ここは鳥の国。
ここでは、様々な鳥が暮らしていました
食べ物が豊富にあり、天敵はおらず、気候条件も穏やかと、まさに理想郷でした。
優雅に飛ぶ鳥は尊敬され、一番優雅に飛ぶ鳥が王様になって国を治めていました。
ですが鳥には空を飛べない物も多くいました。
そして飛べない鳥たちは、飛べる鳥に馬鹿にされていたのです
その中でも特に気弱なニワトリは、格好の的でした。
「やーい、鳥のくせに飛べない鳥!
悔しかったら飛んでみろ!」
「……」
カラスたちがニワトリに向かって、悪口をいってました。
ですがニワトリは言い返しません。
言い返してもカラスは面白がるだけだからです。
「やーい、チキン野郎!」
「!
……」
「なんだよ、何も言い返さないでやんの……
つまんないから、かーえろ」
そう言ってカラスは飛んでいってしまいました
ニワトリは、カラスの飛んでいった方をじっと見ます。
言い返さなったとはいえ、カラスの言葉はニワトリの心をひどく傷つけるものでした
ニワトリは顔に悔しさをにじませます。
悲しい事に、これはこの国ではよくある光景です。
どれだけ理想的な環境でも、いじめは絶えないのです。
ニワトリは、カラスの言った言葉を反芻させながら、寝床に帰ろうとします
そんなニワトリに、後ろから近づく影がありました。
ヤンバルクイナです。
「やあ、ニワトリ君。
元気かい?」
「ヤンバルクイナ君かい……」
「またカラスの奴に酷い事を言われてたね。
でもカラスのいう事なんて気にする必要は無いよ。
優雅に飛べない、うっぷん晴らしさ」
「でも飛べるだけ羨ましいよ」
ヤンバルクイナはニワトリを励まそうとしますが、効果がないばかりかさらに落ち込んでしました。
ヤンバルクイナは慌てて言葉を続けます。
「ニワトリ君だって、いいところはあるさ」
「でも僕は、数が多いだけのニワトリだよ。
姿もきれいじゃないし、君みたいに愛嬌もない」
「僕は好きだけどな、君のこと。
ガンダムみたいでカッコよくない?」
「そんな事を言うのは君くらいだよ」
ニワトリはヤンバルクイナの言葉にくすっと笑います。
ヤンバルクイナも、笑ってくれて少し安心しました。
その後少しだけ言葉を交わし、二匹は自分の寝床へ帰りました。
そして目を瞑りながら、ニワトリは今日あった事を考えていました。
『やーい、チキン野郎!』
カラスの言葉を思い出します。
悔しくて悔しくてたまりません。
それ以上に、何もできない自分に腹が立ちました。
『ガンダムみたいでカッコいいよ』
友人のヤンバルクイナの言葉を思い出します。
この言葉は彼なりの冗談でした。
しかし荒んだニワトリの心には、何よりの救いでした。
そしてニワトリは決意します。
自分を励ましてくれた友人に誇れるようになりたいと。
ガンダムの様に、強くなりたいと……
次の日の朝。
カラスの寝床。
不機嫌そうにカラスが起きると、寝床から起き上がりました。
「はあ、寝起きだるー。
眠気覚ましにニワトリでも揶揄うか……
でもアイツ遠くにいるから、行くのがめんどい。
あっちから来てくんねえかな――
ん?」
その時カラスは、遠くにあるものを見ました。
カラスの方にに向かってくる、白い影を。
「お、ニワトリじゃねーか。
本当にあっちから来てくれるなんて。
お礼にいつもよりも悪口を言ってやらないとな」
カラスは、ニワトリの襲来に上機嫌でした。
いったいどんな言葉でなじってやろうか。
カラスは今か今かと、ニワトリの到着を待ちわびます。
「はー、早く来ねえかな。
待ちきれねえぜ。
こっちから行くか――あれ?」
そこでカラスはおかしい事に気が付きました。
ニワトリらしき白い影が、とても大きい事に。
まだ寝ぼけているのかと、目をこするカラス。
そしてよーーーく目を凝らして白い影を見ます。
そして
「ガンダムじゃねーか!!!!」
そうです。
ガンダムです。
ガンダムがやってきたのです!
昨晩の事です。
ニワトリは、自分を鼓舞するため、友人の言葉を繰り返し口に出していました。
『ガンダムみたいでカッコいいよ』
何度も何も繰り返し口にして、夜が明け空が白くなってきたころ、ニワトリは確信します。
「僕がガンダムだ」
そしてニワトリは、自分がガンダムだと思い込みガンダムになりました
ガンダムへとなったニワトリは、カラスの元へ来たのです。
ですがカラスにとっては堪ったものではありません。
「ガンダムに勝てるか!
空に飛んで逃げよう!」
カラスは大急ぎで空へと羽ばたきます。
「逃がすか!」
ですが今のニワトリに不可能はありません。
背中に着いたジェットパックから、ジェットを噴射、空へと舞い上がります。
「バカな!?」
カラスは、自分を追いかけて来るガンダムを見て仰天します。
ですが驚いてばかりはいられません。
カラスはニワトリを撒くべく、全力で逃げ回ります。
必死に逃げるカラス、それを追いかけるニワトリ。
力の差は歴然としていました。
あっという間にカラスは捕まり、お仕置きされてしまいました。
そして地上。
カラスが土下座しながらニワトリに謝ります。
「反省してます。許してください」
カラスに二度と悪口を言わないことを誓わせ、これで一件落着――かに思えました。
ニワトリの近くに、この国の王であるハヤブサが下りてきたのです
ハヤブサは、頭を垂れながら、ニワトリに告げます。
「あなたが飛ぶ姿をこの目で見ていました。
とても優雅な飛行でした。
あなたこそこの国にふさわしい」
そうしてニワトリは王冠を授けられ、この国の王様になりました。
そして飛べる鳥も飛べない鳥も差別しない決まりを作りました。
そして真っ赤な王冠を被り、今でも良き王として鳥の国に君臨しているそうです。
めでたし、めでたし。
11/12/2024, 1:37:21 PM