G14(3日に一度更新)

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11/13/2024, 1:48:24 PM

 探偵とは、イメージと裏腹に地味な仕事である。
 アニメや漫画のような、密室殺人を解決したり、巨大な陰謀に巻き込まれたりはしない。
 ほとんどは浮気などの素行調査で、次点が家でしたペットの捕獲くらいだ。
 派手さはまったくなく、忍耐が要求される仕事。
 それが探偵である。

 とはいえ、探偵も人間だ。
 毎日代り映えしない仕事では退屈するし、人間の闇を見ることも多いので病みやすい。
 適度に気晴らしをしないといけないと、すぐに病気になってしまう。
 そういうわけで、俺は機会があれば積極的にスリルのある仕事を取るようにしている。

 という事で今回のお仕事は――


 ◇

「騙された―!!」
 そう叫んでいるのは、ウチの探偵事務所で雇っている助手である。
 先日、浮気調査の報告書をつくりながら『パーッとしてえ』と言っていたので、
気晴らしにスリルある仕事に誘ったのだが不満らしい。
 到着する前はあれほど浮かれていたというのに……
 何が気に入らないのだろうか?

「先生言いましたよね。
 『今回はスリル満点な仕事』だって!」
「言ったぞ。
 実際スリル満点だろ?」
「ええ、スリルだけはありますね。
 スリルだけは!
 だけど!」

 助手は大きく息を吸って一拍置き、大声で叫ぶ。

「こ ん な ぼ ろ っ ち い 橋 の 上 で 仕 事 な ん て 聞 い て な い ! ! !」

 助手は叫びながら、目の前の橋を指さす。
 そこにあるのは、何時作られたのか分からないくらいボロボロの吊橋だ。
 たまに使う人がいるとかで壊したりはせず、一応補強や修理が入っているらしい
 けれどそれを知ってても渡るのをためらう位には、ぼろい橋である。

「なんだよ、不満なのか?
 もしかしてお前、高所恐怖症か?」
「そうです。
 高い所ダメなんです!」
「なら断れば良かったのに」
「こんなの聞いてないからです」
「お前が聞いてなかっただけだ。
 報酬に目が眩んだだけだろ?」
「それは……」
「『今回は危険な場所だから、日当は倍』を聞いて、勝手に舞い上がったお前が悪い」
「でもでも……」

 助手は往生際悪く、駄々をこねる。
 とはいえ怖いものは仕方がない。
 恐怖というものは、制御不能ななもの。
 気合だけでどうにかなる場合は少ない。

 とはいえ、このまま言い争いをしても仕方がない。
 どうしたものかと考えあぐねていると、助手が突然真顔で俺を見る。

「ねえ、先生?」
「なんだ」
「吊橋効果って知ってます?」
「男女で吊橋を渡ると、仲が深まるってやつか?」
「はい。
 でも知ってました?
 一緒に吊橋を落とすと、さらに仲が深まるんですよ」
「待て!
 それ犯罪で結びついただけじゃんか!
 しっかりしろ!」

 あのクールな助手がおかしくなってる!
 『適度なスリルはクスリになるが、度を過ぎれば毒』というのを、体現したかのようなパニックぶり。
 これ以上はいけない。
 助手は下がらせよう。

「分かったよ。
 作業は俺一人でやるから、そこで座ってろ。
 倍は無しだが、今日の分の給料は払ってやる」
「い、いえ!
 働きます。
 お金がいるんです!」
「お前いつもそうだよな……
 投げ銭だったか、ほどほどにしとけよな……
 はあ、座ってていいから日当を倍に払って――」
「いえ、四倍にしてください。
 そしたら働きます」
「……お前いい性格してんな。
 もう面倒だから払ってやるよ」
「よっしゃあああ!」

 助手は奇声を上げたかと思うと、「怖くない、怖くない!」と言いながら吊橋を渡っていった。
 すげえ!
 金の力で恐怖を克服したぞ、あいつ。

 ちょっと様子おかしいけど、吊橋を見事渡り切って見せる助手。
 あれなら仕事は出来るはずだ、多分。
 ホッと一安心していると、助手が不思議そうな顔をしながらこっちに戻って来た。

「先生、この吊橋で何をすればいいんですか?」
「……この吊橋をイルミネーションで飾り付けるんだよ。
 ほら端っこを持て。
 一緒につけるぞ」


 ◇

 後日談。
 どうにかこうにかして、無事に吊橋をイルミネーションで飾り付けた俺たち。
 張り切る助手が若干怖かったが、綺麗に飾り付けることが出来た。
 依頼人からも満足してもらえたのだが――

「あれ?
 依頼料が振り込まれてない!?」

 依頼側のミスで振り込まれていないお金。
 先方に連絡すると、謝罪と共にすぐに振り込まれたものの、記帳されるまで刺激的でドキドキの時間を過ごしたのであった

 お金にまでスリルを求めてないんだよ!

11/12/2024, 1:37:21 PM

 ここは鳥の国。
 ここでは、様々な鳥が暮らしていました
 食べ物が豊富にあり、天敵はおらず、気候条件も穏やかと、まさに理想郷でした。
 優雅に飛ぶ鳥は尊敬され、一番優雅に飛ぶ鳥が王様になって国を治めていました。

 ですが鳥には空を飛べない物も多くいました。
 そして飛べない鳥たちは、飛べる鳥に馬鹿にされていたのです
 その中でも特に気弱なニワトリは、格好の的でした。

「やーい、鳥のくせに飛べない鳥!
 悔しかったら飛んでみろ!」
「……」
 カラスたちがニワトリに向かって、悪口をいってました。 
 ですがニワトリは言い返しません。
 言い返してもカラスは面白がるだけだからです。
 
「やーい、チキン野郎!」
「!

 ……」
「なんだよ、何も言い返さないでやんの……
 つまんないから、かーえろ」

 そう言ってカラスは飛んでいってしまいました
 ニワトリは、カラスの飛んでいった方をじっと見ます。
 言い返さなったとはいえ、カラスの言葉はニワトリの心をひどく傷つけるものでした
 ニワトリは顔に悔しさをにじませます。

 悲しい事に、これはこの国ではよくある光景です。
 どれだけ理想的な環境でも、いじめは絶えないのです。
 ニワトリは、カラスの言った言葉を反芻させながら、寝床に帰ろうとします
 
 そんなニワトリに、後ろから近づく影がありました。
 ヤンバルクイナです。

「やあ、ニワトリ君。
 元気かい?」
「ヤンバルクイナ君かい……」
「またカラスの奴に酷い事を言われてたね。
 でもカラスのいう事なんて気にする必要は無いよ。
 優雅に飛べない、うっぷん晴らしさ」
「でも飛べるだけ羨ましいよ」
 ヤンバルクイナはニワトリを励まそうとしますが、効果がないばかりかさらに落ち込んでしました。
 ヤンバルクイナは慌てて言葉を続けます。

「ニワトリ君だって、いいところはあるさ」
「でも僕は、数が多いだけのニワトリだよ。
 姿もきれいじゃないし、君みたいに愛嬌もない」
「僕は好きだけどな、君のこと。
 ガンダムみたいでカッコよくない?」
「そんな事を言うのは君くらいだよ」

 ニワトリはヤンバルクイナの言葉にくすっと笑います。
 ヤンバルクイナも、笑ってくれて少し安心しました。

 その後少しだけ言葉を交わし、二匹は自分の寝床へ帰りました。
 そして目を瞑りながら、ニワトリは今日あった事を考えていました。

『やーい、チキン野郎!』
 カラスの言葉を思い出します。
 悔しくて悔しくてたまりません。
 それ以上に、何もできない自分に腹が立ちました。

『ガンダムみたいでカッコいいよ』
 友人のヤンバルクイナの言葉を思い出します。
 この言葉は彼なりの冗談でした。
 しかし荒んだニワトリの心には、何よりの救いでした。

 そしてニワトリは決意します。
 自分を励ましてくれた友人に誇れるようになりたいと。
 ガンダムの様に、強くなりたいと……


 次の日の朝。
 カラスの寝床。
 不機嫌そうにカラスが起きると、寝床から起き上がりました。
「はあ、寝起きだるー。
 眠気覚ましにニワトリでも揶揄うか……
 でもアイツ遠くにいるから、行くのがめんどい。
 あっちから来てくんねえかな――

 ん?」

 その時カラスは、遠くにあるものを見ました。
 カラスの方にに向かってくる、白い影を。

「お、ニワトリじゃねーか。
 本当にあっちから来てくれるなんて。
 お礼にいつもよりも悪口を言ってやらないとな」

 カラスは、ニワトリの襲来に上機嫌でした。
 いったいどんな言葉でなじってやろうか。
 カラスは今か今かと、ニワトリの到着を待ちわびます。

「はー、早く来ねえかな。
 待ちきれねえぜ。
 こっちから行くか――あれ?」

 そこでカラスはおかしい事に気が付きました。
 ニワトリらしき白い影が、とても大きい事に。
 まだ寝ぼけているのかと、目をこするカラス。
 そしてよーーーく目を凝らして白い影を見ます。
 そして

「ガンダムじゃねーか!!!!」

 そうです。
 ガンダムです。
 ガンダムがやってきたのです!

 昨晩の事です。
 ニワトリは、自分を鼓舞するため、友人の言葉を繰り返し口に出していました。
『ガンダムみたいでカッコいいよ』
 何度も何も繰り返し口にして、夜が明け空が白くなってきたころ、ニワトリは確信します。
「僕がガンダムだ」
 そしてニワトリは、自分がガンダムだと思い込みガンダムになりました

 ガンダムへとなったニワトリは、カラスの元へ来たのです。
 ですがカラスにとっては堪ったものではありません。
「ガンダムに勝てるか!
 空に飛んで逃げよう!」
 カラスは大急ぎで空へと羽ばたきます。

「逃がすか!」
 ですが今のニワトリに不可能はありません。
 背中に着いたジェットパックから、ジェットを噴射、空へと舞い上がります。

「バカな!?」
 カラスは、自分を追いかけて来るガンダムを見て仰天します。
 ですが驚いてばかりはいられません。
 カラスはニワトリを撒くべく、全力で逃げ回ります。

 必死に逃げるカラス、それを追いかけるニワトリ。
 力の差は歴然としていました。
 あっという間にカラスは捕まり、お仕置きされてしまいました。

 そして地上。
 カラスが土下座しながらニワトリに謝ります。
「反省してます。許してください」
 カラスに二度と悪口を言わないことを誓わせ、これで一件落着――かに思えました。

 ニワトリの近くに、この国の王であるハヤブサが下りてきたのです
 ハヤブサは、頭を垂れながら、ニワトリに告げます。
「あなたが飛ぶ姿をこの目で見ていました。
 とても優雅な飛行でした。
 あなたこそこの国にふさわしい」

 そうしてニワトリは王冠を授けられ、この国の王様になりました。
 そして飛べる鳥も飛べない鳥も差別しない決まりを作りました。
 そして真っ赤な王冠を被り、今でも良き王として鳥の国に君臨しているそうです。

 めでたし、めでたし。

11/11/2024, 1:40:33 PM

 裏日本
 この国では、古来より怪獣がやって来て街を破壊しに来ていた。
 無論人々は対抗したが、巨大な怪獣の前に手も足も出ず、多くの犠牲を出した。
 そのため、自然災害と同じように限られており、もはやあきらめの境地に達していた。

 そして現代。
 科学技術は発展し、人類が過去で最も繫栄した時代になった。
 そこで今ならできるのではないかと、怪獣の被害を減らすべく対策会議が行われた。
 この会議には、裏日本のみならず、世界中の優秀な頭脳を集め話し合われた。

 だが会議は難航した……
 沢山のアイディアは出るのだが、怪獣が強大すぎるために、どの対策も決定打に欠けた。
 有効なアイディアが出ないまま、会議は数日にも及び、出席者たちに疲れが出始めた……
 そんな時、若き天才から斬新なアイディアがもたらされた。

『ススキはどうだろうか?
 ススキは古来より『魔除け』として信じられてきた。
 ならば、もはや悪魔の化身である怪獣にも効果があるのではないか』

 彼にとってヤケクソの提案だったが、思いのほか参加者たちには受け入れられた。
 もちろん参加者たちは、怪獣に魔除けが聞くとは思ってなかった。
 怪獣は怪獣なのだ。

 だが彼らは疲れていた……
 『早く会議から解放されたい』
 その思いから、このアイディアは採用されることになる。

 その後、ススキの研究に予算が割り当てられた。
 政府も無駄だと思いながら、なにも言わなかった。
 このアイディアを却下したところで、他にはこれといった対策もないからだ。
 こうして、ダメ元でススキの研究が行われることになった。

 遺伝子操作、呪術的な祈祷、あるいは呪い……
 あらゆる実験を経て、ついに魔除けに特化したススキが生み出された。

 それを見計らったかのように、怪獣襲来の一報が入る。
 そこで、効果を試すため実証試験を行うことにした。
 誰もが『無駄だろ』と思いつつもなにも言わない。
 もはやヤケクソであった

 上陸してくる怪獣を、ススキ畑に誘導。
 怪獣がススキ畑に近ずく様子を、関係者は固唾をのんで見守っていた。
 そして運命の瞬間、怪獣は何か見えない壁に阻まれるように、その足を止める
 関係者が経過を見守る中、怪獣はなにも無かったかのように、ススキ畑に足を踏み入れた――

 さて突然だが、ススキがなぜススキが『魔除け』と信じられたかを説明しよう。
 ススキの葉っぱの縁は、のこぎり状になっていていて良く切れるようになっている。
 人間も皮膚くらいなら簡単に切り裂くのだが、この切れ味によって悪いものが近づかないと信じられていた。
 これが魔除けの由来だ。

 話を戻そう。
 この改良されたススキ。
 魔除け効果もさることながら、人間の知らないうちに葉っぱのキレ味もかなりパワーアップしていた。

 そこに足を踏み入れた怪獣は、いったいどうなるのか。
 怪獣の厚い皮を簡単に切り裂かれ、怪獣は痛みで悶絶したのである。
 激痛で怪獣は体制を崩し、体ごとススキ畑に突っ込っこみ……

 お判りであろう。
 怪獣の体はススキの葉で切り裂かれ、多くの血を流して死んでしまったのだ。

 これには関係者もびっくり。
 あまりにスプラッタな結末でひく者も多かったが、撃退は撃退。
 改良型ススキの大量生産が決まり、そして配備することで怪獣撃退に大きな貢献をした。

 こうして怪獣との長きにわたる戦いは終わり、ススキは名実ともに魔除けの草として語り継がれるのであった

11/10/2024, 1:42:57 PM

 俺は今、動かない宇宙船の中で死にそうになっていた。
 昨日、宇宙船でドライブに出かけたのだが、不覚にもガス欠にしてしまったのである。
 周囲には何も無い暗闇の空間、誰も助けに来ることはなく、ただ死を待つのみ――という事ではない。

 宇宙船は動かないものの、予備電源で生命維持装置は動作している
 食べ物だって沢山ある。
 救助も宇宙嵐の影響とかで遅れているが、それまでは予備電源は余裕で持つだろう………

 じゃあ何が俺に死をもたらすのか……
 それは――退屈である。
 俺は今、退屈で死にそうになっていた。

 ドライブに出かける前、俺は宇宙船の中を掃除した
 その時ゲーム類は出して掃除したのだが、中に戻すのを忘れてドライブに出てきたのだ。
 という事でこの宇宙船には娯楽品が無い。
 痛恨のミス!
 過去の自分を殴ってやりたい。

 さっきまで電灯のヒモでシャドーボクシングをしていたがそれも飽きた。
 八時間続けた自分を褒めたいくらいだ。

 星を数えるのも飽きた俺に、時間を潰す手段は残されていなかった。

 もう何も考えたくない。
 頭がどんどんカスミがかかり、思考が鈍っていく。
 どうしようもない倦怠感を感じながら目を閉じる。

 退屈が人を殺す。
 比喩表現で聞いたことがあるが、本当に暇に殺されてしまうとは……
 死の瀬戸際で脳裏に何かが浮かび上がって来た。
 そうか、これが走馬灯――

 ではなく、小さな妖精が煙草を吸っている様子だった。

「なんで?」
 俺が思わず声に出すと、妖精が驚いたように俺を見返した。
 俺たちは見つめ合い、沈黙が流れる
 だがすぐに気を取り直し、俺は妖精に問いかける

「あんた誰?」
 すると、妖精はバツが悪そうにタバコの火を消した。
 ゆっくりと、その妖精らしからぬ苦い顔でこちらを見た。

「えー、ワイはお前さんの走馬灯の制作を担当するオオキや。
 よろしくな」
 妖精が意味不明なことを言い始めた。
 まったく意味が分からないのだが、だけどなぜだろう……
 娯楽に飢えていたのか、妖精の言葉は真実のように思えた

「よろしく……
 えっと走馬灯の制作って言ったよね?」
「……言ったな」
「人間が死ぬ時見る走馬灯は、妖精が作ってるってこと?」
「……そうやな」
 俺が質問するたびに、妖精の顔は険しくなっていく。
 俺が聞きたいことが分かっているのだろう。
 聞いてほしくないだろうが、俺は聞かなければいけない。
 一呼吸おいて、俺は核心をつく質問をする。

「俺、今死にかけているよね。
 それなら俺の頭に走馬灯が流れているはずだけど……
 そんな気配が無いのはなぜ?」
「それは……」
「それは?」

 妖精が目を逸らす。
 そして不承不承といったふうに口を開く。
 
「――――んや」
「え?」
「作ってないんや!
 お前さんの走馬灯、ワイが担当やが、作ってないんや!」
「ええー!?」

 俺は驚きの声を上げる。
 まさかとは思っていたが、本当に作ってないとは……
 
「しかたないやん!
 ワイ、お前さんがこんなに若いうちに死にかけるとは思わなかったんや」
「だからサボっていたと?」
「悪いか!?
 このご時世に死にかけるお前さんが悪い!」

 こいつ開き直りやがった。
 制作してないこいつが悪いのに、なぜこちらが怒られるのか……
 理不尽である。

「という事は、俺は走馬灯を見ないまま死ぬの?」
「それは駄目や。
 反省文なんて書きとうない!」
「そんなん知るか!」

 こいつ、心臓に毛でも生えてんのか?
 反省文なんて知るかよ
 さらなる罵倒の言葉を叫ぼうとしたところで、妖精は俺に問いかけてきた

「物は相談やが……
 死ぬのを止めにせんか?」
「そんなの出来るわけないだろ!
 俺はここで死ぬんだ!」
「まあ、そう言わずに……
 お前さんも若い。
 やり残したこともあるだろう」
「まあ、それは……」
「なら決まりやな。
 そんで、このことは内密に。
 バレたら反省文書かされるからな」
 と妖精は、爽やかな笑顔で笑う。

「まあ、いいけど。
 でもどうするんだよ。
 さっきも言ったけど、死ぬのを止めるのは出来ないぞ」
「安心せい。
 そろそろ迎えが来るから」
「迎えってなんだ「大丈夫ですか」

 ◇

 俺は呼びかけられた言葉にハッとする。
 まるで夢の中から浮上する不快な感覚を感じながら、目を開けると知らない男性が俺の顔を覗き込むように見ていた。

 なんでこの人俺の顔を覗き込んでいるの?
 さっきの妖精はどこ行った?
 というか今何時だ?
 頭にたくさんの疑問が浮かぶ。

「大丈夫ですか?」
 男の問いかけに、訳が分からないままゆっくりと頷く。
 すると男は安心したように笑った。

「良かった、無事で!
 酸欠で倒れてたんですよ」
 酸欠?
 そう言おうとして、口に何かが当てられている事に気づく。
 これ酸素マスクだ。

「宇宙船の生命維持装置が故障していたようです。
 それで酸素が薄くなって、意識を失ったようです」

 俺はそこで自分に何が起こったかを理解した。
 どうやら俺は暇ではなく、酸欠で死にかけていたらしい……
 で、この男の人は、遭難した俺を助けに来てくれた救急隊員ということか。

 どうやらさっきの妖精とのやり取りは夢――というか走馬灯だったようだ。
 それにしてはやけにリアルだったような……
 ダメだ、頭が回らない。
 また瞼が重くなっていく。

 けれど不安はない。
 救急隊員が来てくれたのだ。
 次に目を開けた時は、何もかもが解決している事だろう。

 だが俺が目を閉じたその刹那、脳裏に反省文を書かされている妖精が浮かび、思わず目を開けるのであった

11/9/2024, 3:06:31 PM

 シュッ、シュッ

 宇宙船の中、俺は電灯のヒモにシャドーボクシングをしていた。
 他人がいれば『なんでそんな意味がない事をしているんだ』と言われるだろう。
 けど許して欲しい。
 遭難して以来、他にやることがないのだ

 昨日、ドライブに出掛けたところ、エンストしてしまったのである。
 原因は燃料の入れ忘れ……
 ウキウキで運転していたのに、一気にどん底だ

 設計段階で俺みたいなのが出ると想定されたのか、生命維持装置は非常電源で動く。
 食べ物もたくさんあるので、餓死の心配はない。
 だからそのまま助けを待てばいい。

 そう、問題はない。
 あるとすれば、ただひとつ。
 時間を持て余している。

 普段は何かしらの娯楽物を置いてある。
 だが間の悪いことに、昨日掃除をするため、全部外に出してしまったのだ
 なのでマジですることがなく、こうしてシャドーボクシングに興じている。

「はあ、はあ……
 ふう、いい汗かいたな」
 いい感じに体が暖まったので一息つく。
 ただに暇潰しでやったシャドーボクシング、なかなか楽しいじゃないか。
 このまま世界チャンピオンを目指すのも悪くない。

 備え付けの冷蔵庫から飲み物を取って飲む。
 熱くなった体に、キンキンに冷えた水が心地よい。
 運動のあとの水分は格別だな
 
 時計をみれば、シャドーボクシングを初めて三時間くらい経っていた。
 もうそろそろ助けが来るんじゃないかな?

 だが通信機を見ても、近くに救助が来ている気配はない。
 それだけじゃなく、救助隊からの通信もはいていない。
 これはどう言うことだ?

 俺は腕を組んで少し考えて、あることに気がついた。
「あ、救難信号を出すの忘れてた」

 救難信号出してないのに、助けに来るわけがない!
 ということは、頑張って暇潰ししていたのは全く意味がないってこと!?
 そんな事って……

「違う暇潰しを考えないと」
 俺は弱々しく救難信号のボタンを押すのだった。

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