ああ、びっくりしたよ」
「お兄ちゃん、元気だった?」
「仕事が忙しくて、毎日へとへとだ。
 順子はどうだ?」
「私も同じような物かな……」

 順子は力なく笑う。
 子供の頃の、順子のヒマワリのような笑顔の面影はどこにもない
 よく見れば目の下にクマが見える。
 順子も苦労しているようだ。

 けれどそれ以上会話が続かない。
 言いたい事、聞きたいことがたくさんあるのに、なにも出てこない。
 子供の頃、大人が呆れるほどお喋りをしていたというのに、今は世間話すらできない。
 会えなかった空白の時間は、俺たちを他人にしてしまったかのようだ。
 時間は残酷である。

 とはいえ、ずっとこのまま立っている訳にもいかない。
 この気まずい空気を何とかしようと、俺はなんとか言葉をひねり出す。

「弁当を持って行っていいぞ。
 俺は大丈夫だから」
「いいの?
 でもお兄ちゃんは?」
「家に帰れば非常食のカップ麺あるんだ。
 たまにならカップ麺もいいもんさ」
「そっか……
 じゃあ甘えて――
 あれ?」

 順子が間の抜けた声を出す。
 弁当の方へと目線をやると、さっきまであったはずの幕ノ内弁当はどこにもなかった。

 二人で戸惑っていると、レジから『チーン』とレンジの音。
 レジの方を見れば、客が幕の内弁当を受け取っているのが見えた。
 どうやら二人で話し込んでいる間、弁当を取られてしまったらしい

「ふふっ、お弁当取られちゃったね」
 順子がおかしそうに笑う。
 子供の頃と同じ、屈託のない笑顔。
「ああ、取られちゃったな」
 俺もつられて笑う。

「あーあ、どうしよう。
 私、お腹が減って餓死しちゃう」
 と順子が目線を送ってくる。
 ああ、懐かしい。
 これは順子がおねだりするときの顔だ。

「じゃあ、俺のうちに来いよ。
 カップ麺ならある」
「じゃ、お言葉に甘えて」
 順子は俺の腕を取る。
「早くいこう」
 順子は俺を、力強く引っ張っていく。

 これも懐かしい。
 よく順子に引っ張られて、遊びに連れていかれたっけ……
 大抵はろくでもない目に会ったが、今となってはそれも懐かしい。

「分かったよ。
 だから引っ張るな」

 確かに俺たちは長い時間を失った。
 でもそれが何だというのだろう?
 過去は変えられない。
 けれど神様の悪戯なのか、俺たちは再会することが出来た。
 だったら、二人でまた一緒に思い出を作っていけばいい。

 俺が心の中で決意していると、順子はクルリと回ってこちらを見る
「これからもよろしくね。
 お兄ちゃん」
 彼女はヒマワリの様に笑っていた

11/16/2024, 3:35:57 PM

 我輩は子猫である。
 名前はカワイイである。
 チビと呼ばれることもある。

 生まれた時のことは何も覚えていない。
 母とはぐれ、にゃーにゃ―と鳴いていた時、ふと浮き上がる感覚だけは覚えている。
 それ以来、吾輩は何不自由ない生活を送っている。

 人間に拾われたのである。
 その人間は、吾輩にかいがいしく世話を焼いた。
 飯をくれるし、寝床も安全、トイレも清潔にしてくれるし、毛づくろいもしてくれる。
 至れり尽くせりだ。

 しかし不思議にも思う。
 なぜ人間は、吾輩をここまで丁重に扱うのか?
 もしかして、吾輩は特別な存在なのだろうか……

 人間に聞けばよいのだろうが、人間は猫の言葉を話せない。
 心の中にくすぶる疑問は、ずっと吾輩の中でくすぶり続けた。
 長い間謎であったが、ある日答えを得た。

 ◇

 ある暖かい秋の日、窓辺で日向ぼっこをしていると、近所の野良猫がやって来た。
 最近知り合いになった野良猫で、吾輩の話し相手だ。
 名は無く、吾輩はナナシと呼んでいた。

 安全な家よりも過酷な外が好きだという変わり猫であっるが、ものすごく物知りなのである。
 きっと吾輩の疑問に答えてくれると思い、勇気を出して聞いてみた。

「そりゃあれだ。 
 人間は猫の下僕なんだ」

 吾輩は雷に打たれた思いであった。
 なぜ人間は吾輩の世話をするのか?
 たしかに下僕だと考えれば、全て説明がつく

「せいぜい顎で使ってやればいいぜ。
 やつらにとっちゃ、それが喜びなんだからな」

 ◇

 吾輩は人間の膝の上で、ナナシの言った事を考えていた。
 『人間は猫の下僕』
 吾輩の世話を焼くのは、人間が下僕だかららしい。

 前々から、吾輩は特別な存在かも知れないと思っていた……
 しかしナナシと話したことで確信へと変わる。
 やはり吾輩は特別な存在だったのだ

 そしてそんな吾輩を今まで世話した人間には褒美を取らせねばなるまい。
 主人は下僕の働きに報いなければいけないのだ。

 とあることを思い出す。
 人間は吾輩の腹を触りたがる
 正直腹を触られるのは不快なのだが、長年の奉仕に報いなければなるまい。

 という事で、吾輩は立ち上がって膝から離れ、人間の目の前にゴロンと寝転がる。
 そして、これ見よがしに腹を見せる。
 人間よ、今回は特別に腹を触っていいぞ。

 すると案の定人間は嬉しそうにして、吾輩の体中を撫で始めた。。
「あらカワイイ、今日は甘えんぼさんね」

11/15/2024, 4:33:35 PM

 サッ、サッ、サッ。
 私は広い庭で、一人寂しく掃き掃除をしていた。
 掃除しているのは、お金持ちの友人――沙都子の家の庭。
 お金持ちだけあってとんでもなく広い庭。
 かれこれ1時間はやっているけど、先は長そうだ

 一人ぼっちで掃除する私に、時折冷たい秋風が吹きつける。
 比較的薄着の私は、その度に身を震わせる
 こうして私が寒空の下凍えている間、沙都子はきっと暖かい家の中でぬくぬくしているのだろう……
 世の中はなんて不公平なのだろうか?
 あまりにも不公平すぎるから、沙都子は少しくらい痛い目に会えばいいのに!
 
 とは思っても絶対に口には出さない
 私は粛々と掃き掃除をする。

 でも仕方ない
 私が沙都子の家に遊びに来た時、うっかり花瓶を割ってしまったのだ……
 もちろん花瓶も、当然の様に高級品。
 一般家庭の我が家に、弁償なんて出来るわけがない。
 向こうもそれは分かっているので、こうして庭の掃除をすることで手を打ってもらったのだ。
 なんだかんだ言いながら、沙都子は友人思いのいい子である。

 そこまではいい。
 物を壊した自分が悪いので、掃除して済むなら安いものだ。
 それを許してくれた沙都子もいい奴だ。

 けれど問題なのは、今着ている服。
 沙都子に、『掃除するならこれを着なさい』とどこから出てきたのかメイド服を渡されたものである。

 ちょっとだけメイド服に憧れていた私は、ウキウキで着替えたのだけど……
 このメイド服、スカートの丈がちょっと短い。

 慌てて元の服に着替えようとしたけど、時すでに遅し。
 私の着ていた服は回収され、どこかに隠されてしまった。
 酷い嫌がらせだ。

 交渉するも、沙都子はニヤリと笑うばかり。
 こうなったら掃除を済ませて、早く服を取り戻さないと!

 とはいっても普段から掃除行き届いているからか、ゴミらしいゴミは落ちていない。
 せいぜいが現在進行形で落ちて来る落ち葉くらいだ。
 今も掃除ではなく、落ち葉を集めているようなものだけど……
 ……もしかしてこのままサボっても、ばれたりしなかったり?
 そんな事を考えていたのが悪いのか、突然強い風が吹いた

「あっ」
 なんということでしょう。
 集めた葉っぱは、ほとんど飛んで行ってしまいました――

 マジで?

「どうしよう」
 私は目の前にある残った落ち葉の山を眺める。

 もしかして、もう一度集めなおし?
 あの量を?
 嘘でしょ?

 そんなのは絶対嫌だと、私は頭を回転させる
 けれど、どれだけ考えても、華麗な解決策が浮かんでこない。
 諦めるしかないのか?
 そう思いかけた瞬間だった。

「ちゃんとやってるかしら?」
 私にミニスカメイド服を着せた悪魔、沙都子がやって来た。
 沙都子は、風に飛ばされなかった落ち葉の山を見て、ため息をつく。

「あまり進んでないようね。
 サボってたの?」
「違う!
 ちゃんとやってたけど、風が吹いて飛ばされたの!」
「知ってるわ。
 見てたもの」
「知ってて言ったの?
 ……性格わるう。
「雇い主に対する態度じゃないわね」
 沙都子は小渡場こそ私を咎めるが、その顔は満面の笑みだった。

「じゃ、始めましょうか?」
「うん?
 何かするの?」
「決まってるでしょ!
 落ち葉を集めたら、する事なんて決まってるでしょ?」
「落ち葉を集めてすること……?
 まさか!」
「そう!
 焼き芋よ!」
 沙都子はそう言うと、おつきのメイドが持っていたサツマイモを私に見せつける。

「前からやってみたかったのよね」
 沙都子は、まるで小さな子供の様にはしゃいでいた。
 このお金持ちのお嬢様、庶民の遊びに興味津々らしい。
 楽しそうで何より。

「はあ、頑張ってください」
 けれど私は浮かれている沙都子に、私は気のない返事をする
 私はまだ掃除の途中。
 いくらなんでも本人の目の前でサボるわけにはいかない。

「何よ、やる気ないわね」
「え?」
「ほら、あなたの分もあるわ」
 とサツマイモを一つ、手渡される。

「あなた前に言ってたでしょ、焼き芋を焼くのがうまいって。
 私は初めてだから、見本でやってちょうだい」

 ◇

 ある秋の日の、沙都子の家の庭。
 焼き芋を焼いている焚き火が、パチパチと火が音を立てる。
 それをウキウキしながら見守る私と沙都子。
 お互い何も話さず、焚火をじっと見つめている

 普段は騒がしい日々だけど、たまにはこんな日もあっていいよね
 相変わらず冷たい秋風が吹くけれど、そんな事が気にならないくらい楽しい時間だった。

11/14/2024, 1:55:42 PM

 某所、街の真ん中で戦いを繰り広げる者たちがいた。
 正義の味方のジャスティーズと、世界征服を企むワルダクミン。

 ジャスティーズは、赤、青、ピンクのスーツを着た三人組。
 ワルダクミンは、軍服を着た女が一人であった。
 お互いの相容れない目的のため、両者は激突する。

 しかし三対一の戦力差。
 数の有利でジャスティーズに利があると思われたが、意外にもワルダクミン側である軍服の女性が圧倒していた。
 それもそのはず、軍服を着た女はワルダクミンの幹部。
 強さがステータスの組織で、五本の指に入る強者なのだ
 他の雑魚怪人とは比べ物にならないほど強く、ジャスティーズの三人を歯牙にもかけなかった。

「バカな!
 強すぎる!」
 赤色のスーツ男――レッドが悔しさをにじませながら、軍服女を睨みつける。
 そんなレッドを、軍服女は涼しい顔で見下す。

「こんなものですか、ジャスティーズ?
 拍子抜けもいいとこですね」
「くっ」
「ではトドメを差しましょうか?」
「くっ!」
「――といいたい所ですが、今日は見逃してあげましょう」
「どういうつもりだ?」
「もう少し遊んであげたいところですが、時間ですので……
 では皆さん、また会いましょう」

 女性がそう告げると同時に、迷彩柄の高級車が横付けする。
 ワルダクミン幹部専用の送迎者だ。
 女幹部は、ジャスティーズを振り返ることなく車に乗り、その場を去ったのであった。

 ◇

 20分後、電車にて。
 スーツの三人は、座席に座っていた。
 基地に戻るためだ。

 しかし誰も口を開く事は無く、みな下を向いている。
 女幹部との圧倒的差名を見せつけられ、三人は打ちのめされたのだ。

 三人が乗ってから3つの駅を通過したとき、ようやくブルーが口を開く。
「なんなんだよ、あれ」
 ブルーは、重く悲痛な感情を込めてつぶやく。
 思い出すのは、女幹部の去る姿。
 ブルーは悔しさで唇をかむ。

「……やめろ、ブルー」
 だがレッドはたしなめる。
 言葉にしたところで何も解決しないばかりか、余計に惨めになるからだ。
 しかしレッドの言葉は、ブルーには届かない。
 ブルーはさらなる怨嗟の言葉を吐く。

「俺たちは!
 経費削減で電車に乗っているって言うのに!」
「やめろ」
「なんでアイツ送迎があるんだよ!
 こっちは自腹だぞ!!」
「やめろと言ってるだろ!」
 レッドがブルーにつかみかかる。

「分かってんだよ、そんなこと!
 口に出すんじゃねえよ」
「お前悔しくないのかよ!
 こっちは正義なのに、なんでこんなひもじい思いをしないといけないんだよ」
「うるせえよ!
 金が欲しいなら銀行強盗でもすればいいだろ!」
「それ、正義の味方が言っていい言葉じゃねえぞ!
「喧嘩は止めて!」
 レッドとブルーの言い争いに、ピンクが割って入った

「仲間でしょ?
 仲良くしよう」
「「……」」
「私も同じ気持ちよ。
 でも仲間割れしては、敵の思うつぼ。
 こんなときこそ、力を合わせないとね」
 ピンクの言葉に二人はハッとする。
 ピンクの言葉通り、喧嘩している場合ではない。
 それよりも、女幹部に勝つための作戦を考えないといけないのだ。

「……悪い。
 頭に血が上っていた」
「……こっちこそ、怒鳴ったりして悪かったよ」
「うんうん、仲良しで行こうよ」
 レッドとブルーは、仲直りの握手をする。
 彼らの絆は、固く結ばれているのだ!
 
 ◇

 ジャスティーズが固い握手を交わしている間、電車は駅に着いた。
 開いたドアから客が乗ってくるが、その中にジャスティーズの知っている顔がある。
 レッドはその顔を見て、思わず叫ぶ。

「貴様、ワルダクミンの幹部!
 なぜこんなところに」
 さっさ戦った女幹部が電車に乗って来たのである。
 しかし今の彼女は軍服を着ておらず、オシャレな私服に着替えていた

「あら、誰かと思えばジャスティーズの皆さん。
 ごきげんよう」
「余裕だな?」
「そうでもありませんよ。
 あんなに優雅に去ったというのに、すぐに再会してしまいました。
 とても気まずいです」
「ふん、よく嘘をつけるものだ
 貴様何を企んでいる!」
「たくらみも何も、今から旅行に行くところです」
「旅行だと!
 ハッ、騙されんぞ」
「いえいえ、本当ですよ。
 現場から直帰で家に戻りましてね。
 着替えてきたんですよ」
「おいおい、まるで仕事が終わったかのようじゃないか。
 まだまだ戦いはこれからだろう?」
「いえ、ありません。
 勤務時間外、定時ですので」
「「「て、定時だと!?」」」
 レッドは――いやジャスティーズの三人は、驚愕の表情で女幹部を見る。

 ジャスティーズは正義の味方、助けを求められればいつでも駆けつけなければならない。
 そのため、定時越えどの残業はどころか、休日返上もあたりまえ。
 そしてこれから基地に帰っても、報告書を書くためにサービス残業をしなければいけない。
 そんな勤務実態なので、ジャスティーズの三人は、女幹部に嫉妬し始めた

「ふ、ふん。
 それは良かったな
 俺たちは仕事だ。
 お前のいない間、街を平和にしてやろう」
「がんばってください」
「他人事だな。
 しかし、分かっているぞ。
 お前は旅行先でも悪事を働くつもりだろう?
 どこに行くつもりだ!
 言え!」
「草津です
 リラックス休暇で、一週間ほど温泉を楽しむ予定です」
「「「くさつ、りらっくすきゅうか、おんせん?」」」

 聞きなれない言葉に、三人はオウム返しをする。
 女幹部から出てくる数々の新事実に、彼らは打ちのめされる。
 そして、戦いで負けた時よりも、心に深い傷を負った。

『次は、ツギノマチ、ツギノマチーー』
「すいません、次の駅で乗り換えなので失礼しますね」
「あ、ああ」
 レッドはもう食いかかったりしなかった。
 戦いでもプライベートでも、殺到的な差を見せつけられた彼に、そんな気力は残っていないのだ。

 そして電車は駅に着き、ドアが開く。
「では一週間後、また会いましょう」
 女幹部はペコリと頭を下げ、電車を降りていく。
 その様子を三人は、ただ黙って見つめるしかなかった

 ◇

 ついに暴かれた女幹部の秘密。
 圧倒的な強さに、三人は打ちのめされてしまう。
 でも大丈夫。
 三人ならきっと乗り越えられるはず。

 次回、ジャスティーズ

『辞表』

 来週また会いま――え、辞表って何?
 打ち切り!?
 聞いてないよ!

 まって話を―――

<お知らせ>
 この番組は打ち切りになりました。
 次回からは、ワルダクミンが始まります。
 第一話『草津温泉日記』
 お楽しみに
 

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