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「俺、冬になったら結婚するんだ」
 食堂で昼食を取っていたところ、一緒に食べていた同僚の木下が突然変なことを言い出した。
 急なことに心構えが出来ておらず、口に入れていた物を思わず吹き出す。
 僕の昼食が無残に目の前に広がる!

 そんな僕を見て、木下が「汚ねえ」と呟く。
 『誰のせいだよ』と言いたいが後回し。
 僕は言わなければいけない言葉を口する。

「それ、死亡フラグ!」
「……俺も言っててそう思った」
「まったく気を付けなよ。
 結婚しようという人間の発言とはとても考えられないな」

 僕は一息ついて、噴き出した食べ物をティッシュでふき取る。
 僕においしく食べられるはずだったご飯は、ゴミとして捨てられる運命だ……。 
 ああ、もったいない。

「だいたいさ。
 君が結婚?
 『恋人いない歴』=『年齢』の君が?
 冗談だろ」
 木下に恋人がいるという話を聞いたことがない。
 だから嘘か、そうでなければ結婚詐欺のどちらかだ。
 僕が指摘すると、不愉快だったのか木下は眉を寄せてギロリと睨む。

「そっちだって恋人いないくせに!」
「いるよ、心の中にな」
「二次元だろ!
 このオタクめ」
「僕の幸せに嫉妬しない。
 で、どうなのさ」
「いるよ」
「病院行きな」
「喧嘩売ってんのか!?」
「だってさあ……」

 僕が木下の恋人実在説を疑うのは、もう一つ理由がある
 どちらかといえば、こちらの方が大きい。
 木下にそのことを指摘するため、僕は食堂の備え付きのテレビを指さした。

「あれ見て」
 テレビでは天気予報をやっていた。
 テレビの中では、天気のお姉さんが難しい顔をして解説している

『ご覧の様に、来年の四月まで最低気温が15度は下回らることはないでしょう。
 地球温暖化で、冬はもう来ないと考えても間違いありません』
「聞いたか?」

 俺は木下の方をもう一度見る。
「冬はもう来ないんだ。
 気温は上がる一方で、もう下がる事は無い
 だから『冬が来たら結婚』ということ自体が成立しない。
 騙されているか、もしくは遠回しの御断りの言葉だと思うね」
 僕は木下の矛盾をついてやる。
 『泣くかな?』と思ったが、意外にも木下は不敵に笑う。

「そこは大丈夫だ。
 冬は来る」
「なぜそう言い切れる?
 現実逃避かい?」
「俺も断られたかと思った。
 でも彼女は『冬は来る』と保証してくれた」

 木下の言葉に唖然とする。
 おかしいのは木下ではなく、嫁さん(仮)の方らしい。
 いや、それを信じる木下もおかしいか……

「悪いことは言わん。
 別れな」
「今の会話でなんでそうなる?」
「君の言う嫁が、明らかにヤバいからだよ」

 木下は僕の言葉を受けて、一瞬ぽかんとする。
 だがすぐに何かに納得したように、俺を見た。

「言ってなかったけ?
 俺の彼女、宇宙人だよ」
「は?」

 うちゅうじんだよ?
 何言ってんだコイツ。

「彼女の星は、環境汚染の影響で寒冷化しちゃって凄く寒いらしいんだ。
 で、その星と寒さと地球の暑さを貿易してだな――」
「待て待て待て
 全く話が分からない
 どっから宇宙人出てきた!?」
「で、彼女はエリートでな。
 めちゃくちゃ頭いいんだよ。
 でも可愛くて、そのギャップがたまらないんだ」
 何がどうなってるのか?
 どこでフラグが立ったのか、木下は『宇宙人の彼女』のことをベラベラ話始めた。
 目をギンギンに輝かせて、少し怖い
 木下って、こんなにヤバい奴だったのか

「ジョークも可愛いんですよ。
 『食べちゃうぞー』って。
 あ、これが彼女の写真です」

 そう言って木下が見せてくれた彼女の写真を見て、僕は背筋が凍る。
 木下の彼女は、いかにも『人間が主食でござい』といった風貌の宇宙人だったからだ。

 僕が放心していると、テレビが騒がしくなる
『緊急ニュースです!
 政府が宇宙人から接触があったと発表がありました。
 これまで水面下の交渉が行われていたようです。
 また、地球温暖化について解決策があるとのこと。
 今度の動向に注目が集まります』

 この出会いが、人類にとって吉と出るか凶と出るか。
「人間の冬が来ないといいなあ」
 そう思わずにいられないのであった

11/18/2024, 1:22:38 PM