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11/6/2024, 1:34:48 PM

 夜空を走る一筋の光。
 それを皮切りに、次々と光が走る
 流星群である

 人々は、暗闇のカーテンで行われる光のショーに目が釘付けだ。
 だが人間は気づかない。
 流れ星の一つが、不自然な軌道を描いている事を。
 それは地球外生命体――宇宙人の来訪を意味していた。

 人知れず地球にやってきた宇宙船は、誰もいない山に降り立つ
 宇宙船の扉は音もなく開き、その中から宇宙人――タコのような形をした二人の火星人が出てくた

「うまくいったな」
「はい、銀河連邦に動きはないようです」

 銀河連邦……
 この宇宙の平和を守る治安組織である。
 地球人は知る由もないが、地球は『未開の星』として、許可のない渡航を禁止されている。

 しかし、この火星人たちは許可を得て地球に来たわけではない。
 流星群に紛れて、銀河連邦の目を欺きこの地球にやって来た
 火星人たちは密航者なのだ。

 彼らはなぜ許可を取らないのか……
 それは彼らには、口に出すのもおぞましい目的があったからだ。
 絶対に許可が下りないことを分かっての、密航なのである。

「タイムリミットは、流星群が離れる8時間後です。
 手早く済ませましょう」
「そう急かすな。
 『アレ』は逃げたりはしない」

 上官と思わしき火星人が、獰猛な笑みを浮かべる。
 その飢えた目は、人間が見たならば腰を抜かして失神するだろう。
 彼の顔は、自身の悪意をそのまま表したようだった。

 しかし、このまま目的地に向かえば、騒ぎになることは明白。
 その騒ぎは察知され、すぐさま銀河連邦がやって来るだろう。
 そうなれば目的どころではない。
 彼は地球人に擬態するため、プログラムを作動させる。

「翻訳システム起動、擬態システム起動。
 動作チェック、オールグリーン
 ……これで、どこからどう見ても地球人にしか見えません」
「よろしい、では行こうか」
 そして彼らは目的にに向かって歩き出す。

「ですが少し遠いですね。
 現地の交通機関を使いましょう」
「そうだな」
 地図を確認し最寄駅へ向かう。
 そこから新幹線に乗り、乗り継ぎで電車を乗る……
 そうして辿り着いた場所は――

「ついに来たぞ、道頓堀。
 食の聖地!」
 上官の火星人が感極まって、喜びの声を上げる。
 周囲の地球人に不審な目を向けられるが、二人は気づかない。
 ついに念願の物が手に入る高揚感でいっぱいだからだ。

 そして火星人は冷静さを装いつつ、目的地で合言葉を発する。
 
「大将、二人分くれ」
「あいよ」

 そうして火星人たちは、作り立てのたこ焼きを受け取った。
 そして鰹節が踊るたこ焼きに少し息を吹きかけ、火傷しないよう口に放り込み――

「うまい!
 やっぱり同族の共食いは最高だ!」

11/5/2024, 1:32:28 PM

 金曜日の夕方、働いている探偵事務所で私は事務作業をしていた。
 私は万全の状態で週末を迎えるべく、一人で書類を黙々と処理する。

 この事務所で働くのは、事務所の主である先生と私だけ。
 そして先生は浮気調査でいないので、必然的に私がするしかないのである

 この書類を片づけない限り帰れないのだが、この調子なら定時で帰れそうだ。
 書類をためた先生を恨みつつ、書類をさばいていると、外回りから先生が帰って来た。

「先生、お帰りなさ――」
 私の言葉が止まる。
 なぜなら仕事から帰って来た先生が、中学生くらいの子供を連れていたからだ。
 『誘拐』の二文字が頭をよぎる。
 だが先生にそんな度胸があるわけがないと自分に言い聞かせ、思考を切り替える

 基本的に子供が探偵事務所に来ることはない。
 我が事務所に舞い込む依頼の多くは、浮気調査だからだ。
 たまに子供からペット探しの依頼が来るが、それくらい。
 しかしこの子は、ペット探しを依頼に来たようには、とても思えなかった。

 ではこの子は誰なのか……
 私は意を決し、先生に尋ねる。

「先生、その子は誰ですか?」
 私の問いかけに、先生はニヤリと笑う。

「ああ、こいつはな――」
「初めまして!
 アナタが師匠の助手ですね?
 僕は師匠の弟子の武田と言います」
「弟子!?」

 思わず、言葉をオウム返しで返す。
 こんな底辺をうろついている探偵に弟子だって!?
 信じられない……

「先生、子供を騙して何が目的ですか?
 やっぱり誘拐!?」
「人聞きの悪い!
 俺の人徳に惹かれてだな――」
「師匠となって何を教えるのですか?
 さすがにこの年頃の子に、大人のドロドロとした事情を教えるには早いと思うんです」
「話を聞けよ!
 コイツは探偵としての弟子じゃない」
「じゃあ、何の弟子ですか?」
「ハードボイルドの弟子だ」

 「はあ?」と変な声が、私の口から洩れる。
 ハードボイルドの弟子?
 何言ってんだ、コイツ……

「先生みたいな『なんちゃってハードボイルド』に憧れる人なんていませんよ」
「失礼だな、お前!
 俺のハードボイルドっぷりは日本一だぞ。
 その証拠に武田が弟子入りしただろ?」
「はい、師匠は素晴らしいハードボイルドです。
 先日見た哀愁を誘う背中を見て憧れました。
 それで今日、勇気を出して弟子にしてもらいました」

 哀愁を誘う背中ねえ。
 この前、依頼料を払ってもらえなかった時の話かな。
 その時ばかりは、私も哀愁を漂わせていたと思う。
 だってボーナス減るんだよ!

「助手よ、納得したな?」
「納得してませんけど……
 今依頼来てませんし、私の事務作業の邪魔をいいんじゃないですかね」
「よし、助手の許可が出た!
 武田続きをするぞ」
「はい、師匠!」

 そう言うと二人は何やらポーズを取り始めた。
 やり取りを見るにハードボイルドの特訓らしい……
 だけど詳しくない自分でも『それは違うだろ』と。
 でも指摘はしない。
 書類を済ませるのが優先だ。

 先生は仕事をしないのかって?
 ダメダメ。
 あの人は逆に事務仕事できないばかりか、仕事を増やすんだ。
 ああして遊んでくれてた方が、仕事が捗る。

 それにしても、ノリノリでやってるなあ。
 『男はいくつになっても子供』とよく言われるが、まさにそれを体現したかのようなはしゃぎっぷり。
 武田君も見る目が無いと思うが、ああいうのに憧れる年頃なのだろうか……

 止めるべきかもしれないが、私は武田の家族ではない。
 それに悪い大人に引っ掛かるのもいい経験になるだろう。
 その点、先生は比較的無害なので問題ないはず。
 放っておこう、私に仕事がある。
 
 私は意識を切り替えて机に向かう。
 少々うるさいけど、邪魔というほどではない。
 粛々と事務作業をしよう。

 一時間後。
 私は書類を片づけ、定時になって未だ騒ぐ二人を尻目に帰路につくのであった


 □

 連休が明けていつものように出勤すると、事務所の雰囲気がいつもと違った
 先生は泣きながら飲まない酒を飲んでいる。
 そして昨日いたはずの武田君はどこにもいない。
 何かあったのは明白だった。
 正直聞関わりたくないが、放っておくも酷だと思ったので、武士の情けで聞くことにした

「先生、なにかあったんですか?」
「あいつ、裏切ったんだよ」
「というと?」
「あいつは……
 あいつは……」
 先生は鼻をすすりながら、再び酒を煽る

「昨日、一緒にハードボイルド修行していたのにさ。
 女の子に『ダサい』と言われて止めやがった」
「はあ」
「若い者は根性がない!」
「はあ」

 めんどくさいので生返事を返すが、先生は気にも留めた様子はない。
 どうするかな、これ。
 仕事になりそうにないから帰りたい……
 でもこの状態の先生を放って帰るのもな……

「ハードボイルドはダサくない!」

 酔っ払い相手の特別手当出ないかなあ。
 先生の哀愁を誘う背中を見て、私は大きくため息をつくのだった。

11/4/2024, 1:09:41 PM

 朝顔を洗っていると、鏡に自分が映ってないことに気が付いた。
 目の錯覚かと思って目をこする。
 けれど、鏡の中の自分はどこにもいない。

 漫画の中でしか見ないような異常事態。
 あまりの非常識に、眠気がすべて吹き飛ぶ。

 パニックになりながらも、心当たりを探してみる。
 昨日を事を思い出そうとして……
 ダメだ、酒を飲みすぎて何も記憶が残ってない

 自分は毎日代り映えしない生活を送っているから、何かあるとしたら昨日である。
 早く思い出して原因を突き止めて解決しないと、困ったことになるぞ。

 困ったことになる……?
 困ったことに……?

 ……
 …………
 困らないな。

 うーん、鏡に映らなくなったところで、なにか不便なことがあるのだろうか?
 自分はオシャレしないので、鏡を見る習慣がない。
 顔を洗うため、一応毎朝目にはしているのだけど、意識の中に入ってない。
 つまり見ていないに等しい。

 そういえば、久しぶりにちゃんと鏡を見た気がする。
 『結構前から映ってません』と言われても、反論できない程度には鏡を見ていない。
 という事は困らない?

 よし解決!

 最初は何事かと思ったが、なんてことはない。
 そもそも鏡を使わないのだから問題ない。
 鏡に映らなくたって、生きていけるさ。

 なんなら『鏡に映らない系』でネットで売り出すか?
 いや、CGと言われるのがオチか……
 それに映らないからなんだっていう……
 まてよ、吸血鬼って鏡に映らないから、吸血鬼って言う設定で売りだし――

 そこでハッとした。
 そういえば、吸血鬼は噛むことで仲間を増やすと聞いたことがある。
 もし知らないうちに噛まれていたら……

「まさかね」
 不安を誤魔化すように、ぶつぶつ言いながら首筋に手を伸ばす。
 そこには何かに噛まれたような傷があるのであった

11/3/2024, 3:29:40 PM

「ふう、やっと寝てくれた」
 私の前にいるのは、すやすやと眠る小さな息子。
 さっきまでゴジラのごとく暴れまわっていた彼だが、ようやく大人しくなってくれた。

 自分も一緒にひと眠り――と言いたいところだけど、私は寝ることは出来ない。
 眠りにつく前に、やらないといけない事があるのだ
 部屋の片づけ、皿洗い、風呂掃除。
 ああ、旦那の晩飯の準備をしとかないと

 やることがたくさんだ。
 さっさと終わらせてしまおう。

「キャー」
 突然外から聞こえる乙女の悲鳴。
 大変だ、助けないと!

 誰かが助けを求めるなら、私の出番。
 なぜなら私は正義の味方、ママ仮面!
 家事の前に、一仕事だ。

 私は息子を起こさないように外に出る。
 声の主は家を出てすぐの所にいた。
 今まさに化け物に襲われそうになっている女の子が!

「危ない!」
 私は全力で走り寄り、怪物を殴り飛ばす。
 私に殴られた化け物は、吹き飛んで塀に打ち付けられた。
 もう動かない
 コレで大丈夫だ。
 
「あなた大丈夫?
 けがはない?」
「ママ仮面、ありがとうご――後ろ!」
「はっ」

 女性の声で振り向く。
 するとすぐ後ろに、吹き飛ばしたばかりの怪物が私に体当たりをしようとしていた。

 防御が間に合わない!
 私は覚悟して防御の態勢を取り――しかし、衝撃が来なかった。

「無様だな、ママ仮面」
「その声は!」

 防御の態勢を解き怪物を見る。
 そこにいたのは、怪物を組み伏せた子供――オムツ男爵がいた。

「助かったわ。
 オムツ男爵」
「一つ貸しだぞ」
 そういうと、オムツ男爵は身を翻しどこかへと去っていった。

 オムツ男爵。
 謎の子供貴族……
 私がピンチになると、颯爽と駆けつけてくる謎の存在……
 怪物退治という目的こそ共通しているが、彼の真の目的は別のように思える。

 奴は一体何者なんだ。


 ◇

「いったいZzz なにものZzz」
「よく寝ているなあ」

 仕事が終わって家に帰ると、リビングで息子と妻がぐっすり寝ていた。
 テレビはヒーローものの番組が映されている。
 一緒に見ているウチに、そのまま一緒に寝てしまったに違いない。

 この様子だと、他の家事は終わってないだろう。
 起こすのは忍びないので、自分が代わりに家事をすることにする。
 普段は妻に任せっきりだが、たまには自分がやるのもいいだろう。
 俺はテレビの電源を切って、ズレていた毛布を妻と息子にかけなおす。

「おやすみなさい、良い夢を」
 そのまま音を立てないよう離れ、まずは台所に向かうのであった

11/2/2024, 3:28:53 PM

「あのボタン、本物だったのか……」
 一分前の自分を恨みながら、僕はため息をつく。
 怪しい男に差し出された怪しいボタン。
 僕はお金につられ、何の疑いもなく押してしまった。
 過去の自分を殴りたい。

 僕が押したボタン、それは五億年ボタンとよばれるものだ。
 ボタンを押すと100万貰えるが、誰もいない異世界に飛ばされて五億年過ごすはめになる魔法のアイテム。
 五億年に対して、リターンが100万円。
 タイパ悪いにもほどがある。

 そして五億年過ぎた後は、記憶が抹消される。
 つまり、この五億年でなにか悟りやアイディアを閃いたとしても、忘れてしまうのだ。
 つまりこの五億年、真の意味で何の意味もないということ
 これはキツイ!

 と聞いてたんだけど……
 なぜか自分の立っている周辺に、いろんなものが転がっていた。
 なにも無いと聞いていたけど、どういうこと?
 とりあえず、近くにある物を手に取る。

「これは…… 漫画!」
 漫画だった。
 ここ、漫画あるんだ……
 しかも手書きのオリジナル……

 なるほど、この三億年ボタンを押してここに来た人間は他にもいたわけだ。
 そして暇を持て余した奴が、こうして自作していたと。

 それにしてもどうやって作って……
 線が赤い。
 もしかして血で書いたのか!?
 凄い執念だな、おい……
 僕にはそんなことは、とてもじゃないが出来そうにな――

 待てよ。
 それでこの『紙』らしきものは何……?
 まさか人間の皮とか言わないよね、ハハハ……
 忘れよう。

 ま、いいや。
 漫画があるのならある程度は暇つぶしが出来るだろう。
 何もないところで過ごすと思っていたので、これは朗報だ。

 ざっと見た限り、色々な絵柄があるのでいろんな人が書いたのだろう。
 水平線まで本が散らばっている。
 これなら五億年と行かないまでも、結構時間が潰せそうだ。

 これを全部読み切った後は……
 そうだね、先人に倣って漫画でも描いてみようかな。

 僕に絵心はないけれど問題ない
 きっと人気漫画家並みにうまくなるさ
 だって時間なら永遠にあるんだから。

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