G14

Open App

「あのボタン、本物だったのか……」
 一分前の自分を恨みながら、僕はため息をつく。
 怪しい男に差し出された怪しいボタン。
 僕はお金につられ、何の疑いもなく押してしまった。
 過去の自分を殴りたい。

 僕が押したボタン、それは五億年ボタンとよばれるものだ。
 ボタンを押すと100万貰えるが、誰もいない異世界に飛ばされて五億年過ごすはめになる魔法のアイテム。
 五億年に対して、リターンが100万円。
 タイパ悪いにもほどがある。

 そして五億年過ぎた後は、記憶が抹消される。
 つまり、この五億年でなにか悟りやアイディアを閃いたとしても、忘れてしまうのだ。
 つまりこの五億年、真の意味で何の意味もないということ
 これはキツイ!

 と聞いてたんだけど……
 なぜか自分の立っている周辺に、いろんなものが転がっていた。
 なにも無いと聞いていたけど、どういうこと?
 とりあえず、近くにある物を手に取る。

「これは…… 漫画!」
 漫画だった。
 ここ、漫画あるんだ……
 しかも手書きのオリジナル……

 なるほど、この三億年ボタンを押してここに来た人間は他にもいたわけだ。
 そして暇を持て余した奴が、こうして自作していたと。

 それにしてもどうやって作って……
 線が赤い。
 もしかして血で書いたのか!?
 凄い執念だな、おい……
 僕にはそんなことは、とてもじゃないが出来そうにな――

 待てよ。
 それでこの『紙』らしきものは何……?
 まさか人間の皮とか言わないよね、ハハハ……
 忘れよう。

 ま、いいや。
 漫画があるのならある程度は暇つぶしが出来るだろう。
 何もないところで過ごすと思っていたので、これは朗報だ。

 ざっと見た限り、色々な絵柄があるのでいろんな人が書いたのだろう。
 水平線まで本が散らばっている。
 これなら五億年と行かないまでも、結構時間が潰せそうだ。

 これを全部読み切った後は……
 そうだね、先人に倣って漫画でも描いてみようかな。

 僕に絵心はないけれど問題ない
 きっと人気漫画家並みにうまくなるさ
 だって時間なら永遠にあるんだから。

11/2/2024, 3:28:53 PM