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 シュッ、シュッ

 宇宙船の中、俺は電灯のヒモにシャドーボクシングをしていた。
 他人がいれば『なんでそんな意味がない事をしているんだ』と言われるだろう。
 けど許して欲しい。
 遭難して以来、他にやることがないのだ

 昨日、ドライブに出掛けたところ、エンストしてしまったのである。
 原因は燃料の入れ忘れ……
 ウキウキで運転していたのに、一気にどん底だ

 設計段階で俺みたいなのが出ると想定されたのか、生命維持装置は非常電源で動く。
 食べ物もたくさんあるので、餓死の心配はない。
 だからそのまま助けを待てばいい。

 そう、問題はない。
 あるとすれば、ただひとつ。
 時間を持て余している。

 普段は何かしらの娯楽物を置いてある。
 だが間の悪いことに、昨日掃除をするため、全部外に出してしまったのだ
 なのでマジですることがなく、こうしてシャドーボクシングに興じている。

「はあ、はあ……
 ふう、いい汗かいたな」
 いい感じに体が暖まったので一息つく。
 ただに暇潰しでやったシャドーボクシング、なかなか楽しいじゃないか。
 このまま世界チャンピオンを目指すのも悪くない。

 備え付けの冷蔵庫から飲み物を取って飲む。
 熱くなった体に、キンキンに冷えた水が心地よい。
 運動のあとの水分は格別だな
 
 時計をみれば、シャドーボクシングを初めて三時間くらい経っていた。
 もうそろそろ助けが来るんじゃないかな?

 だが通信機を見ても、近くに救助が来ている気配はない。
 それだけじゃなく、救助隊からの通信もはいていない。
 これはどう言うことだ?

 俺は腕を組んで少し考えて、あることに気がついた。
「あ、救難信号を出すの忘れてた」

 救難信号出してないのに、助けに来るわけがない!
 ということは、頑張って暇潰ししていたのは全く意味がないってこと!?
 そんな事って……

「違う暇潰しを考えないと」
 俺は弱々しく救難信号のボタンを押すのだった。

11/9/2024, 3:06:31 PM