G14

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 某所、街の真ん中で戦いを繰り広げる者たちがいた。
 正義の味方のジャスティーズと、世界征服を企むワルダクミン。

 ジャスティーズは、赤、青、ピンクのスーツを着た三人組。
 ワルダクミンは、軍服を着た女が一人であった。
 お互いの相容れない目的のため、両者は激突する。

 しかし三対一の戦力差。
 数の有利でジャスティーズに利があると思われたが、意外にもワルダクミン側である軍服の女性が圧倒していた。
 それもそのはず、軍服を着た女はワルダクミンの幹部。
 強さがステータスの組織で、五本の指に入る強者なのだ
 他の雑魚怪人とは比べ物にならないほど強く、ジャスティーズの三人を歯牙にもかけなかった。

「バカな!
 強すぎる!」
 赤色のスーツ男――レッドが悔しさをにじませながら、軍服女を睨みつける。
 そんなレッドを、軍服女は涼しい顔で見下す。

「こんなものですか、ジャスティーズ?
 拍子抜けもいいとこですね」
「くっ」
「ではトドメを差しましょうか?」
「くっ!」
「――といいたい所ですが、今日は見逃してあげましょう」
「どういうつもりだ?」
「もう少し遊んであげたいところですが、時間ですので……
 では皆さん、また会いましょう」

 女性がそう告げると同時に、迷彩柄の高級車が横付けする。
 ワルダクミン幹部専用の送迎者だ。
 女幹部は、ジャスティーズを振り返ることなく車に乗り、その場を去ったのであった。

 ◇

 20分後、電車にて。
 スーツの三人は、座席に座っていた。
 基地に戻るためだ。

 しかし誰も口を開く事は無く、みな下を向いている。
 女幹部との圧倒的差名を見せつけられ、三人は打ちのめされたのだ。

 三人が乗ってから3つの駅を通過したとき、ようやくブルーが口を開く。
「なんなんだよ、あれ」
 ブルーは、重く悲痛な感情を込めてつぶやく。
 思い出すのは、女幹部の去る姿。
 ブルーは悔しさで唇をかむ。

「……やめろ、ブルー」
 だがレッドはたしなめる。
 言葉にしたところで何も解決しないばかりか、余計に惨めになるからだ。
 しかしレッドの言葉は、ブルーには届かない。
 ブルーはさらなる怨嗟の言葉を吐く。

「俺たちは!
 経費削減で電車に乗っているって言うのに!」
「やめろ」
「なんでアイツ送迎があるんだよ!
 こっちは自腹だぞ!!」
「やめろと言ってるだろ!」
 レッドがブルーにつかみかかる。

「分かってんだよ、そんなこと!
 口に出すんじゃねえよ」
「お前悔しくないのかよ!
 こっちは正義なのに、なんでこんなひもじい思いをしないといけないんだよ」
「うるせえよ!
 金が欲しいなら銀行強盗でもすればいいだろ!」
「それ、正義の味方が言っていい言葉じゃねえぞ!
「喧嘩は止めて!」
 レッドとブルーの言い争いに、ピンクが割って入った

「仲間でしょ?
 仲良くしよう」
「「……」」
「私も同じ気持ちよ。
 でも仲間割れしては、敵の思うつぼ。
 こんなときこそ、力を合わせないとね」
 ピンクの言葉に二人はハッとする。
 ピンクの言葉通り、喧嘩している場合ではない。
 それよりも、女幹部に勝つための作戦を考えないといけないのだ。

「……悪い。
 頭に血が上っていた」
「……こっちこそ、怒鳴ったりして悪かったよ」
「うんうん、仲良しで行こうよ」
 レッドとブルーは、仲直りの握手をする。
 彼らの絆は、固く結ばれているのだ!
 
 ◇

 ジャスティーズが固い握手を交わしている間、電車は駅に着いた。
 開いたドアから客が乗ってくるが、その中にジャスティーズの知っている顔がある。
 レッドはその顔を見て、思わず叫ぶ。

「貴様、ワルダクミンの幹部!
 なぜこんなところに」
 さっさ戦った女幹部が電車に乗って来たのである。
 しかし今の彼女は軍服を着ておらず、オシャレな私服に着替えていた

「あら、誰かと思えばジャスティーズの皆さん。
 ごきげんよう」
「余裕だな?」
「そうでもありませんよ。
 あんなに優雅に去ったというのに、すぐに再会してしまいました。
 とても気まずいです」
「ふん、よく嘘をつけるものだ
 貴様何を企んでいる!」
「たくらみも何も、今から旅行に行くところです」
「旅行だと!
 ハッ、騙されんぞ」
「いえいえ、本当ですよ。
 現場から直帰で家に戻りましてね。
 着替えてきたんですよ」
「おいおい、まるで仕事が終わったかのようじゃないか。
 まだまだ戦いはこれからだろう?」
「いえ、ありません。
 勤務時間外、定時ですので」
「「「て、定時だと!?」」」
 レッドは――いやジャスティーズの三人は、驚愕の表情で女幹部を見る。

 ジャスティーズは正義の味方、助けを求められればいつでも駆けつけなければならない。
 そのため、定時越えどの残業はどころか、休日返上もあたりまえ。
 そしてこれから基地に帰っても、報告書を書くためにサービス残業をしなければいけない。
 そんな勤務実態なので、ジャスティーズの三人は、女幹部に嫉妬し始めた

「ふ、ふん。
 それは良かったな
 俺たちは仕事だ。
 お前のいない間、街を平和にしてやろう」
「がんばってください」
「他人事だな。
 しかし、分かっているぞ。
 お前は旅行先でも悪事を働くつもりだろう?
 どこに行くつもりだ!
 言え!」
「草津です
 リラックス休暇で、一週間ほど温泉を楽しむ予定です」
「「「くさつ、りらっくすきゅうか、おんせん?」」」

 聞きなれない言葉に、三人はオウム返しをする。
 女幹部から出てくる数々の新事実に、彼らは打ちのめされる。
 そして、戦いで負けた時よりも、心に深い傷を負った。

『次は、ツギノマチ、ツギノマチーー』
「すいません、次の駅で乗り換えなので失礼しますね」
「あ、ああ」
 レッドはもう食いかかったりしなかった。
 戦いでもプライベートでも、殺到的な差を見せつけられた彼に、そんな気力は残っていないのだ。

 そして電車は駅に着き、ドアが開く。
「では一週間後、また会いましょう」
 女幹部はペコリと頭を下げ、電車を降りていく。
 その様子を三人は、ただ黙って見つめるしかなかった

 ◇

 ついに暴かれた女幹部の秘密。
 圧倒的な強さに、三人は打ちのめされてしまう。
 でも大丈夫。
 三人ならきっと乗り越えられるはず。

 次回、ジャスティーズ

『辞表』

 来週また会いま――え、辞表って何?
 打ち切り!?
 聞いてないよ!

 まって話を―――

<お知らせ>
 この番組は打ち切りになりました。
 次回からは、ワルダクミンが始まります。
 第一話『草津温泉日記』
 お楽しみに
 

11/14/2024, 1:55:42 PM