サッ、サッ、サッ。
私は広い庭で、一人寂しく掃き掃除をしていた。
掃除しているのは、お金持ちの友人――沙都子の家の庭。
お金持ちだけあってとんでもなく広い庭。
かれこれ1時間はやっているけど、先は長そうだ
一人ぼっちで掃除する私に、時折冷たい秋風が吹きつける。
比較的薄着の私は、その度に身を震わせる
こうして私が寒空の下凍えている間、沙都子はきっと暖かい家の中でぬくぬくしているのだろう……
世の中はなんて不公平なのだろうか?
あまりにも不公平すぎるから、沙都子は少しくらい痛い目に会えばいいのに!
とは思っても絶対に口には出さない
私は粛々と掃き掃除をする。
でも仕方ない
私が沙都子の家に遊びに来た時、うっかり花瓶を割ってしまったのだ……
もちろん花瓶も、当然の様に高級品。
一般家庭の我が家に、弁償なんて出来るわけがない。
向こうもそれは分かっているので、こうして庭の掃除をすることで手を打ってもらったのだ。
なんだかんだ言いながら、沙都子は友人思いのいい子である。
そこまではいい。
物を壊した自分が悪いので、掃除して済むなら安いものだ。
それを許してくれた沙都子もいい奴だ。
けれど問題なのは、今着ている服。
沙都子に、『掃除するならこれを着なさい』とどこから出てきたのかメイド服を渡されたものである。
ちょっとだけメイド服に憧れていた私は、ウキウキで着替えたのだけど……
このメイド服、スカートの丈がちょっと短い。
慌てて元の服に着替えようとしたけど、時すでに遅し。
私の着ていた服は回収され、どこかに隠されてしまった。
酷い嫌がらせだ。
交渉するも、沙都子はニヤリと笑うばかり。
こうなったら掃除を済ませて、早く服を取り戻さないと!
とはいっても普段から掃除行き届いているからか、ゴミらしいゴミは落ちていない。
せいぜいが現在進行形で落ちて来る落ち葉くらいだ。
今も掃除ではなく、落ち葉を集めているようなものだけど……
……もしかしてこのままサボっても、ばれたりしなかったり?
そんな事を考えていたのが悪いのか、突然強い風が吹いた
「あっ」
なんということでしょう。
集めた葉っぱは、ほとんど飛んで行ってしまいました――
マジで?
「どうしよう」
私は目の前にある残った落ち葉の山を眺める。
もしかして、もう一度集めなおし?
あの量を?
嘘でしょ?
そんなのは絶対嫌だと、私は頭を回転させる
けれど、どれだけ考えても、華麗な解決策が浮かんでこない。
諦めるしかないのか?
そう思いかけた瞬間だった。
「ちゃんとやってるかしら?」
私にミニスカメイド服を着せた悪魔、沙都子がやって来た。
沙都子は、風に飛ばされなかった落ち葉の山を見て、ため息をつく。
「あまり進んでないようね。
サボってたの?」
「違う!
ちゃんとやってたけど、風が吹いて飛ばされたの!」
「知ってるわ。
見てたもの」
「知ってて言ったの?
……性格わるう。
「雇い主に対する態度じゃないわね」
沙都子は小渡場こそ私を咎めるが、その顔は満面の笑みだった。
「じゃ、始めましょうか?」
「うん?
何かするの?」
「決まってるでしょ!
落ち葉を集めたら、する事なんて決まってるでしょ?」
「落ち葉を集めてすること……?
まさか!」
「そう!
焼き芋よ!」
沙都子はそう言うと、おつきのメイドが持っていたサツマイモを私に見せつける。
「前からやってみたかったのよね」
沙都子は、まるで小さな子供の様にはしゃいでいた。
このお金持ちのお嬢様、庶民の遊びに興味津々らしい。
楽しそうで何より。
「はあ、頑張ってください」
けれど私は浮かれている沙都子に、私は気のない返事をする
私はまだ掃除の途中。
いくらなんでも本人の目の前でサボるわけにはいかない。
「何よ、やる気ないわね」
「え?」
「ほら、あなたの分もあるわ」
とサツマイモを一つ、手渡される。
「あなた前に言ってたでしょ、焼き芋を焼くのがうまいって。
私は初めてだから、見本でやってちょうだい」
◇
ある秋の日の、沙都子の家の庭。
焼き芋を焼いている焚き火が、パチパチと火が音を立てる。
それをウキウキしながら見守る私と沙都子。
お互い何も話さず、焚火をじっと見つめている
普段は騒がしい日々だけど、たまにはこんな日もあっていいよね
相変わらず冷たい秋風が吹くけれど、そんな事が気にならないくらい楽しい時間だった。
11/15/2024, 4:33:35 PM